■クラシックボルボに長く乗るための取り組み「クラシックガレージ」とは?
昔のクルマを眺めてみると、今よりもっとダイナミックなデザインで描かれていたり、自由な発想でクルマづくりが行われていたりして、ちょっとした驚きが感じられるものです。
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その時代の空気とか、独特な個性を放つモデルが多いことに気が付かされることも少なくありません。
北欧・スウェーデンの自動車メーカーとして知られるボルボですが、クラシックボルボを愛するオーナーさんたちから、「古いクルマを大切に乗り続けるために、サポートして欲しい」という声が上がっていたそうです。
これまで、ボルボ車を扱う民間の整備工場があったのですが、店主が高齢になって途絶えてしまうお店もあったそう。ボルボ・カー・ジャパンは、そうしたオーナーの要望に応える形で、2016年8月に「KLASSISK GARAGE(クラシックガレージ)の取り組みをスタートしました。
クルマは長年乗り続けると、各部のパーツが消耗したり、経年劣化で痛んでしまったりするものですが、ボルボ クラシックガレージでは、消耗品を新しいパーツに交換して当時の姿に蘇らせたり、健全に走れるコンディションを維持するためにメンテナンスを行っています。
実際には、ボルボ・カーズ東名横浜の店舗の一角で作業が行われていますが、2016年は38台、2年目は81台、3年目は95台が入庫しました。
オーナーズクラブのみなさんが自発的に勧めてくれていることで入庫するクルマも増え、メンテナンスを受けるモデルは増加。ビンテージカーを実用的に乗れるレベルに修復するケースをはじめ、「いくら掛かってもいいから修復して欲しい」というオリジナルにこだわる熱心なオーナーさんもいるそうです。
歴史に名を残す名車が活き活きと走れる状態に生まれ変わっていくのは、嬉しいものです。
■本国からの取り寄せや3Dプリンターでパーツを入手
クラシックガレージの責任者を務める阿部昭男さんは、ボルボ・カー・ジャパンで技術サポートを行ってきた、この道34年のエキスパートです。
ボルボの本拠地であるスウェーデンには、年間50万台規模でクラシックボルボのメンテナンスを行う部署があるそうですが、そうした本社とのネットワークを活かして相談に乗ってもらいながら、パーツを取り寄せることもあるようです。
日本におけるプロジェクトは動き出してみなければ分からない部分もあったとのことですが、純正パーツは思いのほか入手できることが分かり、走る上での重要保安部品となるブレーキ周りのパーツ、経年劣化が著しいゴム類などは、耐久テストを行った純正品が手に入るので、当時の乗り味に近づけることができるそうです。
また、すでに発売から26年を迎える「240」に至っては、灯火類の需要が多かったそうですが、現在は3Dプリンターの台頭によって再生産が行える体制が整い、保安基準に適合する新品が手に入るようになったということです。「240」は保有台数が多い人気モデルだけに、フォローの態勢が整っているのは頼もしいところです。
何より、数多くのボルボ車のメンテナンスを手掛けてきた経験豊富なスタッフが相談に乗ってくれるので、安心感も高まります。彼らは、新車当時から膨大な数のボルボ車を扱ってきているので、ウィークポイントにも詳しく、劣化する箇所を想定して予防整備を行うこともできるのです。
それでいて、メンテナンスの価格が高くなりすぎないように配慮しているのもポイントです。ボルボ・カー・ジャパンはボルボの輸入元として、安心して乗れる品質の高いクラシックボルボを適正価格で再販する基準を作っていくとしています。
■”四角いボルボ”の代表格「940 エステート ポラール SX」(1996年式)
クラシックガレージでは、「P1800」や「アマゾン」、「240ワゴン」に「940」など、歴史的な名車を数多く手掛けていますが、今回の試乗会では、彼らが手掛けて販売する中古のクラシックボルボのハンドルを握る貴重な機会をいただくことができました。
最初に試乗したのは、1996年式の「940 エステート ポラール SX」。まさに、四角いボルボの時代を象徴するステーションワゴンですが、全長4850mm、全幅は1755mmと当時は大きめに映ったボディも、現代のVW「ゴルフ」よりも全幅が狭く、Uターンの際に小回り性に影響を及ぼす最小回転半径は5mと、コンパクトカー並みです。
女性ワンオーナーで11万km走ってきた個体ですが、5万kmのクルマのトランスミッションを載せ換えて、足回りをリフレッシュしたそうです。1996年式のモデルでありながら、すでに衝突時に乗員を保護するエアバッグが標準装備されていたという志の高さも、「安全のボルボ」と言われてきた所以です。
車内に乗り込むと、この世代のクルマの匂いが漂ってきて、懐かしい記憶が一瞬で蘇り、どこかホッとさせられる気持ちになります。
ファブリックシートは保存状態が良く、身体に優しくフィットします。ダッシュボードや各部の樹脂パーツは現代のクオリティから比べると素っ気ないものですが、ちょっと無骨な形で構成されているあたりもひとつの「味」といえそうです。
動き出してみると、一連の動きはスムーズなもので、縦揺れは「ふんわり」といった具合に滑らかな足取りで走行。ボルボならではの優しいタッチの乗り味に癒されます。それでいて、安定性はしっかりと確保されています。4気筒2.3リッターのターボエンジンは130馬力を発生するもので、アクセルを踏み込むとスーッと力を発揮していきます。
エンジン回転を高めながら、ジワジワと力を漲らせるパワーフィール。ターボだからといって、ドカンと力を出すような荒っぽさはなく、野太くも上品な加速フィールは乗員の身体を揺さぶらず、ストレスフリーの走りを提供してくれます。
まさに、ボルボらしく、大人の包容力と懐の深さを実感させる乗り味が見事に再現された一台といえるでしょう。
■ガラスハッチの元祖「P1800 ES」(1973年式)
2台目は、1973年式の「P1800 ES」。現代のボルボのエステート(ワゴンモデル)に通じるロングノーズ、低いルーフのシルエットで描かれたスポーティな2ドアタイプのワゴンですが、ガラスハッチの元祖ともいえるモデルです。
エンジンは水冷4気筒の2リッター OHVで、2ペダルで操作できるATと組み合わせています。
華奢なハンドルに、ウィンカーやシフトは細いスティック状のレバーが採用されています。ハンドルを切り込むときは、腕力が要求されるいわゆる「重ステ」で、プルプルする二の腕に力を込めて操作します。
メーター周りはアナログ表示になっているなど、ビンテージカーの雰囲気が満点。当時からダッシュボードの素材はクッション性を与えていたようですが、ステアリングも衝撃を吸収する構造を採用しています。
フロントウィンドウは合わせガラスで、衝突の際に飛散しないように配慮されていたりと、安全で丈夫なクルマに仕立てられてことが分かります。
走行時に聞こえてくるパタパタというメカニカルな音や、空気を吸って力を得て呼吸する感じは、まるでクルマが生き物であるかのように思えてくるあたりが新鮮でたまりません。
現代のクルマと比べれば、決して速くはありませんが、アクセルペダルを踏みながら、クルマの重たさを感じ、地面を踏みしめて車体を前に進めていきます。それでいて、ブレーキは不安を感じさせることなく、素直にコントロールすることができます。発売から46年目を迎える今、当時のフィーリングに近い形で体感できることは、まさにタイムスリップした感覚です。
ボルボの歴史に名を残す名車を当時に近いフィーリングで体感することができるなんて、とても贅沢でステキなことです。ボルボ車を大切にしているオーナーさんの愛情とクラシックガレージのサポートによって、ボルボの名車を後世まで大切に受け継いでいって欲しいものですね。
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