2022年7月16日に発表され、同9月1日より発売開始となった、トヨタ新型「クラウンクロスオーバー」。これまでの後輪駆動ベースから前輪駆動ベースの4WDとなったことや、スタイリングがハイリフトされたことなどから、その走行性能に注目が集まっている新型クラウンクロスオーバーだが、先日、ついに公道試乗会が開催され、筆者も参加させていただくことができた。
新型クラウンクロスオーバーの走行性能についてご紹介するとともに、試乗で感じた、クラウンがクロスオーバー化で得たもの、そして失ったものについても触れていく。
走り出しが完璧!! 新型クラウン公道試乗!! 挑戦と革新のクロスオーバー化で得たものと失ったもの
(新型クラウンのパワーユニットは、今回試乗した2.5Lエンジン+モーター仕様(従来のクラウンだと「ラグジュアリー」や「ロイヤル」にあたるグレード)と、2.4Lターボエンジン+モーター仕様(従来版だと「スポーツ仕様」や「アスリート」にあたるグレード)に分けられる。今回は生産の都合で前者のみの試乗となったが、近いうちに後者も試乗予定なので、乗り込み次第すぐに比較レポートをお届けします)
文:吉川賢一
写真:ベストカーWEB編集部/撮影:池之平昌信
低速時の所作は感動もの!!
試乗車として割り振られたのは、WLTCモード燃費22.4km/Lを達成する2.5Lハイブリッドの「Gアドバンスドレザーパッケージ」(税込570万円)だ。21インチのミシュランeプライマシー(225/45R21)を装着したその姿は、先代よりもひと回りは大きくなった印象。インテリアカラーはフロマージュ、エクステリアカラーはプレシャスブロンズのモノトーンだったが、この内外装カラーの組み合わせが絶妙にマッチしていて、いい雰囲気を演出していた。
新型クラウンでは、先代(S220)クラウンが採用していた「GA-Lナロー」プラットフォームを廃し、カムリやハリアーと同じく、FFベースの「GA-K」プラットフォームを大改良したうえで採用している。リアサスペンションは前後方向にも左右方向にも剛性感の高い、新型マルチリンク式リアサスへと変更(カムリのリアサスはダブルウィッシュボーン)、そのうえで「飛び道具」となる「DRS(後輪操舵)」を、全グレード標準装備としている。
最小回転半径はカムリの5.7m(E-Fourは5.9m)に対し、全車E-Fourのクラウンクロスオーバーは5.4mを達成。先代の4WD(5.7m)も凌ぐレベルだ。
ソフトなタッチの本革シートに座り、ドラポジを合わせると、アイポイントの高さにまず気が付く。電動シートを全下げしても、先代よりもかなり高めだ。SUVの高さとまではいかないものの、「クラウン」のイメージではない。
操舵力が軽めのステアリングホイールを切りこんでいくと、回転半径の小ささを感じる。DRS(低速では逆相に、中高速では同相に操舵するシステム)のおかげなのだが、全長5m弱のクルマにしては、扱いやすさは抜群だ。
走り出す瞬間のパワートレインのトルクの出方は、驚くほど滑らかでナチュラル。操舵力の重さやノイズも排除されており、低速時の所作に関しては、筆者レベルでは指摘できるポイントが見つからない、パーフェクトな仕上がりだと感じた。
担当エンジニアによると、この発進時の扱いやすさや極低速域の所作は、開発チームが狙っている重要なポイントであり、クラウンクロスオーバーはもとより、他のトヨタ車へも技術を展開しているそうだ。
「ちょっと前のクラウンロイヤル」の乗り心地
いよいよ試乗開始、まずは一般道だ。4人乗車したため、2トン近い車重となっているはずだが、車速ゼロ発進でも、加速力不足は一切感じない。ユニット本体はRAV4ハイブリッドと同じだが、エンジン制御の造り込みや、コンパクトかつ出力に優れるバイポーラニッケル電池の採用によって、過去最高レベルのTHS-IIユニットに仕上がっているそう。加えて、エンジンノイズの消込もしているそうで、静粛性も抜群。一般道だけでなく、高速走行でも同様だった。
操舵力も適切で、レーンチェンジや大R切り増しの操作がやりやすく、背高にしたことでの不安な感じはない。路面のうねりを受け、上下に動くボディモーションはやや大きめだが、足がよく動くが常に接地する、ちょっと昔のクラウンロイヤルの乗り味に近い印象だ。クルーズコントロールにすれば、極上の快速クルージングとなり、とくに後席ではよく眠れそうだ。
先代クラウンのように、ダンピングが効いた欧州車のような乗り味を好む方にとっては、新型クラウンクロスオーバーの乗り味は、物足りなく感じるだろう。しかし、ふわりと優しいこの乗り味こそがクラウンにふさわしい、と感じる方も多いのではないだろうか。
個人的には、12代目クラウン(ゼロクラウン)以前のような、さらにソフトな足であってもよいと思う。ただし、大きな上下のボディモーションを抑制する電制ショック(AVS)は、ベースグレードでもマストでほしいところだ(AVSは上級グレードRSのみ)。
ちなみにDRSは、レクサスLCではスポーティを優先したセッティングであったが、新型クラウンでは、快適性を優先したセッティングへと用途を変更したとのこと。ヨー方向の軽快感と安定感はDRSで生み出し、そのぶんサスペンションは極力柔らかくして、乗り心地重視でつくり込んでいるそうだ。
ただし、加速時に聞こえる直4エンジンの素サウンドは若干寂しい。クラウンに豪快なサウンドは不釣り合いだが、それでも、何かしら「サウンド」に関しての提案が欲しかった、と感じた。
乗り心地には不利な21インチタイヤを履くがバタつくこともなく、きれいな路面を走っているかのような乗り心地で心地よい
「クラウン像」を打ち壊したかった
今回の新型クラウン誕生のきっかけについて、開発責任者である皿田明弘氏に伺うことができた。
皿田氏は「2003年に登場した12代目、通称ゼロクラウンで、クラウンとしての方向性を大きく変えてから20年が経ち、また世界的にクルマに求められることが変わったことや、クラウン購買層の高齢化などもあり、トヨタの内部で次のクラウンはどうするのか、という論議をよく交わした。当初はクロスオーバー化をマイチェンとして提案したが、社長のフィードバックもあり、紆余曲折あって、クラウンシリーズとして4車種開発をするにまでになった。」という。
車両性能開発担当の、車両技術開発部第1車両試験課 グランドエキスパート匠の佐藤茂氏も、「これまで積み上げてきたクラウンのリソースを捨てることはないが、一度方向性を見直そうと考えた。走りや乗り心地の面でいえば、ロイヤルサルーン的な乗り心地重視のハイブリッドを目指した。今作は、狙い通りのクルマを提供できたつもり。これまでお客様がいだいてきたクラウン像とは変えたが、トヨタが出した新生クラウンの答えに対し、お客様がどのように感じるようになるのか、ぜひとも知りたい。」としていた。
「新たなユーザー」は得るだろうが、「ショーファードリブン」の要素は希薄に
後席に人を迎えるサルーンでないといけない、全高は低くないといけない、欧州車と戦える性能でないといけない、日本国内で使いやすいよう全幅1800mmは超えてはいけない。クラウンはこれまで、このような「クラウン像」によってがんじがらめにされていた。今回この「クラウン像」を取り払い、既成概念をブレークスルーしたことは、トヨタの狙い通り、新たなユーザーを獲得することにつながるだろう。これはクロスオーバー化による大きな利点だ。
ただ、今回の試乗で、いくつか気になった点もいくつかあった。エクステリアの艶やかさとは対照的に保守的なインテリアや、ステアリングホイール上のスイッチ類の使いにくさ(ステアリングスイッチに凹凸がなくしかもステアリング外周から遠い)、センタータッチモニターが横に長いために、運転中に画面左側のタッチスイッチに手が届かない(運転中に姿勢が崩れる原因)ことなど、このクラスの価格帯にしては物足りない。
もっとも気になったのが後席だ。後席空間の広さは十分あり、シートのホールド感や乗り心地、シートとフロアの段差も丁度よく足は疲れないのだが、トップモデルの「RS Advance」以外のグレードには、後席にはパワーシートやシートヒーター、電動サンシェード各などの贅沢装備は設定すらなく(「RS Advanced」のみのオプション「リアサポートパッケージ(税込279,400円)」では、電動リクライニングパワーシートやシートヒーター、電動リアサンシェード、各種コンソールスイッチ付のリアセンターアームレストなどが備わる)、手動のリクライニング機構すら設定がない。
そのため、「高級車の後席に座る」という優越感、満足感は残念ながら薄く、カムリと同じような水準の後席環境。クラウンに期待したい「クラウン」のショーファードリブンとしての役割を捨ててしまっているかのようで、この点に関しては「これでいいのか!??」と少々疑問に感じた。
ただ、新型クラウンには、まだあとスポーツ、エステート、セダンの3種ある。ショーファードリブンとしての役割はセダンに任せる、という判断なのかもしれない。最上級グレードの2.4Lターボハイブリッドを搭載した「クラウンクロスオーバーRS Advance」を含めた、「新生クラウン」の全貌をはやく見たい。
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みんなのコメント
マツダCX-60と比べてみたらその志の低さがよく分かる。何だかんだ言いながら結局高いだけのカムリなんだよ。