軽自動車の売れ筋はスライドドア付きのスーパーハイトワゴン。だがこのスライドドアを持たないヒンジドアのハイトワゴンは、スライド機構や開閉モーターを持たない分軽く、価格も安くなるというメリットがある。今回はヒンジドア軽のコスパに迫る!!
文/渡辺陽一郎、写真/池之平昌信、ベストカー編集部
軽い! 安い! うまい! スライドドアを持たない軽ハイトワゴンはコスパ最高だ!!
■軽の売れ筋はスライドドアのスーパーハイトワゴン
三菱デリカミニはスライドドア採用のスーパーハイトワゴンだ
今は軽自動車の人気が高い。2023年1~4月に国内で売られた新車の内、軽自動車が37%を占めた。2022年は39%に達しており、軽自動車比率の高い状態が続いている。
そして新車として販売される軽乗用車の内、50%を超えるのが、全高を1700mm以上に設定してスライドドアを装着したスーパーハイトワゴンだ。
スーパーハイトワゴンには、2017年以降、国内年間販売台数1位を守り続けるホンダN-BOX、軽自動車の販売2位になるダイハツタント、同じく3位のスズキスペーシアなどが含まれる。日本車で最も人気の高いカテゴリーだ。
ただし軽自動車には、ほかのカテゴリーもある。特に目を向けたいのが、全高を1600~1700mmに設定したハイトワゴンだ。ホンダN-WGN、ダイハツムーヴ、スズキワゴンRなどのハイトワゴンは、2011年に初代(先代)N-BOXが発売されるまで、高い人気を誇っていた。
特に販売が好調だったハイトワゴンは、1993年に初代モデルを発売したワゴンRだ。天井の高い角張ったボディが人気を得て売れ行きを伸ばし、1995年から2010年までは、ほぼ一貫して軽自動車販売の1位であり続けた。
そしてワゴンRやムーヴなどのハイトワゴンは、1998年に実施された軽自動車の規格変更以降、ボディの基本スタイル、全高の数値、車内の広さなどをほとんど変えていない。
それならなぜ、N-BOXやスペーシアなどのスーパーハイトワゴンが2010年代に入って人気を高め、それまで好調だったハイトワゴンが販売台数を下げたのか。
この点を軽自動車の開発者に尋ねると次のように返答された。
「スーパーハイトワゴンが人気を得た理由に、ハイトワゴンを上まわる広い室内がある。後席を格納して自転車などを積む時は、ハイトワゴンよりも、全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが使いやすい。また今のお客様は、若年層を中心にミニバンで育ったから、軽自動車にもスライドドアを求める」
自転車を積むニーズが高いのは、主に子育て世代だ。治安の悪化もあり、子供が学習塾などに通う時は、自転車を使わせる。その後に雨が降り始めると、親がクルマで迎えに行く。この時に自転車を積める広い荷室が必要で、スーパーハイトワゴンが選ばれる。
また開発者が述べた通り、今の比較的若いユーザーには、スライドドアが馴染みやすい。過去を振り返ると、ステップワゴンのようなスライドドアを装着するミニバンは、1990年代の中盤から売れ行きを急増させてファミリーカーの定番になったからだ。そのために1990年以降に生まれたユーザーには、幼い頃からミニバンで育った人が多く、今では子育て世代に成長している。
そうなるとスライドドアが馴染みやすく、電動開閉式もあるから、子供を抱えて乗り降りする時も便利だ。そのために必須の選択となった。スライドドアに親しんだ世代の成長に合わせて、スーパーハイトワゴンがタイミング良く普及を開始したから、売れ筋カテゴリーになった。
このスーパーハイトワゴンの特徴を明確に示した車種が、大ヒットした初代N-BOXだった。燃料タンクを前席の下に搭載したこともあり、それまでのタントなどに比べて車内はさらに広く、荷室の床も低いから自転車などを積みやすい。「凄い軽自動車が現われた!」と注目されて売れ行きを一気に伸ばした。
■スライドドアを持たないハイトワゴンのメリット
リアにスライドドアを持たないホンダN-WGNはコスパに優れる
この後、2017年に発売された2代目の現行N-BOXは、内装の質、乗り心地、静粛性、ステアリングの操舵感、安全装備、運転支援機能などを幅広く進化させた。初代からの乗り替え需要も多く、N-BOXは安定的に国内販売の1位になり、タント、スペーシア、さらに日産ルーミーや三菱デリカミニ(以前はeKクロススペース)などのスーパーハイトワゴンも注目を集めた。その結果、前述の通り軽乗用車の50%を超えるに至った。
しかしスーパーハイトワゴンには欠点もある。全高が1700mmを超えて、スライドドアも装着するからボディが重い。大半の車種の車両重量が900kgを上まわる。この車両重量はコンパクトカーと同等なのに、軽自動車のエンジン排気量は660ccだから、約半分に留まる。従ってスーパーハイトワゴンのノーマルエンジン搭載車は、パワー不足に陥りやすい。
その点でハイトワゴンの車両重量は、大半が900kg以下だ。パワフルとはいえないが、スーパーハイトワゴンほどのパワー不足も感じない。
燃費も異なる。例えばスーパーハイトワゴンのN-BOXでは、ノーマルエンジン搭載車のWLTCモード燃費が21.2km/Lだが、ハイトワゴンのN-WGNなら23.2km/Lに達する。ハイトワゴンはボディがスーパーハイトワゴンよりも軽く、天井も低いから空気抵抗も小さい。そのために燃料消費量を抑えられる。
価格にも違いがある。スーパーハイトワゴンはスライドドアを装着するが、手動式だと開閉操作に体力を要する。そこで多くの車種が電動開閉機能を幅広いグレードに用意するが、両側のスライドドアに装着すると、価格を10万円前後は高めてしまう。それが横開き式ドアのハイトワゴンなら、電動機能が付かないからコストを抑えられる。
価格を具体的に比べると、スーパーハイトワゴンのN-BOXに、両側スライドドアの電動機能、サイド&カーテンエアバッグなどを標準装着したLコーディネートスタイルは181万9400円だ。安全装備などが近いハイトワゴンのN-WGN・Lスタイル+ビターは154万9900円に収まるから、スーパーハイトワゴンのN-BOXよりも約27万円安い。
ほかのメーカーについても、スーパーハイトワゴンとハイトワゴンの価格差は、スライドドアの電動機能を含めると25~30万円、これを除くと20万円前後になる。
以上のように全高を1600~1700mmに抑えたスライドドアを装着しないハイトワゴンは、スーパーハイトワゴンに比べてボディが軽く、低重心だから、動力性能、走行安定性、燃費性能で有利になり価格は割安だ。
そしてハイトワゴンの実用性が、スーパーハイトワゴンに比べて低いかといえば、そのようなことはない。N-WGN、ムーヴ、ワゴンR、日産デイズなどのハイトワゴンは、前後席の頭上と足元に十分な空間があり、4名で快適に乗車できる。内装の質感なども、スーパーハイトワゴンに近い仕上がりで遜色はない。
つまりスーパーハイトワゴンがハイトワゴンよりも明らかに優れているのは、後席を格納した時の荷室の広さと、スライドドアの装着に基づく乗り降りのしやすさ程度だ。自転車のような大きな荷物を積む機会がなかったり、子供を抱えて乗り降りするなどスライドドアを必要とする場面が乏しいユーザーは、実用的にはハイトワゴンで十分だ。
従って軽自動車を選ぶ時は、まずはN-WGN、ムーヴ、ワゴンR、デイズといったハイトワゴンを検討する。この時に車内の広さや乗降性に不満を感じたら、天井が高くスライドドアを装着するスーパーハイトワゴンを選ぶと良い。
以上のように軽自動車の基本形はハイトワゴンだ。N-WGNの売れ行きは、N-BOXの15~20%と大幅に少ないが、これはN-WGNやハイトワゴンの実力を反映したものではない。「価格が小型車並みに高い」というスーパーハイトワゴンの不満を解消するためにも、ハイトワゴンに目を向けたい。
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