現在三菱が3本の柱として掲げているのがSUV、EV化、ADASだ。さまざまな自動車メーカーがその在り方を模索する中で、三菱の行こうとする道はどのようなものなのか? ジュネーブ・ショーの会場で開発責任者にその決意を聞いた。REPORT◎大谷達也(Tatsuya Otani) PHOTO◎佐藤靖彦(Yasuhiko Sato)
今年のジュネーブ・ショーで2019年モデルのアウトランダーPHEVを発表するとともに“三菱e-エボリューション・コンセプト”をメインステージに展示した三菱自動車。そこから見えてくるのは、長年培ってきた4輪運動制御技術を基盤としつつ、SUV、EV、AIシステムといった領域でこれまでにない価値を創造しようとする彼らの新たな技術戦略だ。
もっとも、SUVやEVといった言葉は、もはや世界中の自動車メーカーによって言い古された感のあるキーワードでもある。彼らはいかにして、そこから新しい価値を引き出すというのか? 鍵となるのは電動化技術と4輪運動制御技術の優れた親和性にあると、電動技術担当の百瀬信夫チーフテクノロジーエンジニア(CTE)は力説する。
「電気モーターでもっとも魅力的なのは低速域における駆動トルクの太さ。また、制御性が高いため、内燃機関よりもはるかに優れたレスポンスを実現できます。とりわけ電気モーターは数式によるモデル化が容易なため、緻密な制御を実現しやすいというメリットがあります」
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こうした電気モーターの特性を生かすことで三菱の4輪運動制御技術はどう進化していくのか? この領域を担当する澤瀬薫CTEに訊いた。
「従来の4輪運動制御技術はメカニズムを基本としていたので、技術的に様々な制約が存在しました。これを電気駆動に置き換えると、技術的な自由度が格段に広がり、従来はできなかったことが可能となります。百瀬が説明したとおりレスポンスや制御性の向上はその最たるものですが、メカニズムで駆動力配分を行うとするとこれまではなくてはならな
かった湿式多板クラッチが不要になるのも大きなメリットです」
ご存じのとおり、湿式多板クラッチは圧着力を制御することで伝達する駆動力を調整するデバイスだが、クラッチを滑らせるため必然的に伝達ロスが生じるほか、レスポンスや耐久性についても制約が存在した。
ところが、電動化技術を活用すると湿式多板クラッチが不要となり、従来はシステムの介入が必要になったときに初めて動作を開始したトラクション・コントロールやスタビリティ・コントロールなどを通常走行時にもわずかに介入させられるため、既存の方式を大きく上回る滑らかな制御が可能となり、ドライバーには強い安心感を、乗員には優れた快適性をもたらすことができるという。
澤瀬CTEが続ける。「前後のトルク配分でいえば0:100から100:0まで自由自在。しかも、メカ式制御より格段に速いスピードでコントロールできます」
しかし電動4WDシステムの開発では、長年培ったノウハウや透徹した思想がむしろ重要になると澤瀬CTEは主張する。「何でもできるからこそ、何をしようとするかが大切になります。気がつけば、私たちが得意としてきたSUVとEVが世の中のメインストリームになっている。そこで三菱自動車がどのようなプレゼンスを示すことができるかが重要になると理解しています」
e-エボリューション・コンセプトに採用されたトリプルモーター方式による理想的な4WDシステムのイメージは、前述の2019年モデルのアウトランダーPHEVに盛り込まれている。これこそ、ふたりのCTEが追い求める究極のSUVの途上の姿だ。2リッターから2.4リッターにエンジンの排気量を拡大し、アトキンソンサイクル化することで、高効率領域を低回転側に拡げた。さらにリヤモーターの出力を60kWから70kWに高め、バッテリー容量も15%増の13.8kWhとすることで走る楽しさとEV性能を両立した。EVモードの最高速も135km/hまで高められた。もちろん肝となるS-AWCによる制御にも「SPORT」モードを追加することで旋回性能を高めた。このノウハウを活かして、いずれ登場するトリプルモーター車でさらなる進化を遂げることは間違いない。
三菱自動車のチャレンジはこれからも続く。
電動化された4WDは、いったいどんな走りをもたらしてくれるのか? 澤瀬CTEは「ドライバーの操作に対してクルマの動きが遅れるのは、クルマに重さがあるから。そこに電動化技術と4輪運動制御を入れるとクルマの動きに伴う慣性を打ち消して、タイムラグが限りなくゼロに近い操作感を生み出せます」と説明。いっぽうの百瀬CTEは「これまでSUVは『荒々しい』とか『粗暴』などと言われてきましたが、モーターの低速トルクと制御性を生かすことでもっとスマートでスムーズな走りを実現したい。バッテリーの搭載で重心高が下がってロールが抑制され、旋回中にドライバーのアイポイントが変化しにくくなるのも電動化車両の魅力。アウトランダーPHEVに乗っている家内は『街中での取り回しが容易になった』と喜んでいます」という。こうした技術は今後も順次実用化されていくが「“究極のSUV”最初の1台は、今年55歳の私たちが定年を迎えるまでに商品化したいですね」と打ち明けてくれた。
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