デリカミニ・N-BOX・サクラと、近年好調なクルマの多い軽自動車カテゴリー。軽自動車の好調な売れ行きは、今に始まったことではないが、売れ行きのいい市場に、国内ナンバーワンメーカーのトヨタは前向きに参入しようとしない。軽自動車の自社生産を頑なに拒み続けるトヨタ。その裏側には何があるのだろうか。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、DAIHATSU
軽のアルファードとかあれば売れそうなのにな……なぜトヨタは自社で軽を作らないのか!?
■決まった枠組みの中で生産しなければならない厳しさ
ダイハツは、トヨタにない軽自動車や小型車をつくる基礎的なノウハウを持つ
トヨタが軽自動車を自社生産しない理由に対する一つの答えは、同グループ内にダイハツがあるためだ。
クルマが軽自動車になるためには、道路運送車両法で細かく定められた「規格」の中に入っている必要がある。
全長3400mm、全幅1480mm、全高2000mm、排気量660cc、乗車定員4名、貨物積載量350kg、いずれの項目もこの数字を越えることはできない。
トヨタ自体が軽自動車を設計し、生産するということは不可能ではないが、不経済である。大きな開発費をかけ、1から生み出されるトヨタの軽自動車は、他社に負けないはずだ。
ただ、莫大な開発・生産コストがかかり、軽自動車を作り始めた最初の数年間は、作れば作っただけ赤字になることは避けられないだろう。
決められた枠組みの中でクルマを生み出すことを、トヨタはダイハツに任せた。ダイハツの方が小型車に対する基礎的なノウハウがあり、1から軽自動車を生み出す必要もないからだ。
こだわって自社生産するよりも、グループ会社で生産したほうが、全体の利益に大きく寄与する。効率を重視するトヨタが軽自動車生産には加わらない。
その時間を、登録車に振り分ける方が、グループ全体の利益も生み出すだろう。
■売れば売るほど体力が削がれていくジレンマ
トヨタクラウンスポーツの車体価格は、590万円からとなっている
軽自動車には明確な数字が決まっているわけではないが、規格以外にも決まっていることがある。暗黙の了解ともいうべきものが「価格」だ。
自動車は車両本体価格が高ければ高いほど大きな利益が出る商品である。トヨタの主要販売車種は300万円~600万円程度の登録車だ。これがトヨタの利益を大きく支える。
軽自動車は今でこそ高額になってきたが、それでもBEVの日産サクラの上級グレードが300万円を少し超える程度。人気のハイトワゴンは高くても250万円程度になり、売れ筋は200万円を少し切る車種が多くなる。
軽自動車の利益はかなり小さい。登録車を販売するよりも1.5倍から2倍の数を売らなければ、登録車販売時と同じくらいの利益は出ないという見方もある。
そして、軽自動車販売に熱が入ると何が起こるのかを考えていこう。
既に国内市場の自動車保有台数は頭打ちになっているから、既存の保有車を軽自動車に変え、販売台数を確保しなければならない。
このサイクルに入ると、企業の利益は落ちる一方となる。薄利多売を繰り返すことになり、販売台数は伸びるものの会社の体力は削られていく。
人口が増え続け、経済も上向きで、現状の保有車両に軽自動車がプラスワンとして確実なら、トヨタも本気で軽自動車を造ろうとしたはず。
しかし、軽自動車人気の裏側には、登録車販売の低迷があるのだ。登録車で大きな城を築き上げるトヨタが、あえて軽自動車を売り利益を落とす必要はない。
■トヨタが作る800万円の軽自動車をあなたは買うか?
2023年11月2日、新型クラウンセダンが発売。車体価格は、ハイブリッド730万円、FCV830万円から
軽自動車のプライシングは、登録車と大きく違う。仮にトヨタが最高の技術と最高の装備で、800万円の軽自動車を生み出したとしよう。
「最高のクルマだ!軽自動車でここまでやるか!」と賛辞の声が送られるとは思う。
しかし、全く売れないクルマで終わってしまうはず。軽自動車ユーザーが求めるのは、ある程度の金額で、ある程度良いクルマだ。軽自動車≠高級車である以上、トヨタは自ら手を出して生産しようとはしない。
規則で囲われた軽自動車で、高いお金を出してもいいと感じさせるクルマを作り出すのは難しい。
さらに、この規格は日本独自のものだから、海外展開したときにはある程度の改良が必要となる。そこにもまたお金がかかるのだ。
現在、世界で活躍しているトヨタの経営方針と、軽自動車を地道に売っていく会社の経営方針は180度違うと言ってもいい。
開発・生産・販売で大きなリスクを伴うからこそ、軽自動車生産はダイハツに任せ、OEMで販売を続けるのがトヨタとしては望ましいということになる。
トヨタが軽を自社生産しない状況は、トヨタが世界のトヨタである限り、今後も続いていくことだろう。
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で、もう一本記事が書けるね。