販売台数の実績や、ユーザーからの高い信頼など、かつては「王者」と呼ばれるほど一世を風靡したクルマたちは多い。しかし王座を守ることは非常に難しいのもの。
盛者必衰ともいうべく熾烈な自動車業界のなかで、かつては「王者」としてトップに君臨したクルマがなぜ王座から陥落したのか、その原因に迫ります。
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文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■「キング・オブ・ミニバン」、エルグランドは開発失敗で王座陥落
トヨタはLサイズミニバンのグランビアを1995年に発売したが、売れ行きは伸び悩んだ。それなのに日産が1997年にライバル車の(キャラバン&ホーミー)エルグランドを発売すると、一躍人気車となった。
エルグランドの外観は存在感が強く、エンジンはV型6気筒3.3Lのガソリンと、直列4気筒3.2Lのディーゼルターボを搭載した。
エルグランドの存在は当時としては画期的だった。商用バンベースだったライバルに対して乗用車感覚を足した存在だ
対するグランビアは、エルグランドに比べると外観が大人しく貧弱であった。エンジンも直列4気筒2.7Lのガソリンと、3Lのディーゼルターボだから、動力性能のインパクトでも見劣りした。
この後、グランビアの姉妹車としてグランドハイエース、ボディを5ナンバーサイズに抑えたハイエース・レジアスと姉妹車のツーリングハイエースなどを加えたが、エルグランドには勝てなかった。
そこでトヨタは渾身の開発を行い、2002年にアルファードを発売した。グランビアは後輪駆動だったが、アルファードは前輪駆動に変更されて床の位置を下げ、乗降性、居住性、走行安定性、乗り心地など、機能を幅広く向上させた。
内外装は上質で存在感も強く、クラウンのミニバン仕様という印象を受けた。しかも発売は2代目エルグランドの翌日で、報道発表会には、CMに起用した俳優のジャン・レノを呼んで話題性を盛り上げた。
対するエルグランドも2002年に2代目を発売したわけだが、プラットフォームは初代モデルと共通化されて後輪駆動を踏襲した。
ライバルが室内空間で有利なFFに移行したのに、FRのまま登場した2代目エルグランド。完全にトヨタアルファードにしてやられた状態だった
当時はカルロスゴーン氏が最高執行責任者に就任した3年後で、経営再建に乗り出した時期だから、開発に高いコストを費やすプラットフォームの刷新はできなかった。
加えて2代目エルグランドはフロントマスクなどの外観が不評で売れ行きが伸び悩み、アルファードに大差を付けられた。
さらに2010年に発売された3代目エルグランドは、前輪駆動となったが、全高がアルファード&ヴェルファイアに比べて約100mm低い。外観が貧弱に見えてしまった。
しかも車内の空間効率が低く、1/2列目のシートは快適だが、3列目は背の高いミニバンなのに座ると膝が持ち上がった。
この3列目は前方に倒して畳む方式だから、荷室に変更した時も床が高く、Lサイズミニバンなのに自転車などを積みにくい。これは決定的な欠点で、エルグランドの売れ行きはますます下がった。
つまりエルグランドは、2世代にわたり商品開発で失敗した。逆にライバル車のアルファードは、初代が成功して、2代目は姉妹車のヴェルファイアを加えた。
3代目の現行型はデザインとミニバンの機能を際立たせ、販売面でもエルグランドに大幅な差を付けている。
ちなみに現行ホンダオデッセイは、徹底した低床設計で床の位置を低く抑え、走行安定性が高い。3列目のシートはアルファード&ヴェルファイアよりも座り心地が快適で、多人数乗車時の居住性は国産ミニバンのナンバーワンとなった。
それなのに売れ行きは伸び悩む。全高が1700mmを下まわり、機能は優れていても外観が大人しくミニバンらしさも乏しいからだ。
機能的に見るとクルマの天井は、必要な最低地上高と室内高を確保できれば、低いほど好ましい。しかし売れ行きは、機能と併せてデザインでも大きく変わる。
トヨタは昔から、機能とデザインのバランスの取り方が上手で、ホンダはいまひとつだ。オデッセイ対アルファード&ヴェルファイアの販売競争にも、両社の開発姿勢の違いが大きく影響した。この優劣関係は、将来も変わらないだろう。
また今のホンダは全店が全車を扱い、N-BOXやフリードが売れ筋だから、オデッセイの販売に力が入らない。日産も全店が全車を売る。
この点でもトヨタは、アルファードがトヨペット店、ヴェルファイアはネッツトヨタ店の専売車種で、高価格車だから1台当たりの粗利も多い。販売に力が入り、エルグランドやオデッセイと違って好調に売れている。
■日本市場を半ば見捨ててスカイラインは王座陥落
今の日本車には、海外市場を中心に販売される車種が多い。国内の販売比率は、乗用車メーカーについてはダイハツを除くと20%以下だ。
そのために歴史の長い車種、特にセダンを見ると、かつては日本向けに開発されて売れ行きも好調だったのに、今は陥落しているパターンが多い。
この典型が日産スカイラインだ。初代モデルの発売は1957年だから、1955年に誕生したトヨタクラウンに匹敵する長寿ブランドになる。
1998年に発売された10代目(R34型)までは基本的に国内向けに開発され、高性能モデルのGT-Rも含めて高い人気を得ていた。
しかし2001年に発売された11代目(V35型)は、インフィニティG35として海外でも売るようになった。インフィニティはトヨタのレクサスに相当する日産の上級ブランドだ。
大人気だった4代目スカイライン。オイルショックを受けモータースポーツでの活躍こそなかったが、それでも多くのクルマ好きの憧れであった
12/13代目スカイラインもインフィニティがメインで、ボディが拡大され、国内の売れ行きをさらに下げた。
ちなみにケンメリの愛称で親しまれた4代目スカイラインは、1972年に発売されてヒット作になり、1973年の登録台数は1か月平均で1万3133台に達した。
この台数を2017年の1か月平均に置き換えると、小型&普通乗用車で1位になったトヨタプリウスの1万3409台に迫る。当時のスカイラインは国民的なアイドルで、超絶的な人気車であった。
ところが今は下落が激しく、2017年の1か月平均は243台だ。1973年の2%に過ぎない。今のスカイラインはフロントマスクにインフィニティのエンブレムを装着するなど、海外向けであることを中途半端にアピールしている。
いまや日産のエンブレムを外したスカイラン。インフィニティなのにスカイラン、その矛盾にファンもやきもきしているのだが……
売れ行きの低下も仕方ない。このほか日産では、セドリック&グロリアがフーガになって苦戦する。シーマも海外指向を強めて売れ行きを下げた。
トヨタではセルシオが、レクサスLSとして売られるようになって登録台数が減った。トヨタアルテッツァもレクサスISになって人気を低迷させる。
トヨタカムリも海外向けで伸び悩む。ホンダのアコード、スバルのレガシィB4など、大半の上級セダンが海外重視の車種になり、国内市場を見捨ててしまった。
かつての日本市場では、セダンが王者だったが、今は陥落している。車種ではなく、カテゴリー自体が陥落したのだ。海外でもセダン離れが進むが、日本は特に顕著だ。
■悪路走破性が本格的過ぎて王座陥落 三菱パジェロ
SUVを人気のカテゴリーに押し上げた先駆けが、1982年に初代モデルを発売した三菱パジェロだ。
それまでにも4WDとして、トヨタランドクルーザー、日産サファリ、スズキジムニーなどがあったが、いずれも悪路を走る作業車の位置付けだった。
ところが初代パジェロは乗用車感覚が強く、一般のパーソナルユーザーが購入している。パジェロから4WDの流れが変わり、やがてSUVと呼ばれるようになった。
1980年代には、トヨタハイラックスサーフ、日産テラノ、いすゞビッグホーンなど、オフロード向けのSUVが好調に売れてブームになった。
この流れを受けて、1990年代に登場したのが、トヨタRAV4、ホンダCR-V、三菱RVR、スバルフォレスターといった前輪駆動をベースにしたシティ派SUVだ。
悪路の走破力は、パジェロやランドクルーザーのような後輪駆動をベースにした副変速機付きの4WDを備えるオフロードSUVに負けるが、シティ派SUVは乗用車系のプラットフォームを使う。
現行型パジェロはいまや貴重な本格4WD。しっかり固められたサスのゴツゴツした乗り味も懐かしい。写真のショートボディは製造終了
そのためにオフロードSUVに比べると重心が下がってボディは軽く、舗装路での走行安定性、動力性能、燃費、乗降性、居住性、積載性など、日常的な機能を幅広く向上させた。
その結果、SUVではシティ派のシェアが拡大して今日に至り、オフロード派は売れ行きを下げた。その典型が三菱パジェロだ。
1980年代にはクルマ好きの若年層が多く、景気も良かったから、パジェロでスキーに出かけるのが一種のトレンドになった。これが今では、すっかり廃れてしまった。
それでも先に挙げたハイラックスサーフ、テラノ、ビッグホーンなどは、日本では販売を終えている。そこまで含めて考えれば、パジェロの存続は立派といえるだろう。
SUVの本質ともいえる、悪路走破力を突き詰めた貴重に車種になっている。
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