トヨタ「クラウン」の改良モデルに塩見智が試乗した。次期クラウンはSUV化されるとの噂があるなか、はたしてクラウンの魅力とはなにか?
気になるエンジンの音と振動
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先日「トヨタ・クラウン、次期型でSUVに!?」という新聞報道があった。1955年の登場以来、2ドアやワゴンをラインナップしたときこそあるが、現行型の15代目にいたるまで一貫して4ドアセダンを基本としたクラウンが、背高の“クラウン・クロス”になってしまうかもしれないのだ。
かつて同社のフラッグシップサルーンとして君臨したが、1989 年の「セルシオ」登場以降は肩の荷を降ろした感がある。さらに2005年にレクサスが日本へ里帰り的に導入されてからは、“迷走”とまでは言わないものの、糸の切れた凧のようにも見えるときもあった。特に2012年に登場した14代目は、稲妻のようなフロントグリルを採用したりピンクのボディカラーを設定したりと、エキセントリックな仕様が目立った。2018年に登場した現行型で上級版のマジェスタが廃止されるなど、言われてみると緩やかに手仕舞いを始めたように見えなくもない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui試乗したのは、同社最新世代の高効率2.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジンに、モーターとバッテリー、それに動力分割機構を組み合わせたハイブリッド版(2WD)。ただ、いきなり苦言を呈するようで申し訳ないが、エンジンの音と振動が気になった。エンジンがかかった瞬間に“ブーン”というあまり心地よくない音と振動を感じるのだ。ハイブリッドはエンジンの停止と始動を頻繁に繰り返すし、そのタイミングは完全にはドライバーの管理下にないので、よけいに気になる。冷間始動時にとくに大で、とはいえ暖まっても期待したほど改善されなかった。
2018年の現行クラウン登場のタイミングで試乗したときには、この点がこんなに気になった記憶はないし、おなじエンジンを横置きする「RAV4」や「ハリアー」でも始動時にここまで音と振動が気になることはないが、とにかく今回乗ったクラウンではそう感じた。
Hiromitsu Yasuiギリギリ扱いやすいサイズ
動力性能自体は十分。実用上まったく問題ない加速力をもつ。また低負荷を回生ブレーキが担い、高負荷を油圧ブレーキが担う減速の連携もうまくいっている。車載燃費計も、20km/Lのカタログ燃費があながち大げさではないと思わせる数値を表示し続けた。とにかく加速中の音と振動だけが気になった。
レクサスや各種ミニバン、SUV、さらには各種エコカーの人気が高まって以降、看板車種ではなくなったかもしれないが、それでもクラウンが支持され続けてきたひとつの理由は、大きく立派に見えるデザインを採用しつつ、実寸は全長4910mm、全幅1800mmとギリギリ扱いやすいサイズにとどめているからだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui65年の歴史をもつクラウンだけに年齢の高いユーザーへの配慮も行き届いている。両脇を歩行者が行き交う狭い道路でも不安なく扱うことができるし、駐車にも苦労しない。
配慮はユーザーインターフェイスにも見てとれる。近頃多い、機能を集中させたダイヤルスイッチや音声認識などには目もくれず、ひとつにひとつの機能が割り当てられたスイッチが多数並ぶ。スマホやタブレットが普及したため、タッチパネルは採用されているが、やはり各表示が大きく、タップしやすい。さらに今回の仕様変更で大画面(12.3インチ)のタッチワイドディスプレイが採用された。そのすぐ下には“動くルーバー”付きのエアコン吹き出し口が健在だ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui“クラウン・マジック”
サスペンションの設定もシートのクッションもソフトな方向でまとめられていて、乗り心地は低速であればあるほど快適だ。見栄えよりも使いやすさを優先させた操作系に囲まれ、柔らかい乗り心地に包まれてものの30分も乗っていると、“クラウン・マジック”にかかった自分に気付く。「これでいいか」と、思っているのだ。
マチュアなクルマとして安全性能も抜かりなく、同社の最新バージョンにアップデートされた。歩行者検知(昼夜)と自転車運転者検知(昼)を行い、衝突回避または被害軽減に寄与する緊急ブレーキシステムの「プリクラッシュセーフティ」は、交差点右折時の対向直進車、ならびに右左折時に横断してくる歩行者を検知可能としたし、低速時に自車直前の歩行者や自転車運転者、車両を検知して加速を抑制する“低速時加速抑制機能”も付いた。緊急時のドライバーの回避操舵をきっかけに操舵をアシストする“緊急時操舵回避支援機能”も加わった。また(障害物の有無にかかわらず)アクセルの踏み間違いを検知すると加速を抑制するプラスサポートを販売店装着オプションとして設定した。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiとはいえ、久しぶりに乗ったクラウンはいつも通りのクラウンだった。ユーザーとともに順調に歳を重ねているように思えた。ぼく個人はクラウンが次期型で、FWD(前輪駆動)のSUV「クラウン・クロス」になっても“クラウンロス”になることはない。
けれど、仮にクラウンは現行型が最後なのだとしても、歴代モデルが成長期の日本を象徴してきたという意味で日本自動車史上もっとも重要な存在であるという事実は変わらない。こんにちまで現役でありつづけたという一点によって “国民栄誉賞”が決まっているべき1台であると思う。
この先もあるのか、それともなくなるのかはわからないけれど、ひとまず「ここまでの65年間おつかれさまでした」と、言いたい。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui文・塩見智 写真・安井宏充(Weekend.)
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