この記事をまとめると
■かつてスバルには屋根の上で寝られる小型ワンボックス車、ドミンゴアラジンが存在した
スバル車ならなんでも大好き……なハズのスバリストからも見放されたスバル車3選
■当時は282台しか売れなかったものの、いま登場したらヒットしそうな内容だ
■ドミンゴアラジン、またそのベース車ドミンゴについて解説する
このクオリティで当時の価格は149万円~225万円!
コロナ禍でも楽しみ安いレジャーとして盛り上がったキャンプブームは、クルマ業界にも大きな影響を与えた。2020年の夏頃からキャンパー仕様の人気が急上昇。車両価格と維持費が安い軽自動車のキャンパーや、キャンピングカー専門業者によるコンバージョンも人気で、空前のキャンパーブームとなっているが、過去を振り返ると、自動車メーカーが最初からキャンピングカーとしての機能を架装したモデルもわずかに存在する。
そこで今回ピックアップしたのはスバルの「ドミンゴアラジン」。1996年に発売された「屋根の上で寝られる機能を持つ軽ベースの小型ワンボックス車」だ。見た目と名前がコミカルだし、旧規格の軽自動車ベースのワンボックスで屋根の上に人が寝られる空間を作るという商品企画がブッ飛びすぎていた。同じく屋根の上で寝られる機能を備えたボンゴフレンディと並び、昔のオモシログルマを振り返る的な企画でクルマメディアに登場する機会が多いので、すぐに思い出せるクルマ好きも多いだろう。
珍車扱いされがちなドミンゴアラジンだが、根はクソ真面目なスバルが作っただけに、今見ても細部の作り込みはなかなかすごい。注目の天井部分にはグラスファイバー製の軽量ルーフを設置した。停車時にはこれをリフトアップして、大人と子供、それぞれ1人ずつが寝転ぶことを想定して設計されている。父と子がアウトドア現場で冒険気分を味わうシーンを想定したのだろう。広々しているとは言えないまでも、親密な関係にある間柄なら大人2人でも普通に寝られる空間を確保。リフトアップした状態ならサイド部分の窓が開けられるので、寝転びながら星空を観察することもできた。天井にはアシストグリップや室内灯も装備される。テールゲートにハシゴが装備されるが、これはリフトアップの作業やメンテ時用で、天井部屋へは室内からアクセスする。
標準仕様の「アラジンリフトアップ」のほか「アラジンキャンパー」というキャンピングカー仕様のグレードも設定。8ナンバー登録に必要なシンクや水道タンク、コンセント電源やプライバシーを守れるカーテンなども装備され、これ1台でキャンピングカーとして立派に使える仕様となっていた。当時の新車価格はキャンパー仕様ではないアラジンは2駆のMTで149万円、最上級キャンパーの4駆のATでも225万円と、今だったら爆売れするほど安い。
同様の機構を持つミニバンの発売としては、マツダのボンゴフレンディのオートフリートップに先を越されたが、制約の多い軽ワンボックスベースのボディでの創意工夫ぶりが随所に見られる力作だ。
ちなみにリフトアップやキャンパー仕様などの架装を手がけたのは桐生工業というスバル車のコンバージョン制作専門サプライヤーで、1961年から初代サンバーバン/トラックのボディパーツの生産を請け負い、サンバーベースのダンプや保冷車など、さまざまな特装車作りで名を馳せた職人集団である。
また、桐生工業はスバルのエンジン生産でも実績があり、2016年からEJ20エンジンの組み立てが移管されたことでも有名。今でもスバル製エンジンのリビルド機の生産も請け負い、パワートレインの蘇生工場としても知られる。ドミンゴアラジンがわずか282台しか作られなかったのは、大量生産が難しいという事情もあった。
ドミンゴアラジンはスバル車の架装専門の特殊技術を持った職人たちの手によって作られたので、スバルファンからは伝説的な名車のひとつとして愛されている。
ドミンゴは11年販売されたロングセラー車
アラジンを紹介した流れで、ドミンゴそのものについてもあらためて思い出してみよう。ドミンゴは、不朽の名車サンバーから派生した奇跡の7人乗り3列シート車で、初代モデルは90年代のRVブーム到来のはるか以前である1983年にデビュー。以来、2世代15年にわたってスバルユーザーのRV需要に応え続ける。
時代のはるか先を読んでの小型7人乗りミニバンの投入という狙いのほか、アジアなどへの輸出向けのハイパワー版のサンバーとして開発された経緯を持つ。歴代スバル製ユニット初にして唯一の3気筒であるEF型エンジン(排気量)を搭載し、サンバーが持つ潜在能力をさらに引き出した、いわばエボリューションモデル的な位置付けにあったのだ。サンバーから受け継いだRRレイアウトによるトラクションの高さと、4輪独立懸架サスがもたらす路面追従性の良さにより、旧規格の軽自動車ベースの小さなクルマらしからぬ優れた積載能力とユーティリティ性を多方面で発揮。
初代モデルは国内市場でもミニバン的というより、やはり軽バンの高出力バージョンとしておもに業務用で重宝され、11年も販売されたロングセラー車となった。2代目モデルでは特徴的なY字型のフレーム構造を採用し、ヨーロッパにも輸出できるレベルの前面衝突安全性を確保。2009年に筆者が初めてドイツを訪れた際、現地で初めて遭遇したスバル車はドミンゴだったことには驚いたが、ドミンゴは意外にも国際的にその実力が認められている。国によっては「SUMO」というネーミングで親しまれた。当時の欧州には7人乗りの小型ミニバン、しかも四駆の小型車は存在しなかったので、スイスなど山岳地帯で重宝されたという。ポーランドのポズナン国際見本市ではベストカー賞を受賞するなど、公式にも高く評価された実績を残しているのだ。
1980年代の軽ワンボックスを3列シートの7人乗り車に仕立てるという発想は、昭和のおおらかな時代だったからこそ生まれたトンでも企画と思えるかも知れない。しかし、ドミンゴはベースとなったサンバーが類い稀な対荷重性能の高さを備えていたからこそ実現したクルマだった。
4輪独立懸架サスをもつRRのフルキャブレイアウト車には、積載重量が増えても四輪接地荷重が均一に保ちやすいという大きなメリットがあり、このサンバーならではの素性が軽ワンボックスを7人乗りにしても欧州で高く評価される走りを実現したのだ。
素性は良いとはいえ、80年代の計ワンボックスを大人7人分の荷重が載っても破綻しない操縦性に仕立てるのは、決して簡単な仕事ではなかった。当時の富士重工業車両実験部の高橋保夫さん(のちにS203などのSTI限定車を担当)や小荷田守さん(初代WRXの操縦性開発を担当)らが、故・小関典幸氏(スバルモータースポーツ活動黎明期の功労者)の指揮下でドイツのアウトバーンや福島のエビスサーキットで走り込み、苦労に苦労を重ねて煮詰めた結果得られた走りだったことを忘れないでおきたい。
小型の7人乗り車の先駆けとして誕生し、天井で寝られる機能あり、キャンパーありの傑作仕様も生み出したドミンゴだが、ミニバンが一過性のブームではなく人気ジャンル市場として確立された1990年代の後半になって、皮肉にもその役目を終えたのだった。
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ハイエースは高いし、これくらいの大きさと値段ならいいなー