2020年2月13日に発表され、2月14日から発売されたホンダの主力となるコンパクトカー、新型フィット。
その新型フィット初となる公道試乗会が千葉県木更津市にある上総アカデミアパークを舞台に行われた。
【さりげなく3ナンバー化&地上高アップ!!】新型フィットクロスターは「隠れた本格派」だった!!
今回は一般公道での試乗した印象をはじめ、全5グレードに乗ってわかった長所と注意点のほか、読者が気になっているであろうポイントを中心に、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底解説する。
※2月末現在の受注台数は2万4000台を超え、月販目標台数1万台の約2.4倍
文/渡辺陽一郎
写真/平野学
【画像ギャラリー】新型フィット5つのグレード詳細写真&未公開メカニズム解説図
人に心地よい 人に寄りそうヒューマン・フィット!
5つのグレードを設定した新型フィット。左上からリュクス、ネス、ベーシック。手前左はクロスター、右がホーム。写真中央下は筆者の渡辺陽一郎氏
まず、新型フィットはどういうクルマなのか、本題に入る前におさらいを兼ねて、ポイントをわかりやすく挙げておきたい。
新型フィットは、クルマの移動においてもリラックスや癒しを求めているという潜在ニーズにたどり着き、そのニーズに応えるために、「心地よさ」を開発テーマに掲げている。
●フロントピラーを半分以下に細くして、出っ張りのない低く水平なダッシュボードですっきりとした「心地よい視界」
●樹脂製マットで支えるボディスタビライジングフロントシート、厚みのある柔らかなパッドをしたコンフォートULTRリアシートなど「心地よい座り心地」
●高剛性ボディ、低フリクションサスペンションなどで「心地よい乗り心地」
●センタータンクレイアウトによる後席のチップアップ機構や気軽にかばんなどを置けるテーブルコンソール、HV車でも荷室容量を確保した「心地よい使い勝手」
●ワンモーションフォルムで表情のあるデザインは日本人に寄り添う存在の柴犬をイメージ
●服を選ぶような感覚で、ベーシック(BASIC)、ホーム(HOME)、ネス(NESS)、 リュクス(LUXE)、クロスター(CROSSTAR) の5種類のグレードが選べる
●パワートレインは1.3Lガソリンと、ハイブリッドは先代の1モーターから、モーター主体のe:HEV(1.5Lハイブリッド)の2種類
●フロントワイドビューカメラとソナーセンサー(フロント4個、リア4個)による新ホンダセンシングの全車標準装備化、交差点右折時、対向車と衝突回避する新機能が付いた衝突軽減ブレーキを設定
●MTやRSグレードを廃止
先代フィットからどう進化した?
2013年9月に発売された先代フィットは無機質でどことなく冷たいイメージのするデザインといわれたという
人に心地よいを開発テーマに掲げられた新型フィット。ユーモアのある顔だ
新型フィットのボディサイズは、SUVスタイルのクロスターを除くと5ナンバー車で、全長も4m以内に収まる。先代型とほぼ同じ大きさだ。
プラットフォームは先代型と共通化され、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2530mmで先代型と等しい。
燃料タンクは前席の下に搭載され、荷室の床下には大容量のアンダーボックスも装着した。後席の座面を持ち上げると、車内の中央に背の高い荷物も積める。これらの特徴は先代型と共通だ。
その上で進化、あるいは変化した点も多い。注目されるのは外観だろう。新型はボディ全体に丸みを持たせ、特にフロントマスクは、クロスターを除くとグリルの開口部を薄く見せて柔和な印象に仕上げた。
フロントピラー(柱)は2本配置した。前面衝突時の衝撃は、ドライバーから見て手前側のピラーで吸収する。
そのために奥側はマド枠の機能になり、細くデザインできた。視界がワイドに開け、斜め前方も見やすい。ピラーが細いために、フロントウインドウ左右端の歪みが若干見えるが、気になるほどではない。
後方視界も向上した。先代型ではサイドウインドウ下端を後ろに向けて大きく持ち上げたが、新型は水平基調になってスッキリと見やすい。
インパネの形状も変わった。視界も考えて、インパネ上面を平らに仕上げている。運転するとボディが少しワイドに感じた。
インパネも水平基調で、立体感が乏しく質感の演出では不利だが、シンプルな使いやすさを表現した。2本スポークのステアリングホイールも珍しい。
メーターはデジタルのみ。スペースの節約とコスト低減も採用の目的だが、多彩な情報を表示できて、カラー液晶だから視認性は良い。
新型フィットのコクピット(リュクス) 。ブラウンの本革内装が標準装備とは驚いた。奥のピラーの細さ、ナビがダッシュボード上に出ていない点に注目。エアコンのスイッチ類もメッキ加飾されており、触り心地のいい本革ステアリング、ソフトパッドなどまるで輸入車のようだ
最量販グレードとなるホームのコクピット。インテリアカラーは写真のソフトグレーとブラックの2種を用意。ドアアームレスト、ニーパッド、インパネに採用されたソフトパッドはプライムスムース(リュクスも同様)と呼ばれる。シートはプライムスムース×ナチュラルテキスタイルのコンビシート)。e:HEVのホームは本革ステアリングを標準装備
エアコンのスイッチは比較的高い位置に装着されて操作しやすい。シンプルなデザインと、視界を向上させたボディスタイルは、両方とも「親しみやすく、心地よく使えるクルマ作り」の考え方に基づく。
過去を振り返ると、2001年に登場した初代フィットは、燃料タンクを前席の下に搭載して、抜群に広い室内を確保した。
2007年に発売された2代目は、初代の機能を洗練させ、ハイブリッドも加えて堅調に売れた。
2013年の3代目(先代型)は、サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げるなどスポーティ感覚を表現したが、リコールが重なったりN-BOXにユーザーを奪われて売れ行きは伸び悩んだ。そこで4代目の新型は、親しみやすさと心地よさを大切に開発されている。
新型フィットの開発責任者、本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員田中健樹さんは、
「コンパクトカーのお客様は、実用的な機能に満足しても、雰囲気や情緒に物足りなさを感じることが多い。新型はこの点に注目して、デザイン、視界、シートの座り心地などを心地よく仕上げた」と言う。
新型フィットの開発責任者、本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員田中健樹さん。紺のパンツと素足でのスリッポンコーデがオシャレ
燃費競争からの脱却したのか?
新型フィットベーシックe:HEV(ハイブリッド)のWLTCモード燃費は29.4km/L、JC08モード燃費は38.6km/L。市街地モードは30.2km/L、郊外モードは32.4km/L、高速モードは27.4km/L。最量販車種のe:HEVのHOMEグレードはWLTCモードが28.8km/L、JC08モードが38.6km/L。WLTCの市街地モードが29.6km/L、郊外モードが31.8km/L、高速モードが27.0km/L
2013年9月に発売された先代フィットの大きなテーマはハイブリッドの燃費で、JC08モード燃費36.4km/Lという、低燃費NO.1を獲得したが、そのわずか3ヵ月後にはアクアがマイナーチェンジで37.0km/Lで再び塗り替えた。
そうした燃費競争のなか誕生した先代フィットだったが、今回の新型フィットはそうした燃費競争から脱却したのだろうか、前出の新型フィット開発責任者の田中さんは、
「先代のフィットの時には開発責任者代行という形で、開発に携わっていましたが、こうした燃費競争ははたして本当にお客様のためになることなんだろうか、と思い、今回の新型フィットでは燃費とは別のところに目を向けてみようということからスタートしました」。
ちなみに新型フィットの燃費は1.5Lハイブリッドのe:HEVの最高燃費がWLTCモード燃費29.4km/L、1.3Lガソリンの最高燃費がWLTCモード燃費20.4km/Lである。新型ヤリスのWLTCモード燃費はハイブリッドが36.0km/L、ガソリン車は1Lが20.2km/L、1.5L車は19.6~21.6km/L 。
5グレードの特徴と価格の違い
最もシンプルなエントリーグレードのベーシック。価格はガソリンがFF/155万7600円、4WD/175万5600円。e:HEVはFF/199万7600円、4WD/219万5600円
生活になじむデザインと快適性を兼ね備えたホーム。まるでインテリアショップの家具を思わせるイメージ。 価格はガソリンがFF/171万8200円、4WD/191万6200円。e:HEVはFF/206万8000円、4WD/226万6000円
毎日をアクティブに過ごしたい人向け、ハイセンスなネス。シャイニンググレーメタリック&ライムグリーンの2トーンカラーがこれまでにない感覚。価格はガソリンがFF/187万7700円、4WD/207万5700円。e:HEVはFF/222万7500円、4WD/242万5500円
クロスオーバーSUVスタイルのクロスター。価格はガソリンがFF/193万8200円、4WD/213万6200円。e:HEVはFF/232万7600円、4WD/253万6600円。ルーフレールはシャークフィンアンテナとのセットオプションで4万4000円
洗練さと上質さを兼ね備えたリュクス。50代以上のダウンサイザー向けにはコンパクトカーとは思えない高級感のあるリュクスが合うかもしれない。価格はガソリンがFF/197万7800円、4WD/218万6800円、e:HEVはFF/232万7600円、4WD/253万6600円
各グレード、1.3ガソリン、e:HEVの2グレードで、FF/4WDを用意
新型フィットは5種類のグレードを用意する。そのすべてに1.3LのNAエンジンと1.5Lのe:HEV(ハイブリッド)、前輪駆動の2WDと4WDを組み合わせた。
開発者は、「お客様が選びやすいように、従来のG、F、Lといった区分とは違う個性が分かりやすいバリエーションを用意した」と言う。
この背景にはグレードを増やしてメーカーオプションの種類を減らし、組み合わせの総数を抑える合理的な目的もある。
グレード内訳は、低価格のベーシック、プライムスムースを使ったコンビシート生地などを備えるホーム、シート生地に撥水加工を施してピラー部分をライムグリーンにした2トーンボディカラーも選べるネス、外観をSUV風に変更したクロスター、本革シートなどを採用したプレミアム感覚のリュクスだ。
この内、ネスとクロスターは、撥水シート生地など装備の共通点が多い。ネスの装備は、フォグライトなど一部を除くとクロスターにも標準装着される。
つまりネスのフロントマスクをSUV風に変更して、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)に余裕を持たせたグレードがクロスターになる。
またネス/クロスター/リュクスには、ホンダコネクト+ナビ装着用スペシャルパッケージと、16インチアルミホイールを標準装着した。
そこでNAエンジンのホーム(171万8200円/2WD)に、メーカーオプションのホンダコネクト+ナビ装着用スペシャルパッケージ(4万9500円)と16インチアルミホイール(6万6000円)を加えて条件を合わせると、合計価格は183万3700円だ。
これらの装備を標準装着したノーマルエンジンのネス(187万7700円)/クロスター(193万8200円)/リュクス(197万7800円)と比べて、さほど大きな価格差にならない。
特にクロスターは、オプションで装備を合わせたホームとの価格差が約10万円だ。ホームのシート生地はプライムスムース、クロスターは撥水といった違いはあるが、10万円の上乗せで外観がSUV風になって最低地上高も拡大するなら割安だろう。
またリュクスは装備水準を合わせたホームに比べて約14万円高いが、専用装備となる本革シート(フロントシートの座面、背もたれの一部、サイド部、背面およびおよびリアシートには合成皮革やファブリックを使用)と運転席&助手シートヒーターなども加わる。これも本革シートが欲しいユーザーには割安だ。
販売構成比を見ると、グレードの内訳はホームの46%が最も多く、次いでベーシックが20%(法人やレンタカー需要も多い)、リュクスは15%、クロスターは14%、ネスは6%と少ない。エンジンは初期受注とあってe:HEVが72%と多く、ノーマルタイプは28%だ。
フィット全体の年齢構成は20代が5%、30代は7%、40代は14%、50代は26%、60歳以上が47%となる。つまり50歳以上が73%と多い。
グレード別の年齢構成比を見ると、色彩などが若々しいネスでは若年層が意外に少なく、50歳以上が74%に達する。
今は中高年齢層の元気が良く、フィットネス(要はダジャレですね)な世代感覚がうかがわれる。
その一方で30代の比率が最も高いのは、本革シートなどを備えたリュクスだ。比較的若い年齢層が、シックな商品を好む傾向も見受けられる。
●ガソリン車、ハイブリッド車の比率
ガソリン車:28%、ハイブリッド車:72%
●グレード別販売比率
BASIC:20%
HOME:46%
NESS:6%
CROSSTAR:14%
LUXE:15%
●各タイプの年齢構成
※ガソリン車とハイブリッド車併せた構成比
■BASIC
~20代:5%
30代:7%
40代:12%
50代:23%
60代~:53%
■HOME
~20代:4%
30代:7%
40代:14%
50代:24%
60代~:51%
■NESS
~20代:3%
30代:6%
40代:17%
50代:26%
60代~:48%
■CROSSTAR
~20代:9%
30代:8%
40代:16%
50代:27%
60代~:40%
■LUXE
~20代:2%
30代:10%
40代:14%
50代:28%
60代~:46%
NAエンジンとe:HEVの走りの違いとは?
先代フィットは1.5L、直4(110ps/13.7kgm)+1モーター(29.5ps/16.3kgm)と比べ新型フィットは1.5Lのe:HEVは1.5L、直4 (98ps/13.0kgm)と2モーター(109ps/25.8kgm)のため、かなりパワフル。1.3L、直4ガソリンエンジンは98ps/12.0kgmを発生する
自分の好みに応じて、5つのグレードを選んだら、次に気になるのはNAエンジンとe:HEVのどちらにするかだ。NAエンジンは、先代型には1.5Lもあったが、新型は1.3Lのみだ。さっそく、乗り比べてみたい。
動力性能は平坦路なら不満はないが、登坂路になるとややパワー不足。車両重量は2WDのホームで1090kgだから、1.3Lエンジンは負荷が少し大きい。
3000回転付近を超えると加速が活発になって吹き上がりも機敏だが、車両重量とのバランス、コンパクトカーの性格を考えると、もう少し実用回転域の駆動力を高めたい。
エンジン負荷が大きいため、アクセルペダルも深く踏みやすく、遮音は入念に行ったがノイズは少し粗く聞こえる。
その点でe:HEVは快適だ。基本的な機能はインサイトやステップワゴンと共通で、エンジンは発電機を作動させ、駆動は専用のモーターが受け持つ。
エンジンが直接駆動するのは、その方が効率の優れた高速巡航時だけだ。従って電気自動車と同様、アクセル操作に対してモーターが機敏に反応する。
加速は滑らかでノイズも抑えられ、動力性能はガソリンエンジンの1.8~2Lに相当するから余裕がある。先代フィットハイブリッドと比べても加減速は滑らかだ。
ステップ変速制御も採用した。有段式ATのように、エンジン回転数が上下動しながら速度を高める。
e:HEVは電気式無断変速機、1.3LガソリンはCVT。先代フィットハイブリッドのシフトレバーはわかりづらかったのでこのようなシンプルなシフトレバーは好感が持てる。シフトレバーの先にはスマートフォンが置けるスマートフォントレーになっており、ワイヤレス充電もできる(アームレスト付きセンターコンソールボックス+ワイヤレス充電器は5万5000円でリュクスにメーカーオプション)
e:HEVはモーター駆動だから、エンジン回転を上下させる機能的なメリットはないが(燃費効率ではマイナスになる)、演出は巧みで有段AT車を運転している気分を味わえる。
一定の回転数でエンジンが回り続ける制御に比べると、ノーマルエンジン車から乗り替えた時の違和感は少ない。
ちなみにフィットでは、NAエンジンもステップ変速を行うが、フルにアクセルペダルを踏み込むと、6000回転まで高まって一度5000回転に下がり、再び6000回転まで上昇する。ここまで回す機会は少ない。
e:HEVの価格は、装備が異なるベーシックを除くと、NAエンジンに比べて34万9000円高い。ステップワゴンの場合、1.5Lターボと2Lのe:HEVとの価格差が約50万円だから、フィットのe:HEVは高機能な割に価格が安い。
しかもホーム同士で比べると、購入時に納める税額がe:HEVは約3万円安く、実質差額は約32万円に縮まる。
そこで実用燃費をWLTCモード数値、レギュラーガソリンの価格を1L当たり150円で計算すると、1km当たりの燃料代はノーマルエンジンが7.4円、e:HEVは5.2円だ。
後者は1km当たり2.2円安く、32万円の実質価格差を燃料代の節約で取り戻せるのは14万~15万kmを走った頃になる。
フィットに限らずコンパクトカーは、NAエンジンの燃費数値も優れている。そのために実質価格差を燃料代の差額で取り戻すのは難しいが、新型フィットのe:HEVは、動力性能、加減速の滑らかさ、静粛性などを大幅に向上させた。上級エンジンとしての価値もあるので、予算に余裕があるなら積極的に検討したい。
上質さとしなやかさが感じられるリュクスの走り
15/16インチタイヤによる走行安定性と乗り心地の違いとは?
185/65R15サイズのタイヤはベーシックとホームに標準装備
185/55R16はネスとリュクスに標準装備。クロスターは185/60R16サイズ
フィットの足まわりは、前輪にストラットの独立式、後輪は車軸式で、4WDの後輪にはド・ディオンアクスルが使われる。セッティングはNAエンジンとe:HEVでは異なり、クロスターも最低地上高を高めたから違いがある。
さらにタイヤサイズはベーシックとホームが15インチ(ホームは16インチもオプション設定)、ほかの3グレードは16インチだ。
16インチでもネスとリュクスは185/55R16、クロスターは185/60R16の違いがある。タイヤサイズと重量などに応じて指定空気圧も異なるから、セッティングの種類は多い。
走行安定性と乗り心地のバランスが最も優れているのは、NAエンジンの16インチタイヤ装着車だ。
指定空気圧は前輪が220kPa、後輪は210kPaと妥当だ。街中を時速40km以下で走ると少し硬いが、コンパクトカーでは優れた部類に入る。大きめの段差を乗り越えた時に伝わるショックは角が丸い。
先代型はカーブを曲がっている最中に段差を乗り越えると、突き上げ感が生じて進路も乱されたが、新型はこの不満を解消した。
峠道などを走ると、後輪の接地性を優先したことが分かる。全車に共通する特徴で、特にノーマルエンジン車は前輪側を中心に車両重量がe:HEVよりも約100kg軽いから、車両の向きも適度に変えやすい。挙動の乱れを抑える走行安定性と、操舵に対する軽快な動きを両立させた。
e:HEVの16インチタイヤ装着車もコンパクトカーでは快適だが、クロスターを除くとノーマルエンジン車に比べて少し硬い。指定空気圧は前輪が240kPa、後輪は230kPaに高まり、ノーマルエンジン車に比べると、路上の細かなデコボコを伝えやすい。
峠道などではボディの重さを意識させ、若干唐突にボディが傾く印象もある。コーナーに入った後も、旋回軌跡を少し拡大させやすい。それでも後輪の接地性が高いから安心感も伴い、速度が上昇すると乗り心地は快適になる。
またe:HEVの16インチタイヤ装着車は、ステアリングギヤ比が可変式だから、舵角が大きくなるとハイギヤードになる。車庫入れの時など、ステアリングホイールを忙しく回す操作を抑える。
e:HEVの16インチ装着車には可変ステアリングが装着される
左右に一杯に回した時のステアリングホイールの回転数は、ノーマルエンジンが2.8回転、可変式になるe:HEVは2.3回転だ。
クロスターはe:HEVでも乗り心地が快適に感じる。タイヤサイズが185/60R16だから空気の充填量が少し多く、指定空気圧も220・210kPaに下がるから柔軟になった。
開発者は「最低地上高を高めてもサスペンションのストローク(上下に柔軟に伸縮する範囲)は増えていない」と言うが、SUVらしい、ゆったりした乗り心地を演出できている。
その一方で、15インチタイヤ(185/60R15)を装着したベーシックは乗り心地が硬めだ。足まわりのセッティングはホームと同じだが、転がり抵抗を抑えたタイヤが装着されて指定空気圧も240・230kPaと高いから細かな振動を伝えやすい。
公道を走ってみて全体的にしなやかでソフトな印象を受けたのだが、これは剛性感のある少々固い乗り心地のVWポロを意識したわけでもなさそうだし、どちらかというとフランス車の乗り味に近いかもしれない。
そこで、どのクルマをベンチマークにしたのか、前出の開発責任者田中さんに再び聞いてみた。
「当初はVWポロをベンチマークにしようと思いましたが、心地よさという観点ではそうではないと。サスペンションがよく動くしなやかな乗り心地、そして心地よい視界を持っているシトロエンC4ピカソを超えるものを作ろうと思いました。あとはフランス車らしいシート表皮のバリエーションが豊富なところを参考にしました」。
後席の乗り心地のよさにニンマリする筆者
新型フィットの〇と×
■新型フィットの〇なところ
2本あるピラーのうち、奥の細いピラー、ナビがダッシュボード上に頭を出せないフラットなため(逆にトレーなど物を置きたくなるが)、視界が非常にいいコクピット
後席は膝前空間、頭上空間ともに文句なしの広さ。シートの座り心地もいい。ただし後席のリクライニング機構がなくなった
後席をチップアップすれば背の高い観葉植物や畳んだベビーカーも積むことができる。ただしコンビニフックがなくなったのはマイナスか
クロスターを除くと、5ナンバーサイズのコンパクトなボディによって運転がしやすい。現行型は視界も向上して、取りまわし性がさらに良くなった。全高は1550mm以下だから立体駐車場も使いやすい。
その一方でボディサイズの割に車内が広く、特に後席と荷室は、全高が1550mm以下のコンパクトカーでは最大の容量となる。4名乗車時の居住性や荷室の使い勝手も優れ、買い得なファミリーカーに仕上がった。
ハイブリッド車においてもIPU(インテリジェントパワーユニット)の小型化により荷室容量を確保。ラゲッジルームもコンパクトカーのなかでは最大の広さとなる。ただあまり気にすることはないが、シートがよくなったせいか、ラゲッジ床面に段差があり、完全なフルフラットではなくなった
コンパクトカーとしては走行安定性が優れ、乗り心地もおおむね満足できる。e:HEVは動力性能、加速の滑らかさ、静粛性などが優れている。
シートの座り心地もいい。おそらく最近のコンパクトカーのなかでは一番コストをかけているのではないだろうか。フロント、リアシートともに厚みがあり、しっかりとした作りでサポート性も高く、長時間乗っても疲れなさそうだ。
ドアを閉める際の音も欧州車のように心地いい。軽量化だけでなく断面の構造を改良することでコンパクトカーとは思えない閉まり音を実現している。
価格は以前に比べて高まったが、自転車も検知可能な衝突被害軽減ブレーキ、全車速追従型クルーズコントロール、サイド&カーテンエアバッグなどの標準装着を考えると納得できる。
クッションが従来に比べ+30mm厚みが増しており、上級クラスのシートと同等
大幹を支え疲れにくい構造になっているというボディスタビライジングシート(フロント)
■新型フィットの×なところ、注意点
艶消しの触り心地のいい本革ステアリングに比べるとざらざらしていて一気に興ざめしてしまうウレタンステアリング
その一方でリュクスとハイブリッドのホームに設定されている本革ステアリングは触るだけで心地いい。ソフトパッドのカラーもオシャレでステッチが入っていないところが逆に新鮮だ
ボディスタイルやデザインの見直しで視界と取りまわし性は向上したが、フロントマスクや内装のデザインは、好みの分かれるところだろう。
本革巻きステアリングホイールはニーズの高い装備だが、リュクスとハイブリッドのホームに標準装着されるだけだ。
ほかのグレードはすべてウレタンのみになる。助手席の前側にはソフトパッドも入るので、質感に格差が生じた。デジタルメーターも、カラー液晶だが好みが分かれる。
後席は座面のパッド厚をアップし、ヒップポイントを24mm高めたので、背の高い同乗者は快適だが、小柄な人は大腿部を押された感覚になりやすい。またシート座面のパット厚をアップしたためなのか、リクライニング機構が廃止され、ラゲッジルームも段差があり、完全なフルフラットにならなくなった点も見逃せない。しかし、シートが非常によくなった点を考えるとたいした問題ではない。
ボディサイドの上側に向けた絞り込みを大きくしたので、後席に座ると側頭部がルーフパネルに近付き、左右方向の圧迫感も強まった。着座位置を高めた影響もあり、乗降時には、先代型に比べて頭を大きめに下げる。
身長171cmの筆者でも乗る込む際に頭が引っ掛かり、少々不愉快な気分になったという
NAエンジンは車両重量とのバランスを考えると、動力性能が不足気味だ。ノイズも少し粗く、アイドリングストップの再始動音も静かにする余地がある。
最後にクルマ好きにとっては×なところは、RSグレード、MTがなくなったのは残念。開発者によればRSのMTは全体の3%しかなく、選択と集中という戦略上、致し方なかったという。
おススメグレードはこれだ
渡辺氏がベストグレードに挙げた1.3Lガソリンエンジンのホーム
最も推奨度が高いのはNAエンジンのホーム(171万8200円/FF)になる。長距離を移動する機会が多かったり、走りの満足感を高めるなら、e:HEVのホーム(206万8000円)も推奨したい。
また機能や装備と価格のバランスを含めて、SUV風のクロスター(NAエンジン193万8200円/e:HEV228万8000円)も買い得だ。
クロスオーバースタイルのフィットクロスター。他のグレードとは異なりブラックアウトされたグリルや樹脂製バンパーやフェンダーが装着されているので豪華に見えるのがポイント
最低地上高は他のグレードの場合、FFが135mm、4WDが150mmだがクロスターはFFが160mm、4WDが155mmになる
グレードによって内装の雰囲気が異なり、NAエンジンとe:HEVでは運転感覚も違うので、なるべく多くの試乗車を運転して購入する仕様を判断したい。新型フィットには、手間を掛けて選ぶ価値のあるコンパクトカーだ。
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みんなのコメント
購入者の4割以上が60歳代以上って。。。
つまり、金持ってるのは高齢者だけ。
この価格のフィットは若者は買えない。。。
そういう日本社会だってことだ。