日本車は欧州車に比べてシートがイマイチ、とは昔から言われてきたが、快適性、利便性を求めて個性的なシートがいろいろ登場している。当然ながら、欧州車に影響を与えたものもある。
日本メーカーのすばらしいのは制約があるなかで、どうすればユーザーが喜ぶかを考え最大限の効果を得るために研究を続けていることだ。失敗したものもあるが、その姿勢を評価したい。ここでは個性的なシートを紹介していく。
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文:永田恵一/写真:TOYOTA、HONDA、MAZDA、NISSAN、DAIHATSU、MITSUBISHI
脱着可能な2列目シート
カローラをベースとしたハイトワゴンに3列シートを押し込んだスパシオ。使い勝手のよさで人気モデルとなり、カローラの年間販売ナンバーワン死守に貢献
1997年にカローラの派生車としてデビュー。カローラをベースのハイトワゴンで、デビュー時は2-0-2、2-2-2の2タイプが設定され、2-3-0タイプが追加された。
1990年代後半は、ミニバンを中心にシートアレンジの多彩さを競っていたこともあり、スパシオも例にもれず全長4200mm前後というショートボディに3列シートを配置することによって多彩なユーティリティを実現していた。
ここで注目したいのが2-2-2タイプのセカンドシートで脱着式となっていて、TPOに合わせて2-0-2とアレンジすることができた。
スパシオの6人乗り仕様(2-2-2)はこのような配置となっていた。2列目シートは脱着可能で、3列目のスペースを広げる2-0-2の4人乗り仕様としても使うことができた
ただし脱着するにはシートが重すぎたこともあり、せっかく脱着式シート仕様を買ったのに1度も脱着したことがないというオーナーも数多くいた。
2001年に2代目に切り替わったが、脱着式のセカンドシートは廃止された。オープンカーのハードトップと同じで、外した後の置き場所に困るっていうのはあるだろうなぁ。この置き場所問題が定着しなかった最大の理由でしょう。
電動床下収納シート
2003年にデビューした3代目オデッセイ。2代目までとはガラリとコンセプトチェンジして登場。ワゴン的にも使われたのでサードシートの収納は必須だった
ミニバンのサードシートの収納方法は大きくわけて、(1)左右跳ね上げ式、(2)前後スライド式、(3)フォールダウン式、(4)床下収納式の4タイプある(複合タイプもあり)。
オーナーや経験したことのある人ならわかるが、ワンタッチで操作できるようにしたり、ヘルパースプリングを使ったりしてはいるが、この収納作業はけっこう面倒で力もいる。
日本車の常套手段でお得意の電動化があるが、左右跳ね上げを電動化するのはかなり難しい。そんななかで電動化されたのが床下収納式。
2003年にデビューした3代目オデッセイのトップグレードのLに標準装備(M、アブソルートには条件付きでオプション設定)て登場した。
オデッセイの発表会では福井社長(当時)が実演するほど画期的なシートだった。実際に便利で面倒くささとは無縁でスイッチ操作ひとつで楽々アレンジ可能の優れもの。
3代目オデッセイの装備面での目玉のひとつが電動床下収納サードシート。シートの収納には力がいるし手間もかかるので電動化されたのは画期的だった
傍目には好評に映っていたが、ホンダは2008年にフルモデルチェンジして登場した4代目オデッセイでは設定そのものをなくした。
同じタイプの電動床下収納サードシートは現行モデルではトヨタエスティマにも採用されている。2006年のデビュー時から一定の需要はあるようだが、故障の報告も少なくない。
現行エスティマは2006年にデビューした時から電動床下収納サードシートを一部グレードに設定。センサーの異常により動かなくなるケースもあるという
ヘッドレストスピーカー
ソフトトップを閉めてもオープン状態にしてもオーディオを聞く環境としては悪いが、ヘッドレストスピーカーにより大きく改善。初めて乗ると不思議な感覚になる
ND型と比べるとシートもチープでシンプルなインテリアだが、当時としては画期的なヘッドレストスピーカーをラインナップし音楽好きのニーズに応えていた
シートとセットで安全性、快適性を高める必須のものといえばヘッドレスト。シートそのものではないが、1989年にデビューしたユーノスロードスター(NA型)にはオープンでも音楽が楽しめるようにという計らいで、ヘッドレストにスピーカーが埋め込まれていた。
その後パイオニアと共同開発したセンソリーサウンドシステムに進化しオプション設定された。これはシートバック内蔵された振動体が低音域を、 ドアのツイーターが 高音域をそれぞれカバーすることで音楽環境としては最悪のオープンでもナイスな音場を実現していた。
2代目(NB型)、3代目(NC型)ではシートバックやヘッドレストにスピーカーが内蔵されるタイプは採用されていなかったが、現行の4代目(ND型)でヘッドレストスピーカーが復活している。
現行のND型で復活したヘッドレストスピーカー。グレードにより運転席のみ、運転席+助手席、設定なしと差別化されているので購入前は要チェック
コンフォタブルキャプテンシート
販売面ではアルファード/ヴェルファイアの後塵を拝しているが、快適性、利便性を追求する姿勢は負けていない。だからもったいない……
ミニバンの快適性を高める最も重要なアイテムがシートということに異論はないはず。上級Lクラスミニバンともなれば、リビングでくつろいでいるような錯覚を覚えるほどの豪華なシートがおごられている。外国人VIPもご指名するほどの快適性だ。
2010年にデビューした日産エルグランドに世界初採用されたコンフォタブルキャプテンシートがその最高峰と言える。
コンフォタブルキャプテンシートは、クッション一体型オットマン、シートバック中折れ機能、3層構造パッドを同時に採用することで異次元の快適性を実現している。
エルグランドの贅を尽くしたシートで注目なのは2列目シート。オットマン一体型はほかでもあるがシートバックの中折れ機能が付いていることで快適性は格段アップ
なかでも、シートバック中折れ機能がすばらしい。一般的なクルマのリクライニングは、背もたれの角度が変わるだけなのに対し、コンフォタブルキャプテンシートはわきの下あたりに別のレバーがついていて、下部分と上部分の角度を別々に変えることができるので、背もたれが体にフィットする。
この快適性を一度味わうともうほかのシートでは満足できないという、一見地味だが超絶優れたシロモノ。
助手席シート収納
小さなクルマで困るのは収納スペース。特に軽自動車の場合は基本的に全長、全幅は軽規格いっぱいの状態だから、快適空間を増やせば、ラゲッジを含め収納スペースが狭くなる。これはコンパクトカーでも同じ。
それゆえ、いろいろな場所にポケットエリアを設けたりすることで利便性を高めている。
それはシートについても同じで、助手席シート下収納はシート下のスペースを活用することで収納スペースを増やすことができるという発想から生まれた。
ミライースの助手席シートも上から下までフル活用。これを貧乏臭いと感じるか、便利と感じるかは意見がわかれそうだが、使えるものはしっかり使う姿勢を評価
座った時の快適性を確保しつつ、スペースを無駄なく使うのは日本らしい発想で好感が持てる。
その助手席シート下収納の代名詞的存在となっているのがスズキワゴンRで、スズキではシートアンダーボックスと呼んで、いろいろな車種に拡大中。もちろん、スズキだけでなくダイハツもいろいろな車種で展開中。
そんななか、軽自動車、コンパクトカーではないのに装備していたモデルもある。三菱グランディスだ。
スズキ、ダイハツがシート下のスペースを活用しているのに対し、三菱は座面を持ち上げて収納するタイプを採用していたのが個性的かつ画期的だった。
グランディスに採用されたユースフルシートは名前のとおり使い勝手は無限大。シートは座るためだけのものではない、という発想がすばらしい
★ ★ ★
トヨタセンチュリーが先鞭をつけ、VIPカーの必須装備として世界中で採用されるようになっているマッサージ機能付きシートは、今では運転席を含むフロントシートまで採用されるようになっている。
シート素材でいえば、ヘビーデューティに耐えるようにと採用されたエクストレイルをはじめとする撥水素材など、より快適に過ごせるような工夫が登場している。この先も新たなもアイデアが登場するはずだ。
クルマのシートは座るためだけでなく、カーライフを楽しく豊かにするための重要なアイテムであることがわかる。
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