中古車から「使える」ヤングタイマーに移行中? メルセデスの傑作セダン
昨今の1980~1990年代「ヤングタイマー」クラシックカー人気の爆発的な増進にともなって、2000年代初頭までは普通の「中古車」として流通していたクルマたちが、続々とコレクターズカー市場に乗り込んできています。今回はその最たる例として、英国の「アイコニック・オークショネアーズ」社が、2024年6月末にオンライン開催した「The June Online Timed Auction」に出品された、1台の「W124」系メルセデス・ベンツをピックアップ。モデルのあらましと、注目のオークション結果についてお伝えします。
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ミディアムからEクラスへと変身した、ヤングタイマー・メルセデスの傑作とは?
1984年、メルセデス・ベンツは「ミディアム・クラス」の愛称のもと、「190」クラスよりも大きく、「Sクラス」よりも小さなミドルクラスの「W124」系リムジーネ(セダン)を発表。ほどなくエステートワゴン、クーペ/カブリオレ、さらにはホテル送迎用リムジンなど、多彩なボディスタイルを誇ることになる。
このモデルは、同じく名作と称される「W123」系の後継車に相応しく、メルセデスの伝統的なエンジニアリングの価値観がふんだんに盛り込まれていたが、そのいっぽうで新技術の開拓を恐れず、「W201」シリーズからマルチリンク式リアサスペンションを継承し、とくに「T」(エステートモデル)には油圧によるセルフレベリング機構つきのリアサスも選択可能とされていた。
また、同じくW201系をそのまま拡大したようなボディは、この時代にダイムラー・ベンツ本社のデザイン部門を率いていた名匠、ブルーノ・サッコ氏の傑作として知られる。
当初は、2Lまたは2.3Lの4気筒SOHCと3Lの6気筒SOHCからなるガソリンエンジンにくわえ、4気筒2L、5気筒2.5L、3Lのターボディーゼルが用意されたが、いずれもメルセデスの定評ある商品クオリティを備えており、デビュー早々からエグゼクティブからタクシードライバーに至る顧客たちに受け容れられてゆく。
現在の交通事情でも「使える」ネオクラシックカー
1993年に施行されたマイナーチェンジ以降、このシリーズは「Eクラス」として販売されるようになり、以来、この名前は中級カテゴリーのメルセデスでは不変のものとなり、1996年に「W210」系Eクラスに取って代わられるまで、250万台以上のW124が幸せなオーナーのもとで、それぞれの生活や業務を支える存在となった。
そして30年近い時を経た現在、W124は持ち前の頑丈さや、部品供給体制がかなり充実していることも相まって、現在の交通事情のもとでも「使える」ネオクラシックカーとして、日本を含む全世界で今なお実用車としての本分をまっとうしている。
ただしこれほどの台数が生産されたことで、現代においても希少なレア車として認識されることはない。また最上級のクオリティを持つとはいえ、やはり実用車であるという宿命には抗えず、これまでクーペ(C124)でもエステートワゴン(S124)でもないW124リムジーネは、現在においても比較的安価なマーケット価格で推移していたはずなのだが、どうやらその図式も崩れつつあるかに見えてきているのだ。
>>>ネオクラシックを特集したメルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.221を読みたい人はこちら(外部サイト)
落札価格は100万円以下だけど、これはイレギュラーな安値……?
アイコニック・オークショネアーズ社は、2011年に「シルヴァーストーン・オークション」として創業。2023年8月に現在の屋号に改組して再スタートを図ったという、自動車オークションビジネス界では比較的新興勢力ともいうべき会社である。同社では、毎月末に期間限定のオンラインオークションを開催しており、2024年6月のオークションでは20日に入札スタート。1週間後の27日の午後7時に締め切られる設定とされた。
今回の「The June Online Timed Auction」に出品されたW124は、もともとアフリカの某国大使館がイギリス国内で公務に使用するためにオーダーしたもので、グレードは当時の最上級モデルである「300E」。最高出力180psを発生する3LのフューエルインジェクションM103型直列6気筒SOHCエンジンを搭載している。
また、この時代からのメルセデス・ファンには懐かしいベロアのインテリアトリムを特徴とするかたわら、クライメートコントロール(エアコン)やサンルーフのオプションは選んでいない。また、オリジナルの「ベッカー」社製カーステレオが残されている。
いっぽう、このモデルから採用された特徴的な15穴ディッシュ型アロイホイールは、ドイツのマンホールや排水口の蓋に似ていることから「ガリデッケル(Gullideckel)」または「マンホールカバー」の愛称で呼ばれる1980~1990年代メルセデスの視覚的特徴。この個体では、仏ミシュランの良質なタイヤと組み合わされている。
走行距離は約40年間で15万9000キロ
その40年近くにおよぶ生涯で、9万9240マイル(約15万9000km)を走破してきたものの、平均的な日本人ユーザーはまだしも、欧州のメルセデス・ファンならば、きっとこの走行距離でも大したことはないと考えるかもしれない。
車両に添付される膨大なヒストリーファイルには、8万7000マイルまでのサービス履歴が記録されており、そのうち最初の6万8000マイルはメルセデス・ベンツの正規ディーラーで行われたものである。近年ではブッシュやサスペンション・トップなど、足まわりのリペアに大きな費用が投入され、オリジナルの乗り心地を取り戻したばかり。オリジナルの販売パンフレットとブックパック、3つのキーが付属しているとのことであった。
そして今回のオンライン入札に先立ち、アイコニック・オークショネアーズ社と現オーナーは6000ポンド~8000ポンド(約114万円~152万円)という、かつて「中古車」だった時代に比べるとかなり高め、「ヤングタイマー」としてはリーズナブルにも映るエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、6月20日にビッド(入札)が解禁となっても価格は思ったように伸びず、スタートから1週間後、6月27日の締めきりでは5063ポンド、現時点のレートで日本円に換算すれば約97万円という、かなりリーズナブルなプライスのまま落札されることになったのだ。
ただ今回の落札価格は、ブルーノ・サッコ氏が考案したとされるボディサイドの保護プレート、通称「サッコプレート」を持たない初期モデルのミディアム・メルセデスとしては、かなり安価であるのも事実。個体コンディションに問題があるのか、あるいはオークションに起こりがちな「イレギュラーな」事象とも考えられる。
ともあれ、洋の東西を問わず「底値」と呼ばれる時期はすでに脱し、近ごろマーケットに姿を見せるようになったレストア済みのW124セダンでは500万円前後のものも珍しくはなくなっていることから判断しても、まさしく今こそが「中古車」から「クラシックカー」へと移行する過渡期にあることは、ご記憶の片隅に留めておいていただきたいところである。
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激安で買って、賃貸アパート、屋根なし駐車では、身の丈に合わなくて、カッコ悪いべ。