2008年、E90型BMW3シリーズがフェイスリフトされた。セグメントリーダーとして確実に実績を上げていたE90型も、デビュー以来3年が経過してライバルの受けていた。では、この時、E90型3シリーズはどう変わったのか。今回はドイツの観光地、シュターンベルガー湖畔で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)
新しいもの好きの心をがっちりと捉える計算どおりの変更
2005年の誕生以来、快進撃を続けてきたE90型BMW3シリーズだが、3年目を迎えた現在、メルセデス・ベンツCクラス、そしてアウディA4という2台のライバルを迎えて、欧州の主要マーケットにおけるセールスでは昨年同期比(1~8月)でマイナス20%と、苦戦を強いられている。もちろんBMWとしてはこのような事態はほぼ計算済み。そこで2009年モデルとしてセダンとツーリングのフェイスリフトが発表された。
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晩夏の南ドイツの観光地、シュターンベルガー湖畔に集合した新しい3シリーズだが、そのフェイスリフトはちょっと詳細な説明をしなければならないほど微に入った内容になっている。
まず外観だが、正面のキドニーグリルが大型化され、クーペシリーズのようにボンネットにまでその造形の一部が入り込んだ。そしてこのエンジンフードには、ウインドシールド中央付近から先端のBMWエンブレムに向かってウエッジ上のプレスラインが、パワードームのようにV字型に刻まれている。
さらにバンパー中央下の部分はキドニーを取り囲むようにウエッジシェイプのくぼみが設けられた。またバンパー下両脇のエアインテークに横バーが加わると同時に、ヘッドライトの形にシンクロして目じりがつり上がった形になっている。さらにヘッドライトの形状は変わらないが、デイライトのコロナリングが強調され、さらにウインカーにはLEDライトが採用されている。
サイドに回ると法規に合わせて大型化されたドアミラーが眼に留まる。一方、リアエンドも少なからぬ変更が行われている。まずもっとも目につくのが、これまでのややオーバーサイズ気味だったリアコンビネーションライトが変形L字型デザインになったことである。このBMWの伝統に戻ったテールライトには、やはりLEDテクノロジーが採用されている。また、リアバンパーには新しく2本のラインが加わって、バランスが良くなった。
エクステリアと同様、インテリアの変化に関してもちょっと細かな説明を必要とする。まず、BMWが売りとしてきたiDriveの操作系が改良された。これまでセンターコンソールに置かれていた大きなダイヤルが小型化され、その周囲に合計7個の独立したスイッチが追加された。それらは時計回りに12時の位置から「MENU、TEL、NAV、OPTION、BACK、RADIO、CD」と並んでいる。
BMWは主にドライバーの運転中における補機類の操作を簡単にするため、スイッチの数を減らすというポリシーを進めてきた。その結果、センターコンソールに大きなコントロールダイヤルを置いて、ダッシュボード中央上にあるマルチディスプレイを見ながら、マウス感覚で各種の操作を完了するようなやり方を進めてきたのである。
ところがこのiDriveダイヤル1個では、まずメニューへ戻り、そこからナビやエンターテインメントなど次のカテゴリーを選択し、ようやく目的の項目に達するというように3アクションが必要だった。それを頻度の多い項目、たとえばラジオあるいはナビや電話へのアクセスを一発で完了できるように独立スイッチをレイアウトしたわけである。
一見、後退のような変更であるが、開発担当によれば実際に何度かのフィールドクリニック調査を通じての結果であるという。そこで実際に使ってみると、最初は7個のスイッチが煩雑な気がしたが、すぐに慣れ、確かに一回の操作で目的の項目に達することができた。
ところでいまだに中心にダイヤルが残っているが、これは今度の3シリーズからオプションで用意されている世界初の無制限インターネットアクセスに利用される。すなわち前後左右にマウスのように使って画面のカーソルを動かすことができる。
ちなみにプロバイダーはEDGEというところで、情報伝達スピードはそう速くないが欧州の広範囲をカバーしているために選択された。
続いて、ここに使用されているナビなどのカーインフォーテイメントだが、まずモニターは8.8インチの高画質タイプになり、80ギガバイトの容量を持ったハードディスクが搭載されている。また最近広範囲に使用されているMP3プレイヤーとの接続も可能になった。
ところで、M3に採用されたデュアルクラッチを持つDCT(7速セミオートマチック)だが、残念ながらセダンとツーリングには採用されず、当面クーペとカブリオレの専用装備品となる。そして、セダンとツーリングの6速オートマチックはこれまで通りメカニカルで、ゆえにセレクトレバーも従来通りスティックタイプのままである。
要するに今回の3シリーズフェイスリフトは、旧オーナーをがっかりさせないと同時に、新しいもの好きの心をがっちりと捉えるいう戦略的な構想の上に行われているのである。
ユーロ6もクリア可能な330dを新たにラインアップ
以上のような内容のフェイスリフトだが、318i(143ps)から335i(306ps)までの5種類のガソリン仕様モデルのパワートレーン系に変更はまったくない。したがって、今回の欧州向け試乗会にはガソリン仕様モデルは335iのみが用意されていた。
その6速オートマチックのセレクトレバーは、前に述べたように相変わらずスティックタイプで、少々落胆する。おそらくここで5シリーズ以上のセグメントとの差別化を図ろうとしているのだが、せめて335iセダンくらいは、デュアルクラッチのDCTをオプション設定して欲しかった。
さて、走り出してすぐに伝わってくるエンジンおよび駆動系のスムーズさ、そしてシャープなステアリングフィールには取り立てて大きな変化はない。けれどもほんの数100m走って感じたことは、4世代目に入ったといわれるランフラットタイヤの固い乗り心地が弱まったことである。もちろんドイツの道路事情は欧州の中でもトップクラスなので、この影響もあるだろうが、後でシャシ関係のエンジニアに確認したところ、足まわりの変更はトレッドを広げただけとのことであった。
それゆえにこのフラットで当たりの柔らかな快適性は、ランフラットタイヤの改良の賜物なのだろう。一方広がったトレッドによる好影響はこの日のテストコースの終盤に設定されていたワインディングのヒルクライムで発揮された。もともと3シリーズの回頭性のクイックさは定評があったが、このフェイスリフトバージョンでは、さらにステアリングの手首の動きでノーズがすっとコーナーに向かう。3シリーズを選んで良かったと思う瞬間である。
ところで日本市場でも徐々に動きが出始めたディーゼルエンジン搭載モデルに関してだが、この試乗会には新しい330dも持ち込まれた。
このモデルに搭載されている3L直列6気筒ディーゼルエンジンは、新設計のアルミブロックを持っており、排気量は2993ccと変わらないが、最高出力は14psアップして245ps、最大トルクは20Nm増加して520Nmとなっている。しかもこの状態でユーロ5をクリアするばかりでなく、オプションのオキシダントおよびディノックス・キャタラーザーを装備するブルーパフォーマンス仕様は、2014年から実施が予定されているユーロ6もクリアする排出ガス浄化性能を持っている。
このようにフェイスリフトを受けた新しい3シリーズは、現行世代を超えた将来に向けての対策まで準備して市場に送り込まれたのである。このニュー3シリーズの発売はドイツでは2008年9月から開始された。4ドアサルーンの318iの価格は2万8000ユーロから、同じくツーリングは2万9650ユーロからと、それぞれ価格が発表されている。日本への導入時期については、まだ発表されていない。(文:木村好宏/写真:Kimura Office)
BMW 335i セダン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4531×1817×1421mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1625kg(EU)
●エンジン:直6 DOHCターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●燃費(欧州複合):10.9 km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:5.8秒
※欧州仕様
BMW 335i ツーリング 主要諸元
●全長×全幅×全高:4527×1817×1418mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1705kg(EU)
●エンジン:直6DOHCターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●燃費(欧州複合):10.8 km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:5.9秒
※欧州仕様
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環境や燃費、時代の流れなので仕方ないけど、F系以降はなんだか物足りなさが否めない。