■当時のスタッフが再集結してつくった「キメラEVO37」
昨今のクラシックカー業界でしばしば登場する「レストモッド」という言葉。旧いクルマを修復するにあたり、現代のコンポーネンツやテクノロジーを投入することで、現代スタイリングや使用状況に合わせて、よりモダナイズを図られたクラシックカーを指している。
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このほどイタリアから産声を上げた「キメラEVO37」も、そのひとつとされているようだ。しかし、そのオリジナルであるランチア「037ラリー」が40年前に開発された時と同じ手法で、しかも同じメンバーが創りあげたという驚きの1台は、いわゆる「レストモッド」の常識を根本から覆すものとも映る。
話題のキメラEVO37について、現在判明している限りの全容を、VAGUEで解説しよう。
●そのオリジンは、グループB時代最初のチャンピオンマシン
キメラEVO37の話題に進む前に、まずはオリジナルにしてオマージュの対象であるランチア037ラリーについて解説しよう。
037ラリーが唯一最大の目的としていたのは、いまも昔も大人気を誇り、とくに当時はメーカーの存亡も左右した「世界ラリー選手権(WRC)」の勝利である。1982年から施行されることになったFIAスポーツ規約「グループB」は、参加を希望する自動車メーカーが連続した1年間に200台を生産すれば、純然たる競技車両であってもホモロゲートを受けることができる。
そこでランチアと開発を主導したアバルトは、既存のミッドシップ2座スポーツカー「ベータ・モンテカルロ」を、すでに実績のあるメカニズムで再構成することでラリーマシンに仕立て直すことにした。
並み居るグループBラリーカーのなかでも群を抜いて美しいといわれるボディデザインは、ベース車たるモンテカルロと同じく名門ピニンファリーナによるもの。モンテカルロのセンターモノコック前後に鋼管製のサブフレームを組み上げ、そのサブフレームに各メカニカルパーツと新規デザインの専用カウルを組み合わせる成り立ちとされた。
シャシ開発には、イタリアのスーパーカーおよびレーシングカーのレジェンド、ジャンパオロ・ダラーラ氏の率いる「ダラーラ・アウトモービリ」社が密接に関与したとされている。
そしてパワーユニットは、「ランプレーディ・ユニット」と呼ばれる直列4気筒16バルブを採用。この時期の高性能車では、すでにターボ過給がトレンドとなっていたのだが、絶対的パワーよりもレスポンスを重視して「コンプレッソーレ・ヴォルメトリコ」と称するルーツ式スーパーチャージャーが組み合わされることになった。
かくして、ランチアとアバルト、そしてピニンファリーナ。3社の歴史的コラボレーションによる037ラリーは1982年4月のトリノ・ショーにてワールドプレミア。また発表とほぼ時を同じくして、FIAホモロゲート取得に必要とされる200台の量産も開始されていた。
そして、グループB規定でのフルエントリーが開始された1983年シーズンの初戦モンテカルロにて、037ラリーはさっそく輝かしい1-2フィニッシュを果たす。さらにワークスチーム「ランチア・スクアドラ・コルセ」が擁する037ラリーは、このシーズンに宿敵「アウディ・クワトロ」との熾烈なタイトル争いを展開。その高い信頼性とドライバビリティを武器に、伝説のグループBが年間チャンピオンシップの最上クラスとして規定された最初のシーズンで、WRC製造者部門タイトルを見事に獲得して見せたのだ。
■夢の1台は、およそ6400万円から
キメラEVO 037プロジェクトの仕掛人は、前世紀末から2017年までイタリア国内戦やERC(欧州ラリー選手権)などで優勝を含む活躍を果たした元ラリードライバー、ルカ・ベッティ氏が率いる「キメラ・アウトモービリ(Kimera Automobili)」社である。
もともと、自身のラリーマシンのメンテナンスをおこなうレーシングガレージ「Kimera motorsport」として2008年に創業したのち、2013年ごろからランチア「デルタS4」や「037ラリー」を手掛けるレストレーションファクトリーへと業態を変え、現在のキメラ・アウトモービリが誕生したという。
●キメラEO37プロジェクトに結集した“レジェンド”とは?
そして、ここで複数のデルタS4や037ラリーと接することによってベッティ氏が抱いた「本質とスピリットをそのままに037を進化させたい」という熱い想いが、EVO37プロジェクト始動の動機になったとのことである。
そんな経緯から生まれたキメラEVO37ながら、FIAグループBの求める200台+αしか作られていない本物のランチア037ラリーをレストモッド化したものではなく、037のベース車両、つまりより生産台数の多い「ベータ・モンテカルロ(前期)」/「モンテカルロ(後期)」をドナーとし、現代的な要素を加えながら事実上の新規開発をおこなったものといえる。
そのアプローチは、オリジナルの037ラリーが開発されたときと同じ手法をとる。ベータ・モンテカルロのキャビン周辺のモノコックを補強して使用し、前後にサブフレームとボディカウルを組み合わせる。ただし、オリジナルの037ラリーの前後カウルはFRP製だったが、キメラEVO37のカウルはカーボンファイバー製とされ、モノコック+サブフレームの剛性アップも図られているようだ。
パワーユニットは、オリジナル037ラリーに搭載された、古き良きランプレーディ直列4気筒DOHC16バルブをリファインした2.1リッターエンジン。ランチア技術陣を長きにわたり支えてきたエンジニアで、かつて037ラリーのランチア側責任者でもあったクラウディオ・ロンバルディ氏の指導のもと、大幅に再設計されたとのことである。
オリジナル037ラリーの特徴であったルーツ式スーパーチャージャーに加えて、ターボチャージャーも組み合わせられた。つまり、037の後継車「デルタS4」と同じくツインチャージャーとされたこのエンジンは、最高出力505ps、最大トルク550Nmを発生する。
037ラリーが市販版で205ps、WRCを闘った最終進化版でも350ps前後といわれていたことからすると、まさに40年分の技術進化を物語るモンスター級ユニットといえよう。
また、カップリングされるトランスミッションは6速マニュアルに加えて、パドル操作式の6速シーケンシャルも選択可能とのことで、これもまた21世紀のスーパースポーツとしての資質をアピールしている。
さらに、ダブルウィッシュボーンシステムなどのメカニカルコンポーネンツは、モータースポーツの分野では定評のあるオーリンズ社が設計し、ブレーキにはブレンボ社製のカーボンセラミックを採用。格段に増強されたパワーに備えて、ホイールサイズはフロント18インチ/リア19インチと大幅にスケールアップされた。
そして、このキメラEVO37における最大のトピックとして挙げたいのは、前述のロンバルディ氏をはじめとし、ランチア037ラリーに携わってきたデザイナーやエンジニアたちとの密接なコラボレーションのもとに開発されたことだろう。
シャシの設計とセットアップは、かつてアバルトで数多くのラリーカーの開発を主導したセルジオ・リモーネ氏。車両の製造プロセスとマテリアル調達を担当したヴィットリオ・ロベルティ氏とフランコ・イノチェンティ氏も、かつて037ラリー開発に参画したエンジニアだ。さらにテストドライバーは、ランチア「デルタ・インテグラーレ」とともにWRCで大活躍したラリードライバーのミキ・ビアジオン氏。これら「レジェンド」勢ぞろいの豪華チームによって、EVO37プロジェクトは完成されたのだ。
安易な「レストモッド」とは一線を画した、ランチア037ラリーの生まれ変わり。そして古き良きイタリア自動車界へのオマージュともいうべきこのキメラEVO37は、その名にちなんで37台を限定製作するとのことである。オプションや特注を除くベーシック価格は、48万ユーロ(約6430万円)とかなりの高額ながら、すでに11台は予約済と公表されており、1台目はまもなくオーナーのもとに納車されるという。
また、2021年9月に英国で開催される予定の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」にて、初めて実走披露がおこなわれることも決定しているという。
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みんなのコメント
まぁ、そんな事はどうでもいいけどかっこいい車だ
最新のスポーツカーみたいに早くないだろうけど楽しそうだ