もっと上を目指せると感じた8代目GTI
8代目フォルクスワーゲン・ゴルフ GTIへかかる期待は、ホットハッチ最古参の1車種として当初から大きかった。家族ユース前提の実用性と、現実的なランニングコスト、スポーツカーに匹敵する走り、一定の特別感を高次元で叶えるモデルは極めて少ない。
【画像】「日常と非日常」の対応力強化 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI 競合サイズのホットハッチたち 全166枚
初代の登場は1976年。ほぼ半世紀の間に、200万台を超えるゴルフ GTIが世界中へ届けられている。世代によって評価に多少の浮き沈みはあったものの、先代の7代目は歴代最高水準に仕上がっていた。
8代目も、単体で見れば素晴らしい内容にある。実用的で速く楽しい。それでもAUTOCARは、ホットハッチの理想像へ1歩届いていないと判断している。
インフォテインメント・システムは、ソフトウエアの安定性とインターフェイスのデザインが今ひとつ。動力性能は高まったものの、サスペンションも同時に強化され、甘美なバランスが崩されていた。もっと上を目指せると感じた。
ただし、フェイスリフト後に本当の輝きを得てきたのが、歴代のゴルフ GTIでもある。8代目も、2024年に技術者による手が加えられた。高いハードルは、クリアできただろうか。仕上がりを確かめてみよう。
EA888型は265psへ向上 電子制御LSDが標準装備
ゴルフのスタイリングは、初代からの進化というアプローチで成功してきた。1974年の初代と2024年の8代目は、同じ系譜にあることがわかる。リアウインドウのラインや太いリアピラー、水平基調のフロントマスク、シンプルな面構成。ちゃんとゴルフだ。
GTIとしても同様。レッドが差し色で用いられ、随所にGTIのロゴがあしらわれ、マフラーは2本出し。通常よりインチアップしたホイールが、違いを静かに主張する。控え目な差別化こそ、魅力の1つだろう。
小改良では、前後のライト類やバンパーのデザインを変更。5代目が履いていたような、テレダイヤル風の19インチ・ホイールが新設定された。フロントグリルのVWエンブレムは、イルミネーションで光る。
エンジンは、EA888型を名乗る2.0L 4気筒ターボ。最高出力は244psから265psへ引き上げられた。GTI クラブスポーツを指定すれば、296psへ強化される。他方、後期型では6速MTが廃盤に。7速デュアルクラッチATのみの設定になった。
サスペンションは、前がマクファーソンストラット式で、後ろがマルチリンク式。通常のゴルフからスプリングレートは前で5%、後ろで15%強化され、車高は15mmダウンしている。
オプションの、ダイナミック・シャシー・コントロール(DCC)へ組まれるアダプティブダンパーもアップデート。タッチモニターを介して、減衰特性を任意に変更できる。ステアリングレシオは7%クイックになった。
フロントアクスルには、電子制御の「XDS+」リミテッドスリップ・デフが標準装備。従来は、オプション設定だった。
GTIらしいインテリア 操作性は大幅に改善
プラットフォームはこれまで通りMQBだが、後期型では「エボ」に。同時に、インフォテインメント・システムは大幅にアップグレードされた。
インテリアは、タッチモニターの存在が目立つものの、明らかにゴルフ GTIだとわかるもの。タータンチェックのシート・クロスがうれしい。ステアリングホイールはリムが太く、レッドのステッチがあしらわれる。心地良い運転姿勢を探しやすい。
ペダルの間隔は広く、前方視界は良好。太いリアピラーと薄いリアウインドウで、後方の視界は余り優れないけれど。
Mk8.5へ進化したことで、タッチモニターは12.9インチへ拡大。増えた画面面積を活かし、主要な車載機能の操作メニューが固定表示される。モニター下部のタッチセンサー、スライダーにはイルミネーションが内蔵された。
ステアリングホイールには、実際に押せるハードボタンが並ぶ。内装の素材もアップグレードされている。一部に、少しローコスト感のあるパネルも残っているが。
車内空間は充分。前席だけでなく、後席にも背の高い大人が問題なく座れる。カップホルダーや小物入れなども、随所に用意されている。
荷室容量は374Lで、このクラスの平均。荷室のフロアは高さを変えられ、後席の背もたれを倒した時にフラットにできる。
増強されたトルクが有効 シャシーは着実な進化
確認が長くなったが、路上へ出てみよう。走り出した印象も、実にゴルフ GTIらしい。EA888型ユニットが圧巻のパワーを繰り出すわけではないが、エネルギッシュな個性は、10年以上に渡って特長の一部を構成してきている。
20psの増強は体感できるものの、それ以上に、太くなったトルクが有効。1600rpmから37.6kg-mを発揮し、中間加速のたくましさが増している。アイドリングより少し上、1000rpmからぐんぐん加速し、レッドライン目掛けて吹け上がる。
その間、7速DSGは滑らかにギアを選択。シフトパドルで自ら変速しても同様だ。
ブレーキも素晴らしい。何度かフルブレーキを試したが、フェードの兆候は見られなかった。ペダルを踏んだぶんだけ制動力が強くなる、セットアップも評価したい。
走行中の風切り音や転がり音は、最小限。強調されたエンジン音を、しっかり鑑賞できる。ダイナミック・モードのスポーティな響きも良いが、コンフォート・モードも安楽で悪くない。
乗り心地と操縦性のバランスは、GTIが強みとしてきたこと。前述通り、8代目は少し引き締めが強く、グリップ優先のバランスに仕立てられていた。
しかし、フェイスリフトでサスペンションが見直され、試乗車に装備されていたオプションのDCCも再調整。シャシーは、着実な進化を果たした。
ノーマル・モード時は、優しく親しみやすい。路面の凹凸を、以前よりしなやかに吸収してくれる。対して、スポーツ・モードではハードに転じ、ワインディングへ挑もうという気持ちを鼓舞してくれる。
日常と非日常への対応力が向上
クイックになったステアリングと、優れたフロント・グリップ、姿勢制御が相乗し、前期型よりコーナリング速度は上昇。フロントノーズの反応も即時的だ。遥かにフラットに旋回し、正確性も増し、操縦しやすくなったといえる。
リミテッドスリップ・デフは、コーナー出口でのトラクションを担保。ストレート目掛けた鋭い加速を支える。ハイグリップなブリヂストン・タイヤも頼もしい。
一方、ステアリングホイールは若干軽すぎ、感触も薄め。旋回途中でアクセルペダルを一気に戻しても、リアが横へ流れるような振る舞いはなく、淡々とラインを辿っていく。没入感が大幅に高まった、とまではいえない。
フェイスリフトで、動的特性の幅が広がり、日常と非日常への対応力が向上したことは明らか。ただし、基本的にハード側なことは変わらず、7代目を凌駕したわけではないだろう。
燃費は、動力性能を考えれば優秀。カタログ値は14.0km/Lで、CO2排出量は162g/kmに抑えられている。
客観的に評価すれば、8代目ゴルフ GTIは7代目より優秀だ。同等以上に速く、装備は最先端で、価格価値も高い。今回のフェイスリフトで、さらに実力が磨かれたことは間違いない。DCC付きなら、乗り心地も良くなっている。
細かな改良の積み重ねで、着実なアップデートへ結びついている。しかし、日常的な環境での印象を踏まえると、先代ほどの多様性を得ていないことも否定はできない。2024年のゴルフ GTIへ寄せるわれわれの期待が、大きすぎるのかもしれないが。
◯:動的特性の幅広さ 落ち着いた身のこなしと敏捷性 引き上げられたホットハッチとしての楽しさ
△:ややハードな乗り心地 ドライバーとの一体感 先代に届かない丸みを帯びた個性
フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(英国仕様)のスペック
英国価格:3万8900ポンド(約747万円)
全長:4295mm
全幅:1790mm
全高:1465mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:6.2秒
燃費:14.0km/L
CO2排出量:162g/km
車両重量:1429kg
パワートレイン:直列4気筒1984cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:265ps/5250-6500rpm
最大トルク:37.6kg-m/1600-4590rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(前輪駆動)
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