これはまさに日本の文化が生み出したシエンタとフリード。全長4200mm前後、全幅1695mmの車体に3列シートを収めたコンパクトミニバンは、まるで長屋文化のような存在だ。
※本稿は2023年9月のものです
文/水野和敏、写真/ベストカー編集部、撮影/池之平昌信
初出:『ベストカー』2023年10月26日号
シエンタのデザインは秀逸! スペース効率ならフリード!! コンパクトミニバン2台を辛口評価
■限られたスペースの有効活用は日本人の得意分野!?
フリードもシエンタも、いわゆるファミリーカーで、走行性能をアピールするモデルではないが、、山道を走っても不満はないレベルに仕上がっている
さて、今回は日常生活を支える、日本的なクルマの代表2台をじっくり評価したいと思います。トヨタシエンタとホンダフリード。
この2車は全幅1695mm、4260mm前後という、ひと昔前で言うと、サニー、カローラクラスのサイズに3列シートを押し込み、7人乗りまでも可能にした生活実用車です。
郊外の新興住宅地で、何台も所有していたり、昔からの都心の街中にある狭い通りと車庫の住宅地では、全長4500mm×全幅1700mm程度の大きさは、クルマを持てる大切な要件なのです。
だから、サニーやカローラの大衆車サイズの車型が確立されたのです。
私もサニーやセドリックを担当していた頃は、こうした調査を散々やりました。こうした住宅の事情は、何十年を経ても大きくは変わりません。
だからこそ、シエンタやフリードは、まさに日本の文化と環境が生み出したクルマなのです。狭い中でとても機能的であった「江戸の長屋文化」を思い起こさせます。
長屋文化は日本の素晴らしい効率的な文化です。人口が爆発的に増加した江戸で、限られた面積の町人街で、効率を求めた結果、長屋が生れました。
狭い敷地に、多機能な部屋を配置し、隣人と密接に繋がる関係が保てる、長屋を主体に町人の街が形成されました。日本人の知恵と工夫です。
5ナンバーサイズのコンパクトな車体に3列シートを配置し、7人乗りを実現する。スペース効率を最大限に考慮してパッケージングを作り上げていく、この考え方は日本人のDNAに刻み込まれた長屋文化が背景にあると思えます。
■シエンタのデザインに好印象!
シエンタのデザインは秀逸だと水野さんは高く評価をする。無塗装樹脂パーツの使い方が上手だ
それにしても新しいシエンタは女性ユーザーを狙った雰囲気ですね。対してフリードは男性が高い効率を狙ったミニバンという印象。
今や自動車は男性が選び、購入の決定権は女性が握っている商品です。特にこのような日常の利便性が売りのクルマではその傾向は強く、女性にウケないとダメです。
シエンタのデザイナーはどんな人でしょう? 国産車メーカーにいる一般的な男性デザイナーがこの愛嬌のあるデザインをしたとは思いにくいのです。このデザイナーとお会いして話をしてみたいです。
シエンタの正面顔、バンパーより上はペットのような可愛らしさを演出していますが、バンパーから下はしっかりと踏ん張った、地に足をつけたフォルムを作り出しています。
バランスが上手です。フリードの顔がシャープな目つきで男顔なのと対照的です。
バンパー前端やサイドの艶消しブラック剥き出しの樹脂もいいですね。デザイン的なアクセントにしているのはもちろんですが、車庫入れや狭い道で「ちょっとこすっちゃった」時でも傷が目立ちませんし、交換も部分的で、車体色の色合わせもなく、修理費用も安く済みます。
上手いデザインなので、商用車の「黒バンパー」の安っぽさ感もないです。
■クルマを美しく見せるのは「人の技」
フリードは2列シートのフィットをそのまま、スペース効率のよい3列シートのミニバンに仕上げたクルマです。だからこそ、安定した販売台数を維持し続けているのでしょう。「間違いのない」安心感があります。
細部を見ていくと、シエンタ、作り込みがちょっと雑なところが見えます。エンジンフードとフェンダーパネル、さらにヘッドライトのチリ合わせ。見た目にも隙間が不均一ですし、指で撫でると段差が明確です。
CAD画面では均一な隙間で、パネル間の段差も目立ちません。しかし、実際の製造ではフードパネルの先端角部にはプレス加工用のRが付き、フェンダーとの合わせ部分に裏側まで見える大きな段差ができてしまうのです。
それを見越して補正代を付けた設計図面を描くのがプロの仕事、ノウハウです。そこにコストは不要で、人の技がこのような品質感をグンと高めるのです。この様な処理はベンツが上手い!
フリードはフードとフェンダーのパネル合わせ部に樹脂パーツを合わせて、敢えてラインを斜めに見せることでチリ合わせの誤差を目立たなくしています。これも上手いやり方です。
■空力とデザインを両立させる
シエンタのリアコンビランプはデザイン性だけではなく、空力性能にも考慮した造形となっている
シエンタではドアミラーと側窓の隙間を整流するためにフィンが切ってあります。空力を考えたのでしょうが、まだ甘い。
この手法だと、ドアミラーと側窓に挟まれた狭い空間部分に流速の速い大量の風を吹き抜けさせるので、側窓のガラスとドアサッシュの段差部分や、ドアと車体の隙間部分に、室内の空気を吸い出す負圧が発生します。
霧吹きの、細く絞って風速を上げた部分で水を吸い上げる原理と同じです。
よほど側窓のシーリングをしっかりとしないと、走行時の、ピーという吸出し音や空気抵抗を増やす渦を発生させます。
R35GT-Rでは、この部分に敢えて高さ1cm×長さ10cm程の突起をつけて、事前に予備の渦を発生させて、直撃する流速を落としました。これがサッシュレスガラスでも300km/h走行で、ビュー音がなく空気抵抗も減少させたノウハウです。
シエンタの車体後方はちょっと面白いデザインです。後端部のコンビランプはRを付けた形状にしたかったのでしょう。しかし、ここにRをつけると、車体後方に風が巻き込み大きな渦ができて空気抵抗が増えてしまう。
そこでテールランプの赤いカバー部の形状を盛り上げ、さらに整流フィンもつけてやる。これによって車体側面を流れてきた風の巻き込みを減らして後方に流す工夫をしています。この効果は期待できます。
■ベース車の完成度の高さを感じさせる
シエンタの車体構造はヤリス系だということがエンジンルームを見てもわかります。ヤリスのエンジンルームにかさ上げの部材を追加して、車高が高いシエンタのフードやフェンダーに合わせています。直列3気筒1.5Lエンジンのハイブリッドもヤリス系列共通。
ただし、数センチかさ上げされた部分で、エンジンルームを遮蔽するゴムシールが途切れていて、これではエンジンルームの騒音や熱気がエアコン吹き出し口から室内に入ってきます。
ですが、これは頭がいいですね。ラジエターコア上部に沿うように樹脂製の補強パーツが入っているのですが、よくよく見ると、これが中空構造となっていて、吸気管を兼ねています。
吸気口を吸気ダクトよりも、少し低い位置にすることで、冠水路で水が掛かってもダクトに上げないようにしています。
しかも、これだけ長い吸気ダクトにして、途中にレゾネーターも置いているので、吸気音を効果的に消すことができるので、エアクリーナーも小型化しています。
フリードのエンジンルームを見ると、基本的には先代型フィットの車体構造だということがわかります。オーソドックスで問題はありません。
パワーユニットは1.5L直4エンジンにモーターを組み合わせた7速DCT。発売当初は不具合を出して、ずいぶんと苦労したようですが、今回のDCTのセットはよくできています。
さて室内を見ましょう。フロントドアを開けると……シエンタはフルドアを使っていますね。スッキリしていいです。
ドアトリムはシートと同じ明るいベージュのクロスを使ってアクセントにしています。同じクロスをインパネ上部にも使っていますね。
カップホルダーや小物入れがたくさんあります。このあたり、ファミリーカーとしての使い勝手が配慮されています。
パーキングブレーキは足踏み式ですね。最近はコンパクトカーでもEPBを使うクルマが多いですが、やはりコストです。足踏みだと1500円前後ですがEPBでは3500円以上します。
シートは悪くないです。フィット感がよくて疲れません。クッションがソフトで、体重が軽い女性が座ってもしっくりとフィットします。
ステアリングはチルトだけでなくテレスコもあるので、小柄な女性でも適正なドラポジをとれます。着座位置に対するペダル配置も適正で、変にオフセットすることもなく、踏み間違いを防ぎます。
■3列目を重視するか非常用とするか?
シエンタの3列目はエマージェンシーと割り切って、大人が長時間乗るのはちょっとキツイ
2列目シートに座ると、前席背もたれ裏面にUSBポートがありますね。今どきのクルマ、子ともでもスマホやタブレットの電源は必須ですからね。
2列目シートは座面の前後長がしっかりと長く、座面クッションがソフトなのでお尻が沈み込んでフィット感がいいです。
シエンタの2列目シートは前後スライドします。最前に出しても、膝前にはこぶし1つ半程度の空間があります。3列目に大人が乗車する際は、このポジションになります。充分座れる広さです。
エンジンルームのスペースを大きく取っているシエンタでは、3列目はあくまでもエマージェンシーですが、2列目を一番前に出せばギリギリ膝は収まります。
ただし座面は小さくクッションも薄いので大人が長時間乗るのはちょっとキビシイですが、自宅から近所のファミレスまでみたいな移動だったら充分いけます。
3列目へのアクセスは、2列目シートの背もたれを前倒させると脚のロックが外れてくるりと起き上がります。2列目を前倒させた状態で3列目はフロアにダイブダウンできる構造なのですね。広くフラットな荷室空間ができます。
これはうまく考えましたね。開発陣がワイワイ話し合いながら、限られた空間を最大限に活用する知恵を出し合っているのでしょう。
せっかくいろいろ考えたのだから、三角表示板の収納場所をテールゲート内張部にするなど、もう一工夫ほしかった。
フリードの3列目。座面クッションも厚く、居住性は充分。2列目と同様、実用的な空間だ
フリードのインテリアはひと世代前のホンダ車のデザインですが、悪くはないです。メーターパネルはインパネ上段に配置されていますが、小柄な女性などではむしろ視認性がいいと思います。
色遣いや造形など、全体的にバランスされていて、まとまり感があっていいと思います。カップホルダーや小物入れも充実しています。
シートの形状は悪くありませんが、ちょっと背もたれのクッションが硬めです。座面は前後長が長めでいいと思います。
フリードの2列目シートは前後スライド量が大きいです。最後端まで下げると、足元は広々です。3列目を使わない前提であれば、フリードのほうが2列目スペースは広いです。
■ホンダの「M・M思想」が息づくフリードの車内
右がシエンタ、左がフリード。3列目シートの大きさはフリードのほうが大きいことがわかるだろう
3列目へのアクセスは、2列目を最前端にスライドさせて背もたれを前に倒すとスッと乗り込めます。3列目の居住空間は充分余裕があって実用的です。
3列目シートの座面や背もたれの大きさ、クッション厚さなども充分にあり、大人が長時間座れる3列目シートです。
3列目の膝前空間をコブシ1つ半以上開く程度の位置に、2列目のシートを配置しても、2列目乗員の膝前スペースには20cm程の余裕があります。室内スペースの作り方はフリードが上手です。
これはエンジンルームを小さくして、なるべく室内空間を大きくするという、いかにもホンダらしいパッケージングです。
3列目シートは左右に跳ね上げて収納する構造です。しかも背もたれを前に倒してから脚のロックを解除して、足を手動で畳んで跳ね上げる3アクション。これは結構手間がかかりますね。
シエンタのダイブダウンのほうが荷室空間は広く使えますが、ホンダはそれよりも3列目シートの座り心地を優先したのでしょう。シエンタの3列目シートは小さくクッションも薄く、やはりエマージェンシーです。
どちらを優先させるかという、メーカーの商品の狙いの違いで、優劣ではありません。
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みんなのコメント
[地域]だから、[国]だから、[メーカー]だからという思考放棄した考えを持つ(COTY審査員に並ぶ)ヒョーロンカの方々は是非とも見習ってほしいです。
だけど記事の通り3列目はエマージェンシーシート的な扱いで長時間座るとお尻や色んな所に負担がかかり疲れると思う
そんなシエンタをこの前、名神高速(下り)一宮ジャンクション付近で見かけた時ふと車内に目をやると6人乗車していた
前列は若めの夫婦、2列目はその子供達、3列目に祖父母
おいおいおい
3列目に祖父母はしんどすぎるでしょ笑
どうせ目的日に着いたら食事代やら何やらお金は祖父母が出すことになるだろうにその扱いは酷いな笑
ちなみにナンバーは静岡
一宮まででもかなりの時間がかかっていると思うけど目的地はどこだったんだろ...