ユーロトンネルと同年に生まれたRS2
1994年の夏。故エリザベス女王は、英仏海峡「ユーロ」トンネルの開通を華々しく祝った。ロンドンのヒットチャートは、ウェット・ウェット・ウェットの「愛にすべてを(ラブ・イズ・オール・アラウンド)」が賑わせていた。
【画像】ポルシェと共作の象徴的ワゴン アウディRS2を写真でじっくり 現行のRS4とRS6も 全104枚
これと同年に、画期的なグランドツーリング・ステーションワゴンがドイツで誕生した。アウディRS2 アバントだ。スーパーカーをひるませる、現在のRS6 アバントの原点にあるモデルだ。
上品で豪奢な車内空間を得たRS2は、英国とフランスの距離が縮まったことへ湧いた、当時の高揚した雰囲気を振り返るのに丁度いい。この土地の交通網を象徴する2つの誕生を振り返り、祝杯を上げるのに、30周年の節目はピッタリだ。
ユーロトンネルに関しては、日本では馴染みが薄いかもしれない。エンパイアステート・ビルやパナマ運河に並ぶ、近代建築を代表する巨大な偉業といえる。
グレートブリテン島と欧州大陸をトンネルで結ぶというアイデアは、19世紀末には存在していた。実際に建設が始まったのは、1988年。合計11台のボーリングマシンが投じられ、延べ1万3000名の労働者が汗を流した。
トンネルの全長は50.5km。海底部分は37.9kmあり、地球上の鉄道用トンネルでは最長。そこを潜る車載列車、ル・シャトルの長さは約800mある。英国はEUから離脱したとはいえ、経済の要衝であることは変わらない。
ポルシェの手で319psと262km/hを獲得
他方、アウディはRS2の開発で、高性能モデルは2シーターであるべきという常識へ挑戦した。もっとも、当時のアウディ80をベースにしたS2や、100をベースにしたS4は、既にステーションワゴンで支持を集めていたが。
さらに高性能なモデルを作る時、アバントは自然な流れだったといえる。投じられた技術は、ユーロトンネルほど圧倒されるものではないが、ポルシェという間違いない相手が選ばれた。その深い関係性は、同じグループ傘下になった今でも続いている。
アウディUrクワトロを由来とする2.2L直列5気筒エンジンは、ポルシェによってチューニング。大径のターボチャージャーが追加され、最高出力は319ps、0-100km/h加速は5.4秒、最高速度262km/hという俊足が与えられた。
ドライブトレインは、トルセン式センターデフを備えた四輪駆動。前後のトルク分配は、25%から75%までの変化を可能とした。ブレーキとダンパー、アンチロールバーもアップグレードされた。
スタイリングも、専用バンパーで差別化。ドアミラーとウインカーは同時期のポルシェ911用、アルミホイールは964 カップ用のものが組まれた。
発売時の価格は、4万5705ポンド。現在の金額では、約9万5000ポンド(約1824万円)に相当する。現在は走行距離が伸びた例でも、7万5000ポンド(約1440万円)を超える金額で売買されている。
生産数は約2900台で、英国へ正規導入されたのは180台。122台が、現役状態にあるようだ。今回お借りした1台は、走行距離が1万500km。博物館のコレクション級に状態が良い。
これ以上改善しようがないダッシュボード
イメージ通りの、ノガロ・ブルーに塗られたドアを開くと、ブルー・アルカンターラで仕立てられたレカロシートが迎えてくれる。腰を下ろすと、ホワイトのメーターが気分を盛り上げる。
6速マニュアルのシフトレバー前には、補機メーターが3枚。すべてが正しい位置にあり、確認しやすい。これ以上、改善のしようがないように思えてしまう。
今年の夏もグレートブリテン島は暑く、沿岸部でも気温は30度超え。エアコンが強力でうれしい。陽光を浴びながら南下する道のりは、至福の時間だった。
直列5気筒ターボのさえずりが、路肩の壁面へ反響して耳へ届く。アルミホイールは、控え目な17インチ。ロードノイズは、現代的なホットハッチより小さい。
惜しいことといえば、カップホルダーがないことくらい。同行したフォトグラファーのマックス・エドレストンが、持ち込んだコーヒーの置き場がないと困っていた。
ステレオデッキはカセットテープ。ブルートゥースはもちろん、外部入力も付いていない。退屈なFM放送はやめて、雑談を楽しむことにした。
これまで筆者は、ユーロトンネルを抜けるル・シャトルを何度も利用してきた。しかし今回は、このトンネル自体がテーマの1つだから、改めて観察してみた。
チケットで割り当てられた列車へクルマを導く、乗車ターミナルの迷路のような誘導路は面白い。この設計の妙には驚かされる。プロセスもスムーズだ。
30年の月日を忘れてしまう速さ
トンネルを抜ければ、眩しい太陽が照りつけるフランス。幹線道路から外れて、フランス北部の沿岸、ダンケルクの町へ立ち寄った。
RS2は、ブレーキペダルのソリッド感が乏しい。だが積極的に運転し始めれば、30年という過ぎた月日は忘れてしまう。3000rpmまで5気筒ターボを引っ張ると、本当に速いのだ。
レブリミットへ吸い込まれるような感覚は、胸をすくように爽快。素早く正確な変速を決めれば、B5世代のRS4へ迫るような勢いを楽しめる。
操縦性も素晴らしい。ただし、初めは大きいボディロールと、明確なアンダーステアに驚かされた。ブレーキを賢く効かせ、計画的にライン取りすれば、リズムに乗れる。出口では、タイヤを路面へ食らいつかせられる。
鮮烈なほどではないが、2速と3速を上手に操ることで、充足感へ浸れる。日が暮れるまで、駆け回っていたくなる。
あいにく、今日は時間がない。グレートブリテン島へ戻るには、エアコン全開で、入国審査の列へ並ぶ必要がある。辛口なブリュットを、1本そそくさと調達した。
RS2の古さを感じることの1つが、1702mmとスリムな全幅。車載列車の中を、簡単に走れる。全高も低い。近年のSUVでは、背の高いクルマ用の貨車を選ぶ必要がある。列車が設計された時代の平均的なファミリーカーと、現代のそれは違う。
「クルマの全幅が広がってきたので、対応する必要があります。列車は、そのアップグレードを控えているんです」。ル・シャトルの責任者の1人、デボラ・メレンズ氏が説明する。
ドイツの自動車業界を巻き込んだ象徴
英国のEU離脱、ブレグジットの影響には、すぐに追われたそうだ。複雑な通関規制へ対応し、トラックなどを運ぶ必要があった。現在は、電子化された国境通過システムによって、迅速に処理されている。手続きは、従来より約1分伸びただけとのこと。
「ル・シャトルは、環境へ非常に優しい交通手段です。CO2の排出量は、フェリーより遥かに少ない。電気で走りますから。バッテリーEVのユーザーなら、私たちのサービスを利用しようと考えてほしいですね。環境負荷の改善にも、常に積極的です」
「世界的にも、象徴的なものだと思います。この30年間、私たちと似たサービスを提供するところは、1つも表れませんでした」。メレンズが続ける。
RS2は、ドイツの自動車業界を一気に巻き込んだ。BMWとメルセデス・ベンツは、より敏捷な後輪駆動の高速ステーションワゴンで対抗。アウディ自身もRS4とRS6を投入し、天候を問わない能力を磨き込んできた。
アウディ・スポーツは、電動化の道を歩もうとしている。それでもこの特徴は、次世代にも受け継がれることだろう。
さらに30年後、RS2は完全なクラシックカーになっているはず。マニアの間では、これからも象徴的な存在であり続けるのではないかと思う。筆者も、すっかり魅了されてしまった。
アウディRS2 アバント(1994~1995年/英国仕様)のスペック
英国価格:4万5705ポンド(1994年時)
全長:4496mm
全幅:1702mm
全高:1397mm
最高速度:262km/h
0-97km/h加速:5.4秒
燃費:6.4-9.2km/L
CO2排出量:−
車両重量:1595kg
パワートレイン:直列5気筒2226cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:319ps/6500rpm
最大トルク:41.6kg-m/3000rpm
ギアボックス:6速マニュアル(四輪駆動)
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みんなのコメント
昔からの外交下手な我が日本。世界中から見れば単なるATMなんですよ。そしてその原資は日本国民から巻き上げられた税金。
歴代の総理大臣は皆さん、こうやって金をばら撒くだけの外交しか出来ないいわば後進国であって、岸田君なんてウクライナ支援で何兆円の支援を約束したかご存知ですか?怒らない自国民、選挙にいかない、だから今や売国家二世三世の政治屋しか居ないんです。
もうすぐ大貧困化しますよ。日本は。
ユーロトンネル掘ったのは日本の川崎重工だぞ