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「ゴールドフィンガー」公開60周年記念 ミス マネイペニーよ永遠に

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「ゴールドフィンガー」公開60周年記念 ミス マネイペニーよ永遠に

ミス マネイペニー(Miss Moneypenny): ボンドムービーならではのウィットネス。ある意味ボンドガールよりチャーミングでウィットに富んだレディ、ミス マネイペニーへのトリビュート!

「007」の魅力というのはひとそれぞれで、ボンドカーやボンドガールという人もいれば、風光明媚なロケ地という方もいらっしゃるでしょうし、ファッションやイギリスの文化という方も当然いることと思う。そんな中、僕にとっての魅力は、Qとミス マネイペニーの存在であったといってもよい。

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基本的にはアクション娯楽映画である「007」の中で、Qとミス マネイペニーは、ウィットと暖かさに満ちた、ホッと一息つくことのできる、欠かすことのできない存在であり、この二人がいなければ「007」は今ほどのヒット作にならなかったのではないか、と個人的に思う。そして言うまでもなく、ここでいう、Qこと、ブロースロイド陸軍少佐は、デズモンド リュエリンの演じるQだし、ミス マネイペニーといえば、ロイス マクスウェルの演じる初代のことだ。

ミス マネイペニーは「ロシアより愛をこめて」で登場してから、ロジャー ムーアの最後の出演作である「美しき獲物たち」までを、ロイス マクスウェルが演じ、その後ティモシー ダルトン時代(つまり2作品のみ)にはキャロライン ブリス、ピアースブロスナンの作品においてはサマンサ ボンド(名前もボンドだ)が、それぞれミス マネイペニーを演じた。ダニエルクレイグの「カジノロワイヤル」と「慰めの報酬」では、Qもミスマネイペニーも不在で登場しないまま(だから映画がつまらないわけだ)、スカイフォールからはQをベンウインショーが、ミス マネイペニーをナオミ ハリスが演じるようになって、今のところ最終作品である「ノータイムトウダイ」までをその二人が継続して演じている。

ミス マネイペニーはMの秘書だが、ボンドに想いを寄せている。批判を覚悟で言うならば、Qは飄々としながらもボンドの味方として、ツイードジャケットの似合うお爺さんでなくてはならず、ミス マネイペニーはちょっとあか抜けない格好をしたMの秘書で、ボンドに片思いしながらもいつも成就することなく、でも陰ながらジェームスの身を案じる妙齢の女性でいてほしい。

ジェンダーフリーだか、カラリズムだかなんだか知らないが、QがLGBTで自然食品を愛好していたり、ミス マネイペニーが銃の達人の黒人で、彼氏が夜な夜な家に訪れていたりしているといったような、余計な配慮や設定が映画の展開のノイズになってしまうことはどうかご勘弁いただきたい。

以前にも書いたが「007」は世界中の男子たちの、どうしようもない夢物語で良いのであって、そこに現実問題などを持ち込んだらあっという間に浮世の華やかさは消え去り、重くつまらないストーリー展開になるだけではないか。タキシードを着てドライマティーニを飲みながらボンドカーを乗り回し、秘密兵器を駆使して絶世の美女を抱きながら世界を救う。そんなあり得ないけれども、誰もが夢見る世界を楽しむ単純な娯楽映画であってほしい。映画館を出れば誰もが戻らなくてはいけない現実がそこにはあるのだから、映画館の銀幕の前にいる時間くらいは荒唐無稽な夢を見させてほしいと心から願う。

「ネバーセイネバーアゲイン」のミス マネイペニーはパメラ セーラムさん。と、話は重い方向になってしまったが、前述の4人に加え、実はもう一人ミス マネイペニーは存在する。それは今年の2月21日に80歳で惜しくも亡くなったパメラ セーラムさんである。パメラ セーラムが1983年に出演したショーンコネリーが007を演じる「ネバーセイネバーアゲイン」は、本家本物のボンド作品ではなく、制作も配給もまったくの別会社である。なぜそうなってしまったかの背景を書くとものすごく長くなるので、思い切りはしょって言えば登録商標でもめた二つの会社が、別々の商品を作ったようなもの、であり、実際に1983年、本家のイオンプロダクションはロジャー ムーア主演で「オクトパシー」を封切している。当時はボンド対決と話題になったものだが、結局「オクトパシー」の方が、圧倒的に興行収入が上で、本家の勝ち、となった。

そんな本家の作った「オクトパシー」のボンドガールは、「黄金銃を持つ男」でスカラマンガに殺されてしまったモード アダムスで、同じ映画に二度ボンドガールとして出演しているのは彼女だけである。映画そのものの内容はものすごく緩いし、インドロケが中心となっているためか、なんだかアジアのコメディ映画を観ているような雰囲気の一本ではあるが、僕はそういうギャグ娯楽007映画としての「オクトパシー」がかなり好きである。

「ネバーセイネバーアゲイン」のDVD。さてそんな時期に公開されたショーン コネリー出演、パメラ セーラムがミス マネイペニーを演じる作品は、「ネバーセイネバーアゲイン」と、なんとも意味深なタイトルを持ち、MもブロフェルドもQも出演するが、当然本家とは全くの別役者が演じている。ボンドガールはこの映画がデビュー作となるキム ベイジンガーだが、ボンド役のショーン コネリーに体全身を(お尻さえ触りながら!)、なでなでとマッサージされる場面さえあり、このことからも、この映画がショーン コネリーに忖度して作られたものであることが透けて見える。そんな作品のミス マネイペニーとして抜擢されたのがパメラ セーラムだったが、なぜ彼女が選ばれたかと言えば、ショーン コネリーの強引なまでの推薦であっけなく決まったそうで、その逸話からも映画全体がショーン コネリーによるショーン コネリーのためのボンド映画であることが分かろう。

この「ネバーセイネバーアゲイン」の中で、彼女の演じるミス マネイペニーは本家の流れを組むもので、ボンドに思いをかげながら寄せるという女性を演じている。ところが彼女が登場するシーンは劇中3ヶ所。そのうち一ヶ所はMの後ろで台詞もなく映り込む遠景だし、残り2ヶ所も台詞は合計3つくらいで、トータル出演時間は52秒(実測)。もうちょっと出演してくれて、皮肉っぽい台詞や、ボンドの帽子投げ(決まりの演出)に驚くシーンなどあってもいいのにさ、と思う処遇はあった。

そんな映画の内容自体は、「サンダーボール作戦」の焼き直しだし、当然のことながら本家の「007」に使われている音楽は一切使用することができなかったため、ミッシェル ルグラン(!)がムード音楽のようなゆるいメロディを奏でるなどやや盛り上がらない部分もあるが、なんとなく平日の午後にまったりと観るようなボンド映画としては、なかなか面白いとは思う。ただし緊張感はゼロだし、ショーン コネリーも「歳をとって身体がなまったボンド」というストーリーにそって、なんとなく緩くキム ベイジンガーの身体を嬉しそうにスリスリ触りながら進む、そんなボンド映画である。

蛇足ながらミスター ビーンことローワン アトキンソンも、映画の中で超おマヌケな大使館のスタッフという役柄で、ミスター ビーンみたいなキャラクターのまんま出ているのだが、とにかく「ネバーセイネバーアゲイン」は万事そういう映画であった。

さて初代ミス マネイペニーであったロイス マクウェルは、「ドクターノオ」以来、「「ロシアより愛をこめて」、「ゴールドフィンガー」、「サンダーボール作戦」、「007は二度死ぬ」、「女王陛下の007」、「ダイヤモンドは永遠に」、「死ぬのはやつらだ」、「黄金銃を持つ男」、「私を愛したスパイ」、「ムーンレイカー」、「ユアアイズオンリー」、「オクトパシー」、「美しき獲物たち」まで、14作品に出演し、これは17作品に出演したデズモン ドリュエリンに次ぐ記録であり、破られることは永遠にないだろう。ロイス マクウェルの演じたシーンはどれも楽しく味があり心に残るものだったが、生前に語ったところによれば、彼女は「女王陛下の007」が一番のお気に入りだったと聞く。

結局、ロジャー ムーアが1985年にジェームス ボンド役を引退した「美しき獲物たち」が、同時にロイス マクウェルのマネイペニー役を引退した映画にもなった。その頃のロジャー ムーアがいる007の撮影現場には冗談といたずらが満ちており、常に笑いや駄ジャレ話が絶えなかったという。コンプライアンスなどというつまらない言葉に影響されず、本当に役者もプロデューサーも、映画スタッフ全員が楽しみながら和気あいあいと撮影していた日々、それはなんと素晴らしい時間だったことだろう。そしてそういう雰囲気や空気に包まれていたからこそ、昔の映画は今でもスクリーンで明るく自由に輝き続けているのだと思う。

ユアアイズオンリーにおけるロイスマクウェルの登場シーン。この一輪の花は、亡くなったMを演じた俳優、バーナードリーに向けての花であったと言われている。映画の中においてこういう粋で心温まる演出を描く・・・。本当に良い時代であり、それこそがボンドムービーの魅力なのだと思う。イギリスの文化ともいえる映画を、雑に利益追求方向だけにしてしまったバーバラ ブロッコリには猛反省してほしい。初代ミス マネイペニーであったロイス マクウェルは2007年9月29日にオーストラリアで亡くなった。彼女の訃報を知ったロジャー ムーアは、「彼女は私の幸運の象徴でした。彼女の演じたミス マネイペニーのシーンは14作品合わせても20分にも至らず、台詞もいつも200語以下くらいでしたが、永遠にボンドファンの心に刻まれるでしょう」と心のこもった弔辞を述べた。

ロイス マクウェルは80歳で亡くなったが、これは奇しくも先日亡くなったパメラ セーラムと同じ年齢であった。Text: 大林晃平

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