新シリーズ 舘内端の自動車進化論
内燃機関自動車を崩壊させるのは石油
【舘内 端 連載コラム】第39回 近代日本史:内燃機関自動車が崩壊する
自動車の使う石油の量は
自動車は石油で走る。では、自動車は石油をどのくらい使うのだろうか。これを知ると、さすがの内燃機関自動車ファンも考えざるを得ないかもしれない。いじわるをするわけではないが、真実は知っておかなければなるまい。
しばらく数字が並ぶが、面倒な方は各章のまとめの濃く記した数字だけご覧いただければおわかりいただけるようにしてあるので、とりあえずお読みいただきたい。
まず、世界の石油消費量である。2012年のデーターだが、
42億500万トン
であった。
この内、交通分野の消費量は、
25億700万トン
であった。つまり交通分野で世界のおよそ60%を使ってしまうということだ。
自動車ではどうか。 自動車は交通分野の消費量の90%を使う。ということで、交通分野の石油消費量の59.6%の90%で、「自動車は世界の石油のおよそ54%を使ってしまう」のである。消費量は22億7070万トンだ。
自動車は、世界の石油の半分以上を燃やしてしまう! これはいかに自動車の石油依存度が高いかを如実に示すものである。石油は自動車を走らせるためにあり、自動車は掘り出された石油を使い果たすためにある。自動車と石油の切っても切れない関係がここにある。
日本の自動車は中東石油で走る
石油採掘量の半分以上を自動車は使ってしまう。石油にいったん何かあれば、最初に困るのは自動車交通である。GSに2時間並んで給油されたのはたった20リットルだったという恐怖の東北震災時の石油事情を思い出すまでもない。
現在、トランプ政権がイランの経済制裁のために、日本にイランから石油を輸入しないよう圧力をかけている。ちなみに日本のイランからの輸入量は全体の5.5%である。
ついでに上げれば、1位がサウジアラビア(40.2%)、2位がUAE(24.2%)、3位がカタール(7.3%)、4位がクウェート(7.1%)、5位がロシア(5.8%)、6位にイランである。
「えっ、ほとんど中東じゃないの?」と驚かないでほしい。紛争、戦争が多く情勢が不安定な中東であるが、それでも世界でもっとも豊富な石油の埋蔵量を誇り、採掘量も世界一である。世界の自動車は中東がなければ走れない。
機雷1発で日本の自動車は止まる
世界の多くの国に石油を送り届ける中東だが、供給は1発の機雷で止まる。
中東の石油のほとんどはペルシャ湾周辺の国々から採掘されている。上記のイランしかり、世界最大の埋蔵量の多さを誇るサウジアラビア、そしてイラク、アラブ首長国連邦UAE、クウェートである。ペルシャ湾はまさに自動車にとって母なる海である。
ところがペルシャ湾から石油を航海に出すには石油タンカーはホルムズ海峡を通らなければならない。ここが石油危機を何度も演じたのであった。
ホルムズ海峡の幅は、およそ33km。実際にタンカーが航行できる幅は10kmほどだといわれる。衝突を避けるために、ここを3kmごとに区切って航路を作る。水深は深くてたった100m。航行には慎重な操舵が求められる。
ここを通過するタンカーによって、1日に1700万バレル(およそ27億リットル)の石油が公海に出て、それぞれの国に運ばれる。日本に来る石油タンカーの80%近くがホルムズ海峡を通る。年3400隻ほどである。日本ばかりか欧米を除いたほとんどの国にとって石油は生命線・ライフラインであり、そのまた生命線はホルムズ海峡なのである。
90年代に石油の純輸出国だった中国は、現在では国内需要の70%を輸入石油に頼る。そのほとんどが中東からのものだ。中東からの石油が途絶えたとき、おそらく中国には大規模な暴動が起こり、現政権は持ちこたえられないだろう。
そこを狙って中東のいくつかの国、あるいは非政府組織は、「機雷を敷設する」と世界を恫喝する。近々では湾岸戦争時に機雷が敷設され、ホルムズ海峡は封鎖された。
ホルムズ海峡の1発の機雷敷設で、日本の自動車は止まる。3カ月分の備蓄石油がなくなったとき、物流も交通も発電も、全滅である。
自動車は石油と深く関係しており、石油を入手するには、中東との関係、中東と米国との関係に深くコミットしなければならず、それは日本も硝煙(火薬)の臭いを嗅がなければならないことを意味している。日本の自動車は背後に中東を抱えていることを片時も忘れてはならない。
日本の自動車は自衛隊に守られている
湾岸戦争から1年。海上自衛隊の5隻の掃海艇と1隻の補給艦がペルシャ湾にいた。自衛隊にとって初めての海外勤務であり、絶対に戦闘行為は許されなかった。
1991年5月27日。7000海里の航海を終えてドバイのアル・ラシット港に入港したのは、落合1等海佐を指揮官とする掃海部隊で、旗艦(フラッグシップ)は掃海母艦「はやせ」。従うのは「ひこしま」、「ゆりしま」、「あわしま」、「さくしま」の4隻の掃海艇と1隻の補給艦「ときわ」である。計511名の自衛隊員がきわめて危険な任務である機雷の掃海にあたった。
ちなみにイラクのクウェート侵攻(1990年8月)を契機に翌1991年1月から始まった湾岸戦争で、イラクは米軍のクウェート沖合からの上陸を阻止すべく、沿岸に1200発の機雷を敷設した。米艦船がその機雷に触れている。
自衛隊の任務は、これらを含めての掃海であり、後にこの任務は戦争行為だとの論議を呼んだ。掃海作業は6月5日から始まった。それから99日間。自衛隊の掃海部隊は、米国と多国籍軍派遣部隊と協力して、1発ずつ慎重に機雷を爆破させ、取り除いた。
厳しい話だが、殉職者が発生した場合に備えて棺桶用の材木も積まれていた。また、万一の場合に備えて認識票も渡された。それほどに緊張と覚悟を強いられた任務であった。さらに、2名の自衛官が任務を拒否したことで自衛隊法違反の疑いで逮捕された。
中東の政治的安定があっての石油であり、自動車(内燃機関自動車)である。そして中東の安定を曲がりなりにも確保しているのは、いわずもがなの米国(軍)だ。そして、日本との関係でいえば日米安保である。少なくとも自動車がエンジンで走り、その燃料として石油を使う限り、日本は米国の言いなりに行動しなければならない。
内燃機関自動車を使うということは、あるいは支持するということは、そういうことであり、沖縄を始め日本国内の米軍基地も容認しなければならないのである。
緊迫するタンカーの航路
石油は日本と中国の間に緊迫した状況を生み出している。正確には、中国とアジア諸国の間の緊張状態の一因が石油である。
中国の石油輸入の中東依存度はおよそ50%である。残りはアンゴラ14.8%、ロシア9.0%、ベネズエラ5.6%と非中東地域だ。ちなみに日本の中東依存度は80%以上と異常に高い。
それはともかくとして、中東からの輸入石油を積んだタンカーは、上記したペルシャ湾のホルムズ海峡を通るだけではなく、たとえば日本に輸入する場合はペルシャ湾から1万2000kmの航路には、シンガポール沖を抜ける「マラッカ・シンガポール海峡」を通るルートと、インド洋からインドネシア、フィリピンを抜ける「ロンボク・マッカサル海峡」を通るルートがある。いずれも狭く、水深は浅く、しかも海賊まで出没する難所である。石油輸入航路のチョーキング・ポイントだ。
さらにマレーシア、ブルネイ、ベトナム、フィリピンそして中国が境界線を主張する南シナ海が、政治的なチョーキング・ポインになる。1974年に人民解放軍が南ベトナム軍と戦端を拓いてから、中国軍と各国の武力衝突が連続している。近々では2012年に中国とフィリピンがスカボロー礁の領有権をめぐって2カ月余りもにらみ合った。あるいは中国と日本との関係でいえば、尖閣諸島の領有権をめぐる緊張関係がある。
中東依存度が50%の中国としては、これらのアジアのチョーキング・ポイントをタンカーに無事、通過させるためには、海軍の増強を図らざるを得ず、航空母艦の建造が急がれている。石油を巡る軍事的緊張は中東だけではなく、アジアも同様である。
逆接的にいえば、石油を使わない国こそが、もっとも安全であり、経済的に発展することになる。
さて、世界はそうした安全で経済が発展するエネルギーに向かってすでに動き出している。その様子は次回以降で。
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