稀代のアイドルカーも登場から8年目に突入し、次の動きが気になる時期になってきた。マツダ ロードスターの未来はどうなるのか? 激動の時代のなかで「向かう道」を探った。
※本稿は2023年6月のものです
文/ベストカー編集部、写真/MAZDA、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2023年7月26日号
新型ロードスターはBEVで登場!? 生産終了の990S……最大規模のマイチェンで何が変わる?
■5代目NE型は2026~2027年登場か?
外観の変更は少ないものの、前後バンパーを中心に手が入れられるという情報だ。ソフトトップ車の2Lエンジン追加の噂もあったが、それは見送られたもようだ
4代目ND型ロードスターは登場から8年目となるが、魅力はいっさい衰えていない。車両重量990kgを実現した特別仕様車「990S」が2021年末に登場して人気を獲得。販売台数を急回復させて、今また存在感をアップさせているのだ。
しかし、この990Sの生産、販売はまもなく終了する。ベストカーの調べでは7月下旬で受注が終了し、生産は9月まで。10月以降はマイナーチェンジモデルの生産が始まるという。
現在のロードスターの主査である齋藤茂樹氏が明言しているとおり、「現行型が登場して以来、最も大きな規模のマイナーチェンジ」が行われるのだ。
マイナーチェンジを行う理由のひとつに法規対応がある。バックカメラの装着義務化と国連規則であるサイバーセキュリティ法規への対応だ。サイバーセキュリティ法規の内容は多岐にわたるが、最もわかりやすく、重大なのはクルマが遠隔操作されるのを防ぐこと。そのシステムの装着が義務化されるということだ。
新型車のバックカメラ装着義務化は昨年5月より始まっているが、継続生産車は来年5月まで猶予期間が設けられている。また、サイバーセキュリティ法規の継続生産車の猶予期間は、日本では2026年5月まであるが欧州では2024年7月まで。欧州でも販売するロードスターは早急な対応が必要なのだ。
具体的には、こうした法規対応のためマツダコネクトが最新版に切り替わる。現行型では7インチのモニターが8.8インチに拡大したフレームレスタイプに変更され、先述の法規対応システムが組み込まれる。
もちろん、ロードスター全体の商品力向上にも力が入れられる。齋藤主査が「変更は最小限だが、ひと目で違いがわかる」と表現する外観の変更は、空力性能の向上にも繋がっており、前後バンパーの形状変更がメイン。エンジンや足回りにも最新の知見や技術が投入され、現時点におけるベストの走りを提供する。
なお、メタルトップのRF用2Lエンジンをソフトトップ車へも広げる予定は今のところないとのこと。
このマイナーチェンジ車の発売開始は11月と予想。遅くとも年内にはデビューするはずだ。
■5代目NE型は電気自動車で2026~2027年デビューが有力!
前後重量配分50:50のオープン2シーターFRスポーツ。初代から続く『ロードスター憲法』は新世代になっても守られていく(ベストカー編集部作成の予想CG)
現行ND型がこの秋ビッグマイナーチェンジをするとなれば、モデルサイクルの長いクルマだけに次期NE型の登場はかなり先になると考えられる。早くて2026年、もしかしたら2027年。次期ロードスターはどんなクルマになるのだろうか?
マツダは2030年までに生産するクルマをすべて電動化すると表明しており、2025年度末(2026年3月)までに新たなBEV(電気自動車)専用プラットフォームとなる「SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャー」を投入する。
とはいえ、2030年時点でBEV比率は25~40%の計画となっており、半分以上はHEV(ハイブリッド)もしくはPHEV(プラグインハイブリッド)。
また、2030年頃には合成燃料やバイオ燃料が実用化されている可能性もあり、マツダの技術方針として「エンジンを進化させ続けることは重要」との認識を示している。
つまり、次期ロードスターが積むパワーユニットにはさまざまな候補があるということだ。BEV、HEV、PHEV、すべての可能性がある。ただ、メーカーとして「2030年時点ですべて電動化」を掲げているかぎり純エンジン車だけは難しいだろう。
周辺事情に詳しい関係者は「電動車の時代になってもロードスターは残ります。今、まさにいろいろな可能性を追求しているところですが、レースができるクルマにするという方針は社内で共有できているようです」と証言する。
マツダの中期経営計画では、2022~2024年をフェーズ1、2025~2027年をフェーズ2、2028~2030年をフェーズ3としており、次期ロードスターの登場が予想されるフェーズ2は「電動化へのトランジション(移行期間)」と位置付けている。
この期間の後半からBEV専用車の先行導入を始めるとしており、まさに次期ロードスターの登場時期と合致する。一方で、同時期には「新しいHEVシステムの導入」もあるとされており、その可能性も残る。
■ロードスターのこだわりは「純エンジン」ではない
SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャーを2025年度中に登場させる計画。可変ホイールベースでさまざまなサイズ、カテゴリーに対応できるBEV用プラットフォームとなる
関係者の証言どおり「まだ決まっていない」というのが真実なのだろう。しかし、国内最大規模のロードスターイベントである「軽井沢ミーティング2023」を精力的に取材したモータージャーナリスト桃田健史氏は、自信を持って「BEVになるしかない」と言う。
軽井沢ミーティングはロードスターの開発スタッフや歴代の主査も参加する貴重なイベントとなっており、桃田氏はそこで数多くの開発現場の人たちの話を聞き、確信したというのだ。桃田氏のコメントは以下のとおりだ。
「次期ロードスターはBEVにする以外の方法なないと思います。貴島孝雄さん(初代から開発に携わり、2~3代目の主査を務めたエンジニア)は、ロードスターは人と人を繋ぐ媒体で、エンジンからBEVに変わっても、人を幸せにする目的は変わらないとおっしゃっています。
歴代の主査もBEV化への抵抗感はなく、むしろHEVで補器類が増えてフロントヘビーになるより、BEVで前後重量配分50:50を実現したほうがいいと言っているほど。
次期型はNA(初代)からND(現行)までの流れに一度区切りをつけて、新しいけど、でも、平井敏彦さん(初代主査)が込めた『ロードスター憲法』は守るクルマにすると開発陣は考えているんです。それにはBEVしかないんですよ」
ロードスターは歴代モデルすべて、GT-RやホンダのタイプRのようにエンジンが主張するスポーツカーではなかった。手頃なパワーで軽快に走る前後重量配分50:50のFRオープンカー。コアなファンもその『憲法』が守られればBEV化も歓迎するはずだというのが桃田氏の見立てである。
軽くしようとすれば、搭載できるバッテリーが減って航続距離は短くなるし、低くてコンパクトなデザインにできるかどうかも気になる。しかし、譲れないポイントが明確であれば、問題解決のために必要な技術も明確になる。じっくり時間をかけて、新たなロードスターを生み出してほしい。
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すなわち、軽快に走る、曲がる、止まるができる車を。