この記事をまとめると
■ランドクルーザー群のなかで生活実用モデルとなるトヨタ・ランドクルーザー250が発売された
名前を捨てたランドクルーザー250はどうなる? ファンの心をガッチリ掴んでいた前身の「プラド」4代の歴史を振り返る
■中谷明彦さんがオフロードコースでランドクルーザー250をテスト走行させた
■ランドクルーザー250は険しい悪路をものともせずにまるで普通の道路のように乗り越えた
ライトデューティの位置付けでも悪路走破性能は激高い
1951年に誕生したトヨタ/ジープBJ型を起点に、その後の進化の過程をたどり、世界中で高い信頼性や耐久性、悪路走破性の高さを認められたトヨタ・ランドクルーザー。今年で誕生72年を迎え、長い歴史と世界中で多くのユーザーに支えられた実績が改めて注目されている。
現行のランドクルーザーは、ステーションワゴンの300系、ライトデューティ、生活実用モデルとしてのLC150系プラド、そしてヘビーデューティを普遍の位置づけとした70系のシリーズにわけられ、トヨタはこれらを「ランドクルーザー群」と呼んでいる。
300系はこれまでに290万台以上、プラド系は440万台以上、70系は290万台以上という販売実績を誇り、 世界170カ国に導入され、累計では1151万台を超えるという。いまや高性能SUVモデルとして不動の認知を確立している。どこへでも行けて、生きて帰ってこられるクルマとして世界中の道を走り込み、人々の生活を支える質実剛健なクルマとして認められているのである。
そんなランドクルーザー群はトヨタにとって極めて重要なブランドであり、グローバルに信頼されているモデルだ。
今回、新たにランドクルーザー250が開発され、その性能評価を愛知県にある「さなげアドベンチャーフィールド」のオフロードコースで行うことができた。
ランドクルーザー群の特徴は新世代のラダーフレームが採用されていることで、これはトヨタが推進するTNGAのプラットフォームと同様な考え方をベースに、圧倒的な走破性と高いオフロードでの接地性を発揮させるためだ。
250には新GA-FP/Fのラダーフレームが採用されている。ランドクルーザー300から流用したものだというが、ホイールアーティキュレーションは約20%も向上したという。ホイールアーティキュレーションとは、単なるサスペンションストロークのことではなく、左右車輪の高低差を意味していて、その数値が大きいほど、高低差の大きな不整地での走破性が上がるということである。
250系では電動パワーステアリングが初めて採用された。70系は油圧ポンプ式でボール&ナットのステアリングギヤを備え、300系では電動油圧式のラックアンドピニオンが採用されていたが、 250には新たに大パワーのパワーステアリングモーターが開発され、初のフル電動アシストパワーステアリングとなって採用されている。
また、スタビライザーのディスコネクションメカニズムが装備された。これはホイールアーティキュレーションを最大限発揮させ段差の大きい悪路を乗り越えるときにスタビライザーを無効化し、トラクションを最大化するための装備として備えられたものだ。
車体のディメンションで見ると、全長は4925mm。従来のLC150型プラドに比べれば100mm長くなっている。ホイールベースは2850mm、全高は1935mmで、最低地上高は215~225mmとなっている。この10mmの差は、装着タイヤの直径がサイズにより異なるためであり、リヤデファレンシャルケースのもっとも低い部分で決まる数値である。
また、悪路を走るSUVとして重要なのがアプローチアングルやデパーチャーアングルだ。今回の250ではアプローチアングルは30度、デパーチャーアングルは23度と大きく取られ、ランプブレイクオーバーアングルも23度となっていて、高い走破性が発揮されることがディメンションからも読み取れるのである。
これまでに車体の大まかなシルエットは明らかとなっていたが、実際に目の前に現れたランクル250を見ると非常にスタイリッシュで格好がいい。初代ランドクルーザーのジープ風なラインをランクルヘリテージとして継承し、短いオーバーハング、後退したキャビン、立ち上げられたフロントウインドウ、大径のホイールアーチなどがタフネスさと悪路走破性の高さを表している。
こうしたランクル伝統の機能美や圧倒的な安定感を感じさせる現代的なスタイリングのよさ、そして内に秘めた優れた走行性能などにより、250はすでに大人気ヒットモデルとなる予兆を見せているといえるだろう。
この250については、製造時のこだわりとして工場においてはランクル品質の作り込みを行い、現地現物と壊し切りによる性能へのこだわり、そして過酷な道を自らハンドルを握り走るチーフエンジニアのこだわりなどが、完成度を高める上で重要な役割を果たしてきたといえる。
今回の試乗に用意されたのは、すでにお馴染みとなっている300系、長年変わらぬデザインとメカニズムを現代に引き継がせている70系と新型の250系の3モデルだ。70系は2004年まで国内でも販売されていたものが2015年に限定的に再生産されたが、新たに生産モデルとして再再登場させられたものだ。国外向けには継続的に生産、販売されていて、今回は再販売される70系はまったく登場時と変わらないドアパネルやボディパネルなども引き継いで採用されているということで、普遍の魅力を感じ取ることができるのだ。
そんななかで250系のポジションは70系と300系の中間に位置し、生活と実用、高い悪路走破性と扱いやすさの両立でどんな道でも誰にでも扱いやすく、そして楽しめるクルマであるという位置付けなのだという。
試乗コースは泥寧路面で非常に道幅が狭く、また急勾配の登・下坂路などの悪路、段差の大きなモーグル路、そして岩がゴロゴロと転がるような岩路をそれぞれのクルマで走破して比較してみるというものである。
最初に現行の300モデルから泥寧路の林間コースを走ってみる。300系は非常に静かで、また装備も豪華。快適な車内が魅力的だ。市街地でも多く見かけられる人気のモデルである。果たしてどちらかといえば高級車に分類されるようなそんなクルマが、この歩行も困難なほどの泥濘路をいかに走るのか興味がもたれるところだ。
300系にもすでにクロールコントロールやらドライブモードによる走行制御の変更やら最新の機能が備わっており、これらを使いこなすためには正しい知識を持ち合わせていないと宝の持ち腐れになってしまうような状況である。
この悪路林間コースにおいて、まず急な下坂部はクロールコントロールで車速を一定に保ったまま、ドライバーはブレーキもアクセルも踏むことなくステアリングだけに集中して下ることができる。また、上りも同じくで、30度を超えるような登坂の泥濘路もなんなく登って行ってしまう。その際、室内は非常に静かで、目を瞑って乗っていれば、これほどの悪路を走っていると気づかないほど快適に保たれているのが特徴的だった。
電動油圧パワーアシストのステアリングは操舵力、保舵力ともに軽くて操作性に優れ、最小回転半径は5.9mとなっているが、十分扱いやすいのがわかる。車体の大きさから見れば、非常に狭いコースで切り返しが必要と思わせるような鋭角なターンも設定されていたが、ステアリングをロックtoロックまで操舵すればクリアできてしまう。
この300系が採用しているのはフルタイム4WD機構で、センターデフにはトルセン式のLSDが備わる。また、路面状況に応じフロントおよびリヤのデフもメカニカルロックすることが可能(GR SPORTのみ)だが、それを設定しなくてもブレーキを個別に掴むことによるクロールコントロールだけでも十分な走破性を獲得することができていた。
悪路走破性の高さを極限的に引き出したクルマの魅力
次に新型の250に試乗する。250は300よりもひとまわり小さく感じるが、スクエアな車体デザインがより見切りをよくしていて走りやすそうだ。
エンジンは2.8リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンで、8速のオートマチックトランスミッションを備えている。
センターデフは300系と同様にトルセンのLSDを内蔵するフルタイム4WD機構だ。さらにリヤデファレンシャルをロックすることができる。
走り始めて感じるのは、遮音性に関しては300系より若干ノイジーに感じられるが、それは車外の音をある程度聞かせることによって、クルマの置かれている状況を正確に把握するために必要なことだと思える。たとえば泥寧路面で巻き上げた泥がボディに当たる音、道路の両サイドから飛び出た木々や枝葉が車体をこする音などが間近に感じられ、自然と一体感を感じることができるような印象を受けた。
もちろん、走破性においてはこうした路面でもまったく苦もなく走り切ることができていて、300系に勝るとも劣らない走破力を持っていることを確認することができた。
新開発の電動パワーステアリングは、非常にぬかるんだ深い轍路で最大角まで操舵しても 十分なアシスト力を発揮してくれて不安がない。また、軽すぎず重すぎずといった頃合いのいい操・保舵力で、森津チーフエンジニアが走り込んで納得したうえでの乗り味を提供してくれているのだ。
次に70系に乗り換えてみる。 70系の車体外観デザインは登場初期の1970年代と変わっていない。実際、ボディの外板パネルやラダーフレームなどは2004年まで生産されていた70シリーズの型をそのまま採用しているという。メーターやシート、内装材に至るままですべてが同じものを継続して生産しているものなのだ。そのレトロ感が非常に可愛らしく見え、また懐かしさも感じさせるのである。
唯一、ボンネットはフードが高い位置に持ち上げられているが、これは歩行者保護の観点からエンジンとの隙間を十分に確保するのが狙いであり、その部分だけが新造されたものだという。
クルマに乗り込むと、昭和のクルマを思い出すような懐かしい気持ちさえする。
トランスミッションは6速ATで、パワーステアリングはボール&ナットの油圧式アシスト。そしてパーキングブレーキはレバーを引くハンドブレーキが採用されている。視界に入るAピラーやルーフなどの作りは非常に細く、また簡潔な作り。
70にはヘッドまわりのエアバッグは仕込まれていない。ステアリングと助手席の正面にあるエアバッグのみで、プリテンショナーのシートベルトももたない。すべてが昭和のものを継承しているといえるのである。
また、ホイールは 5穴が採用されているが、フロントホイールハブにはオートとマニュアルでロックする機能が備わっているのも、いまでは懐かしく感じられるアイテムといえる。エンジンをかけるとディーゼル特有のガラガラ音が聞こえてくるが、そうした遮音性や、また振動などもあえて当時のままを引き継いでいるのである。
走り始めるとステアリングの操舵力は重く、その割にギヤ比はかなりスローとなっていて、最新のモデルであればロックtoロックまで2回転弱なところが、しっかりと2回転以上切り込んでいかなければならないような感じである。また、リヤサスペンションはリジッドアクスルにリーフスプリングを採用している点も時代を感じさせるものだ。
これまでは1ナンバー登録とされていたが、今回のモデルからは3ナンバーの乗用車登録ができ、リーフスプリングがゆえに乗り心地は硬いのだが、サスペンションの動き自体は非常にスムースで、むしろこうした悪路においてのほうが乗り心地よく感じられる。
70系の4輪駆動システムは、トランスファーギヤを操作することによって前後アクスル直結の4輪駆動となる。通常はフロントエンジン・リヤ駆動の2輪駆動である。今回のような悪路では4Lモードがちょうどいいということで走り始めた。
タイトターンでは当然ブレーキング現象が発生するが、それでもアクセルを踏み込みトルクを与えることによって、ほかの最新モデルと同様にこの悪路を難なくクリアしていく。ABSやトラクションコントロールなどは最新のものが備わっていて、クロールコントロールこそもたないが、悪路の走破力という意味では十分な性能が与えられている。
今回試乗したモデルはいずれもノーマルの標準タイヤを装着していて、とくにマッドテレイン系の無骨なタイヤではなく、オンロードでの快適性も得られる乗用車用のタイヤを装備してのことだから、なおさらクルマとしての高い走行性能が認められるわけだ。
次にステージを変えて左右高低差の大きなモーグル路、そして岩場の登坂を試してみる。300系はやはりここでも快適で、また音も静かで制御も高度であって、おそらくこうした人工的な悪路コースは何の問題もなく走破していくことができる優れた性能が改めて確認できた。
新型の250も同様であり、モーグル路ではスタビライザーのコネクションが緩められてアーティキュレーションが大きく取られていることがわかる。試しにあえて一輪を浮かせてスタック状態を再現してみるが、アクセルを踏めば直ちに駆動力が発揮され立ち往生させることすら難しいといえる。
スタビライザーのディスコネクションメカニズムはこうした悪路では重要な装備といえ、その作動もドライバーがスイッチ操作で簡単に行えるので実用性が高い。
岩石路においてはいずれも高い最低地上高があり、安心して走り込んでいけることがわかる。おそらくこうした専用のコースでなく、真の自然界においてこのような岩石の敷き詰まった路面に出くわしたら走り入ることは絶対に避けるだろうが、あえてこのコースで性能を試す意味で乗り入れてみると、ミシリともいわない車体やフレームの強靭さ、そして泥が付着し滑りやすくなっているツルツルの石の表面を、ブレーキを4輪個別につまみながら、必死にトラクションを引き出そうとして制御が頑張っている部分なども頼もしく感じられるのである。
ドライバーがドライブモードを適切に管理し、またセンターデフロックのみならず、リヤデフをロックすれば簡単にクリアできてしまうのだが、クロールコントロールを使うことで自動的に車速を1km/hから5km/hの範囲で調整し上っていくことができるのは素晴らしい。デフロックしなくてもブレーキが最大限に空転車輪をつかみ、それを前後4輪で常に行い、また駆動力自体も十分なトルクがトランスミッションを介して伝えられるので、急激に勾配が変化する区間もハンドルに集中して登り切ることができた。
最後に、70でこの同じ路面を走ってみるが、やはりリジッドアクスルとリーフスプリングにより、リヤのアーティキュレーションはある程度制限され、一輪が浮き上がる場面もある。しかし、センタートランスファーが直結されていれば、ほかの三輪が必ず駆動力を伝えてくれるので立ち往生することはない。
岩場においてもスムースなサスペンションのストローク感はないが、ごつごつとした乗り味を楽しみながら、高性能な他の300系、新型250モデルと同様に難コースを走破することが可能だった。
こうして3台がいずれも1度も立ち往生することなく、まるで自分の庭でもあるかのようにこの悪路走行を可能としたことで、走破性の優秀さを確認することができたといえる。このレベルの悪路は、ランドクルーザー群にとっては特別な道ではなく、むしろいつもの生活道路であるといっても過言ではない。
悪路で、また砂漠や雪道など一般の人の生活場面からは想像もできないような道で培ってきた走破性を備えるランドクルーザー群。サーキットをレーシングカーのようなスピードで走るスポーツカーも魅力だが、一方でこうした悪路走破性の高さを極限的に引き出せるクルマの魅力もいま大いに高まっている。
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