2019年12月5日、全国軽自動車協会連合会が発表した、2019年11月の軽自動車 車名別新車販売台数データを見て、自動車業界に激震が走った。
2017年8月31日に登場してから2年3カ月、旧型から数えれば5年2カ月という期間、販売台数ランキングで首位を守っていたホンダ「N-BOX」が陥落したのだ。逆転を果たしたのはダイハツ「タント」だった。
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なぜこの逆転劇は起きたのか? 販売店取材に定評のある流通ジャーナリスト、遠藤徹氏が、ホンダとダイハツの両面から真相を探った。
文/遠藤徹
写真/編集部
【画像ギャラリー】圧倒的強さを誇ったN-BOXと、それを逆転したタントを比較チェック!
■生産能力が追いついたタントと、供給が間に合わなかったN-BOX
2019年11月度の軽自動車販売台数の速報値で、ダイハツ「タント」がホンダ「N-BOX」を2年3カ月ぶりに逆転し、トップセラーとなった。
販売台数はタントが2万1096台に対してN-BOXは1万8806台で、その差は2290台だからまだ僅差といえる。理由は、N-BOXが現行モデル登場後2年3カ月も経過し、モデルが古くなり需要一巡で販売がマイナスになっていることに加えて、この2019年10月3日に一部改良したばかりのため、工場生産ラインの組み換え作業の影響によって供給が間に合っていなかったことが足かせになったといえる。
これに対して、タントは2019年7月9日にフルモデルチェンジし、プラットフォーム、エンジンなど基本コンポーネントを全面刷新し、多数の受注残を抱えていた。ここに来て増産態勢が整い、供給が万全となったことが要因として挙げられる。
2019年7月9日にフルモデルチェンジしたダイハツ「タント」。登場から4カ月でついに首位奪取
2017年8月31日にフルモデルチェンジし、ここまで首位を守ってきたホンダ「N-BOX」
ただN-BOXは現行モデル発売後3年目に入り、マイナスに転じているといっても依然2万台近くをコンスタントに売っているのだから、健闘しているともいえる。今回の一部改良によって喝入れが可能になれば、再逆転する可能性も残されている。
現行N-BOXは2017年8月31日にフルモデルチェンジ。プラットフォーム、エンジン、足回り、駆動系、トランスミッションなど基本コンポーネントを全面刷新、クオリティアップを図った。最大の売りは室内の広さである。軽自動車の外寸法は決まっているので、エンジンブロックを前方に移動させ傾斜させることで、軽自動車最大の室内居住空間を実現させている。
ホンダの最上級セダンである、レジェンドよりも広い室内空間をアピールした。それに軽自動車離れしたクオリティの高さ、走り、使い勝手のよさなども売りにしている。これによって2年2カ月も連続してトップセラーを維持できたのだから、まれに見るヒット作といえる。
かなりのコストをかけて設計された、ホンダ肝いりのモデル「N-BOX」。荷室を気にせずシートを一番後ろまで下げると、これだけの空間を生み出す
一般的には量販モデルがフルモデルチェンジすると、新型車効果で好調に売れるが、1年経過すると需要一巡でマイナスに転じるわけだが、N-BOXは2年目に入っても加速状態を維持し、月販2万台ペースで売れ続けてきたのである。
対するタントはどうなっているか。前述のように2019年7月9日にフルモデルチェンジし、好調な滑り出しを見せている。しかしながら、それでも4カ月間宿敵のN-BOXを抜くことができなかった。こちらもプラットフォームを新世代の「DNGA」を採用、パワーユニット、足回り、駆動系、トランスミッションなどの基本コンポーネントを全面刷新し万全を期して発売開始した。
■タントの首位は今後も続くのか? 第3勢力登場で混迷か!?
なぜ4カ月もトップを奪還できなかったのか。首都圏にあるダイハツ店の営業担当者によると「N-BOXは両側スライド仕様が軽乗用車(軽商用にはN-BANがあるが)ではひとつだけで、こちらにセールスパワーを集中できる。ダイハツのタントはほかにムーヴキャンバス、ウェイクがあり、これらにもお客さんが分散してしまうので不利だ」とのこことだった。
Bピラーがないことで、子どもや荷物があっても乗り降りしやすい大開放を実現しているタント。しかし、差別化を図っていても、身内にライバルがいる状態では勢いがそがれる
気になるのは11月の販売実績である。タントは前年同月に対して90%増と2倍近くの急増であり、N-BOXは3.5%減の微減である。2倍近くも増えたのは、集中して施策を売った結果であり、今後このペースがどこまで維持できるのか不安が残る。N-BOXは改良モデルへの切り替えが整い、供給面で軌道に乗せることができれば、また加速態勢に入れるともいえる。
両社の販売態勢を比較すると、ダイハツはほかのニューモデルとして発売したばかりのロッキーがあり、2020年中盤から後半にかけては、新型軽SUVの発売やムーヴのフルモデルチェンジを予定している。したがって、それまではタントの販売に集中できる環境にあるといえる。
一方のN-BOXはかなり厳しい。今年末から新型フィットの先行予約がスタートする上、新年年明けの2020年1月中旬には休止していたN-WGNの生産が再開され、本格販売に入る。こうなるとセールスパワーがこれら2車種に食われて、N-BOXは多少手抜きになる可能性がある。
今後の両車種のモデル展開はどうか。タントは、2020年7月で現行モデル登場後1年が経過するので、買い得の特別仕様車設定で建て直しを図る。N-BOXは8月末で3年が経過し、ビッグマイナーチェンジし内外装のデザイン変更やグレード、新ボディカラー設定などで商品ラインアップを強化する。
この時点の両モデルの商品力は互角といえる。ただモデルの生涯商品力はこれまでの経緯から、N-BOXが多少上位と評価できる。タントがN-BOXを超えるには2年3カ月以上もトップセラーを確保する必要がある。N-BOXが2年2カ月もトップセラーを維持できたのはタイミングのよさもあった。
タントだけでなく、販売実績でライバルとなるべきトヨタ「プリウス」「アクア」「ヴィッツ」、日産「ノート」、ホンダ「フィット」など登録車のコンパクト&小型車がモデル古くなり、商品力が落ちていることも要因として上げられる。これが2020年になると新型ヤリス、新型フィット、新型ノートが相次いで登場し、軽自動車、登録車を含めたトップ争いが熾烈となり、タント、N-BOXにとっては脅威になる可能性がある。
またタントにとっては追い風もある。トヨタのバックアップである。ダイハツの軽自動車は、10%強がトヨタの協力によるという情報がある。トヨタ系列店が業販店として販売しているのと、未使用車を処理する役割を果たしているのと両方の流通経路がある。本当の熾烈な戦いとなれば、強力なトヨタがバックに控えているということも無視できない事実である。
■両メーカーの販売担当者が予想する今後
●証言1:首都圏ホンダカーズ店営業担当者
タントより商品性ではクオリティの高いN-BOXに軍配が上がる。ただタントが新型になって半年足らずなのに対して、N-BOXは2年以上も経過しているから不利といえる。ただ今後タントがN-BOXのように2年以上も連続してトップセラーを維持するのは大変だろう。
●証言2:首都圏ダイハツ店営業担当者
新型タントがこれまでN-BOXを抜けなかったのは、生産が追い付かなかったからだ。最近になって増産し供給態勢が整ったので、販売台数を増やせるようになった。ただN-BOXも強敵だし、ダイハツは同じ両側スライドドアのでムーヴキャンバスやウェイクがあるので、これらに需要が分散されてり、トップセラー維持は厳しい状況にあるのは確かだ。
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