メルセデス・ベンツのフラグシップ・サルーンである「Sクラス」に小川フミオが試乗。長年、多くのVIPを虜にするSクラスの魅力をあらためて考えた。
標準ボディでもけっして窮屈ではない
後席で快適に過ごすドライブを望むなら、やっぱりセダンに勝るものはないかもしれない。それが分かっている人に勧めたい。それがメルセデス・ベンツのS580 4MATICだ。
日本でのデビューは2021年9月。あらためて、2023年4月に乗ったら、“熟成”が進んでいるというのか、おそらく年次改良の結果か、良い感じだった。
S580 4MATICは、3982ccV型8気筒ガソリンターボエンジンに、フルタイム4WDシステムを組み合わせたドライブトレインを持つ。
小さなモーターが発進時や加速時に作動してトルクを積む「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」と呼ばれる、マイルドハイブリッドシステムを搭載。370kW(503ps)の最高出力と700Nmの最大トルクというパワーでもって、全長5180mmと余裕あるサイズの車体を走らせる。
同時発売されたS580 4MATICロングが5320mmの全長と3215mmのホイールベースをもつのに対して、標準ホイールベースのS580 4MATICは3105mmとちょっと短い。
より広い後席空間を求めるなら、とうぜんロングだろうけれど、メルセデス・ベンツのセダンの頂点にたつSクラスだけあって、標準ボディでもけっして窮屈ではない。
S580 4MATICのよさは、標準ボディでも、快適性を重視しているところにある。それが後席だとよくわかる。
試乗した車両はオプションの「ドライバーズパッケージ」(45万円)をそなえていて、そこには「E-アクティブ・ボディコントロール」を含む。「AIRMATIC」なるメルセデス・ベンツの電子制御サスペンションのシステムをベースに開発されたフルアクティブサスペンションだ。
ステレオカメラで前方の路面のうねりをモニター。通過前にダンパーの減衰力を演算して準備する「ロードサーフェススキャン」機能も含む。
もうひとつは「カーブ」で、コーナリング時に作動する(オン/オフは任意)。カーブを曲がるさい、車体の傾きを修正する。
結果、車体は水平になるように制御される。乗っていると、まるで二輪車をリーンさせるように、コーナリング時の重力(G)が橫からでなく、上からくるように感じられた。
4輪それぞれに48ボルト対応のアクチェーターがそなわり、サスペンションシステムを構成するスプリングのバネ定数とダンパーの減衰力を個別制御するのだ。
実際に乗ってみると、たいへん快適な乗り心地だった。ふわりふわりというかんじで車体が動く。乗員は揺さぶられず、姿勢はフラットなまま。
最高級セダンには、そのとき自分たちが考える最善の装備を……というメルセデス・ベンツのクルマづくりの思想性が感じられた。そこがSクラスファンには大きな魅力だろう。
Sクラスのひとつの頂点運転していると、サスペンションがややソフトなので、うっかりすると、ステアリングホイールを切り遅れる傾向にある。
カーブでは、少し多めに、そして少し早めに。ただし適切な速度でもってステアリングホイールを操作する必要がある。
その間、後席乗員は快適な気分で、ヘッドルームもレッグルームも広い空間で落ち着いていられる。
Sクラスというと、当初(初代の登場は1972年)から、つねにドライバーズカーと、ショファードリブン(運転手つき)をともに追求してきた。
それでも、リアクオーターにウインドウをもたない、いわゆる4ライトのスタイルが物語っているとおり、しっかりした走りを最優先に開発されてきた(と、私は思っている)。
もちろん、さきに触れたとおり、その“伝統”は、現行のSクラスに引き継がれている。なかでも試乗したS580 4MATICは、自分でステアリングホイールを握らない後席乗員にやさしいモデルだった。
一時期のSクラスは、金属バネのモデルは後席の乗り心地がいまひとつで、とりわけ路面からの突き上げによる振動をガマンしなくてはならなかったが、2020年登場の7代目は、そこもうんとよくなった。
後席シートはバックレストにリクライニング機能も備わっていた。楽しむためにというより、快適な移動のためのモデル……Sクラスのひとつの頂点がこのS580 4MATICなのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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