20世紀のトヨタ車は、売れているが走りについては日産・ホンダ・マツダ・スバルよりも劣っている、とまで言われていた。
標榜する『もっといいクルマ作り』に着手してから、トヨタ車の走りはどのように進化してきたのか?
最強ミドルSUVトヨタハリアー購入ガイド 価格、お薦めグレード、ライバル、値引き
それを検証するために、「7+α」のテーマについて、自動車評論家 国沢光宏氏が考察していく。
※本稿は2021年6月のものです
文/国沢光宏 写真/TOYOTA、NISSAN,ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2021年7月10日号
【画像ギャラリー】新プラットフォーム「TNGA」を使用し登場したモデルたちをギャラリーでチェック!
■解説:そもそも『もっといいクルマ作り』とはどういうものなのか?
TNGAとは、「Toyota New Gloval Architecture」の頭文字をとったものだ。
Architecture=構造ということで、新世代のプラットフォーム(車台)のことだと思っている人は少なくないが、TNGAとは、トヨタの新しいクルマ作りの設計思想であり方針だ。
TNGA戦略+7カンパニー制。プリウス以降TNGA思想のもとに開発。今年は新型ランクル、アクアも魅力的に変貌
そのTNGA思想のもと登場した第1弾が2015年6月にデビューした現行プリウスで、それ以降に登場した新型車は、センチュリーなど一部の例外を除けば(スバルと共同開発した新型GR86はTNGAではない!)、基本的にTNGA思想のもと開発されている。
そのTNGAの骨格をなすのが、新世代のプラットフォームであることは言うまでもなく、低重心化、良好な視界確保、運動性能の向上を目指している。
同時にダイナミックフォースエンジンなどの高性能な新世代パワートレーンも順次登場させている。
そしてTNGAにおいては、7カンパニー制も重要なポイント。
従来のピラミッド型の組織から、商品群ごとに7つの、ある意味独立会社のような体制にすることで、意思疎通の迅速化、高効率化するのが狙いだ。
■テーマ01:ハリアーに見る「もっといいクルマ」の成果
豊田章男社長の言う「もっといいクルマ作り」を自分なりに解釈して成功しているのが、ミッドサイズビークルカンパニー。
なかでも佐伯さんという方がチーフエンジニアを務めたRAV4とハリアーが珠玉のデキです。
とはいえ先代ハリアーも悪いクルマじゃなかった。となれば現行はどこがよくなったかといえば、それは乗った際のフィールや燃費。
先代ハリアー…2.5Lハイブリッドも上質だったが、CVTとの相性抜群の2Lターボの走りもなかなか楽しかった
搭載するダイナミックフォースエンジンの音がいいから、車内に音が聞こえてきても、みんな快適になったと評価としてます。
燃費に関してはハイブリッドシステムを煮詰めたということになるんだろうけど、燃費向上ももちろん「もっといいクルマづくり」の結果といえるでしょう。エンジンに関しては間違いなく、いい方向に進んでると言える。
あとステアリングの中立付近のフィールも凄くよくなった。そういうところが組み合わさって、「新型ハリアー、いいネ」という評価に結び付いているワケです。
現行ハリアー…乗った瞬間の走りのフィールやエンジン音。先代より格段にいい部分
走り以外の面でいうと価格も無視できないポイント。自動ブレーキの性能が上がったり、いろんなところがよくなってるけど、価格は先代から上がってない。
ライバルがどんどん高くなっていくなかで価格が変わらないんだから、それだけで「いいクルマ」と評価することができる。
まあ、これに関してはライバルが高くなって、勝手に沈んでいっただけとも言えなくもありませんが。
●結論…エンジンフィールや燃費、中立付近のステアフィールや価格設定も評価できる
■テーマ02:ヤリスがライバルに対して優れている点は?
フィットとノートに対するヤリスのアドバンテージは主として4つあると思う。
まず燃費。ヤリスの実用燃費、普通のエンジンもハイブリッドも数字が信じられないほどいい! エンジンモデルですら平均速度20km/hという東京の渋滞路を走って15km/Lに届く! 流れのいい道であれば20km/Lだって見えてくる。
ハイブリッドなんて条件悪くて25km/L。普通に流れていたら30km/Lだって当たり前の燃費です。
ヤリスの実燃費、魅力増大! ハイブリッド車は言うに及ばず、ガソリン車でも流れのいい道なら実燃費20km/Lも。凄い!
フィットのハイブリッドやノートe-POWERはヤリスにまったく届かない。大雑把なイメージだと20%減といったあたり。
もちろん30km/Lと24km/Lじゃ大差ないという考え方もできる。実際そのとおりだと私も思う。4つのアドバンテージのなかじゃ4番目かもしれません。
だったら3番目はナニよ、と聞かれたら、価格でしょう。e-POWERしかないノート、「見積書作ってもらったら300万円を超えちゃった」。
ノートe-POWER、先代より質感が高くなり実燃費もいいが、なにせ価格が……
ヤリスも安くないけれど、ノートより30万円くらい割安感がある。同じくフィットもヤリスより高いイメージ。実際、ヤリスは液晶が標準装備されているため、高価なナビなど付けなくてよい。
2番目にデザインを挙げておく。フィットはオウンゴール。先代チーフデザイナーの作なのだけれど、いかんともしがたい。ノートは悪くないものの、シルエットがルノー。万人受けするヤリスより少しばかりお客を絞ってる。
ということで最大のアドバンテージがブランドイメージだと思う。ここにきてモリゾウさんの信頼感は絶大。今までのトヨタといえば安心感だけだったけれど、モリゾウさんが社長になって以後、優れたクルマを作っているイメージまで出てきた。
最後尾がフィット。実用性は悪くないがヤリスには及ばない……と国沢氏
WRC参戦も地盤を固めていると思う。実用性からすればフィットのほうが圧倒的に優れているけど、今後もヤリス人気は続くんじゃなかろうか。
●結論…実燃費・コスパのよさ・デザイン・ブランドイメージ。この4つが優れている
■テーマ03:TNGA同士、ヤリスとヤリスクロスの違いは?
先日ヤリスクロスに3日間で1700kmほど乗ってみた。もういろんなことで驚きましたね!
一番の「凄いね!」はイッキに650km乗って疲れなかったこと。その理由として、まず足回り。乗り心地は決してホメられたモンじゃない。けれど大きな入力あっても挙動の乱れにならないし、まっすぐ走る。
ハンドリングも上々のヤリスクロス
走り味も楽しめるコンパクト、ヤリス
おそらく欧州仕様のヤリスクロスに近いんだと思う。一方ヤリスといえば、欧州仕様よりトレッドを小さくするなど幅狭のボディ。ヤリスクロスのほうが欧州車っぽい。
動力性能は車重の軽いヤリスのほうがいいと思いがち。今回乗ったクロスはパワーの低い1.5LのNAだったけれど、不満を感じたことなどなかった。
もう少し詳しく書くと、高速道路の追い越しなどで加速が欲しいとなったら、ヤリスもヤリスクロスもアクセル全開にしないとダメ。巡航時、燃費を稼ぐため低い回転数にしているからだ。アクセル全開した時の加速感は大差なし。クルマについちゃ多少詳しいつもりの私でも、同じような印象。
ハンドリングだけれど、限界まで攻めるとヤリスクロスのほうがマイルドかもしれない。トレッドを狭くした日本仕様のヤリス、少しばかりトリッキーになってしまった気がする。
ワイドトレッドのヤリスクロスはマイルドな挙動のため、急転舵した時の安定性に優れているように思う。とはいえ一般道を攻めたくらいじゃ大差なし。クルマ談義の時に出てくる「誇張した内容大会」で語れるレベルかと。
購入に迷ったらヤリスクロスをすすめておく。
「迷ったら推しはヤリスクロス!」…と国沢氏。クロスの乗り味を推す
●結論…幅狭ボディのヤリスに対し、欧州仕様に近いヤリスクロスは走りに安定感が!
■テーマ04:GRスープラとGRヤリスの走りを再評価
ここにきてGRスープラとGRヤリスの評価が変わり始めている。
いい意味での変化は人気赤丸急上昇中のGRヤリス。
最近多くのチューナーによって手を加えられ、競技屋さんもGRヤリスでさまざまなジャンルの車両を製作している。話を聞くと皆さん「凄いポテンシャルを持ってますね!」。驚いたことにエンジンパワーを上げても壊れないという。ノーマルだと275馬力ながら、350馬力くらいなら簡単。
赤丸急上昇で走りの再評価が上がったというGRヤリス
いわゆるロムチューンで出てしまう。おそらくエンジン設計に余裕を持たせているんだと思う。調べてみたら競技用として使えるだけの冷却性能や、エンジン強度を持たせているようなのだ。
さすがに400馬力を超えるとタービン容量などが足りなくなってくるものの、エンジン本体の補強など必要なく450馬力なら問題は出ないという。エンジンチューナーによれば600馬力くらいの手応えは持てているようだ。
足回りについて言えばフロントがストラットでリアはダブルウィッシュボーン。セッティングの幅を持つため、いくらでも対応可能。車高を上げると若干アンダーステア傾向になるようだけれど、やがて対応策も出てくる。
ということでGRヤリス、ノーマルで充分楽しめるだけでなく、物足りない点があればいくらでもアフターマーケットで対応できると思う。走りを楽しむクルマとしちゃ文句なし!
ノーマルで充分楽しめるし物足りない点があればアフターマーケットで対応可。親方ポーズで国沢氏、絶賛
一方、GRスープラだけれど、アフターパーツはバリエーション少ない。ベースがBMWということもあり、日本のチューナーからすれば手強いんだと思う。ということで買ったらノーマルで乗ることを考えなくちゃならない。
ベースがBMWゆえ走りの“武装”が難しい!? スープラはアフターパーツによる走りの展開が限られる…のが悩みのタネ
ホイールベース短く、前後の荷重配分50対50からくるシャープなハンドリングを好むかどうか、ということになります。スープラの開発チームから多田哲哉さんが抜けたあと、方向性もわからなくなってきた。
●結論…多くのチューナーが手を加えたくなるGRヤリスの走り。スープラは低調気味…
■テーマ05:カローラスポーツは隠れたハンドリングマシン
ここにきてカローラスポーツの評価が少しずつ変わり始めている。
水素エンジンを搭載してレースに出たと思ったら、近々GRヤリスの3気筒1.6Lターボを積むスポーツモデルも出てくるようだ。
考えてみたら欧州のスポーツモデル、カローラクラスの人気が高い。ゴルフRを始め、メガーヌR.S.、シビックタイプR等々。サイズと性能のバランスを取りやすいということなんだろう。
実際、カローラスポーツに乗るとなかなかのハンドリングマシンだと感じる。Bセグよりトレッドが広く、ホイールベースも長いため高速域でのスタビリティを確保しやすい。
乗り味も欧州車風と評価高し
サスはフロントにストラット、リアがダブルウィッシュボーンだからセッティングの奥ゆきだってあります。ベースモデルとしちゃ面白い。
加えて現行カローラスポーツ、ダンパーのデキがいいため乗り心地いい。最近のトヨタ車はステアリングの中心付近のレスポンスも大幅向上し、走り味も欧州車風。
ハイパワーエンジン搭載モデルがあったらラリーに出てみたいほど。TNGA GA-Cはスペースユーティリティの確保に失敗しているため、走りの性能を伸ばすことを選んだ?
●結論…そう、なかなかのハンドリングマシンだ。今後も走りの性能を伸ばす!?
■テーマ06:走りの楽しいトヨタのセダンはどれ?
トヨタで「走りのいいセダン」といえば、間違いなく新型MIRAIとなる。そもそもトヨタのセダンのなかで最も新しいし、コストダウンだってしていない。
何よりボディ剛性が圧倒的に高いのだった。新型MIRAIのベースはレクサスLSやLCに使われている『GA-L』プラットフォームで、標準的な状態ですらお金かかってる。
そんなプラットフォームをベースに水素タンクを安全に搭載すべく驚くほど強固な構造としたそうな。ボディ剛性という点じゃ世界一かもしれない。
LSなどにも採用される『GA-L』プラットフォーム、それをブラッシュアップ
実際、新型MIRAIのハンドルを握るとボディは微動だにせず! ブルブル感なんか宇宙の果てに飛んでいってしまった感じ。加えて振動源となっているエンジンなどを搭載していないため、微振動すら入ってこない。
昔から優れたエンジンを「電気モーターのような」と表現するけれど、新型MIRAIは文字どおりモーター。世界で最も強固なボディを振動のないモーターで走らせるんだから悪い要素なし。
重心低く前後の重量配分よいため、ハンドリングは素直だし楽しい。
レクサスであればマイナーチェンジを受けたISでしょう。といってもレクサスのセダン、今やISとLSのみ。LSのハンドル握るとすべての点でMIRAIに勝てていないためガックリします。消去法でISになる。
NA、3.5L V6は懐かしいエンジンフィールを味わえる、レクサスIS
今までダメな印象しかなかったISながら、ここにきて仕上がってきたように思う。なかでも今や希少な存在になったNAの3.5L V6は懐かしいエンジンフィールを持つ。
こういったクルマ、5年したらなくなります。
●結論…一台はボディ剛性ハンパなしのMIRAI。もう一台はマイナーチェンジ受けたIS
■テーマ07:走って楽しいトヨタのハイブリッドカーはどれ?
もう、0.1秒たりとも迷うことなくRAV4 PHVとしておく。このクルマ、どんな基準を当てたって楽しい!
街中を普通に流していれば快適至極な電気自動車である。ハイブリッド車に乗ったことのある人ならわかるとおり、モーター走行モード中は気持ちいい。エンジンかかった瞬間、現実に引き戻されちゃう感じ。電気自動車モードで走っている限り、滑らかで平和な楽しさがずっと続く。
トヨタらしいハイブリッドに「もっといいクルマづくり」が浸透したRAV4と→
頭切り替えてアクセル踏んだら違う楽しさが飛び出してくる! アクセル全開にすると最初にモーターでグイッ! と加速開始! ひと呼吸置いてエンジンかかり、そいつのパワーが上乗せされてくる。
フル加速体勢に入った時の速さときたら、現時点でトヨタ車No.1だったりして。パワーが足より速いという点でも魅力的だ。RAV4 PHVに乗ると「電動化も悪くないね!」。
同じようなパフォーマンスをエンジンだけで実現するなら500馬力必要。
2番手はクラウンの3.5L V6ハイブリッド。
クラウン、ここのところ埋もれちゃってるけれど、ハンドル握ってアクセル踏むと速いです! なんたってシステム出力は359馬力! 5L級のNAエンジンに匹敵する。
クラウン
コーナーのクリッピング手前から(タイムラグを見越して気持ち速くアクセル踏む)アクセル全開したら、ジワッとモーターパワーが出た後、ド~ンと299馬力のV6エンジンが立ち上がってくるのだった。もう少しカッコよければ売れたかも。
●結論…RAV4 PHVとクラウンHVの2台。モーターの加速感が楽しすぎる!
【番外コラム】TNGA採用前の「走って楽しいトヨタ車」はいったいどれ?
非TNGAで最も走りのいいトヨタ車といえば、まず86を挙げたい。豊田章男社長のお気に入りである86が次期型を含めTNGAじゃないという点は、とても興味深い。
されど「86はトヨタ車と言えないでしょ!」みたいな声もたくさん出ると思うから深掘りはしないでおく。おそらく今後もミドルサイズのFRプラットフォームは作らないだろう。
写真の次期型を含め86がTNGAではない点が興味深い
最近個人的に「凄いかもしれない」と感心してるのがハイエース。前後の重量配分や重心など考えたらコーナー攻めて曲がるワケない。ところが全日本ラリーに出場して狭い林道攻めたら、けっこう走ってしまう! 驚きましたね!
ハイエースも推し
前輪荷重でタイヤを路面に押しつけてグリップを生み出している感じ。改良を加えていくことでもっと速くなる雰囲気を持つ。
センチュリーもTNGAではないけれど素晴らしい乗り味。ちなみにセンチュリー、先代LSのプラットフォームを改良して使っている。現行LSよりずっと乗り心地いいし、足回りの奥ゆきも感じます。
先代LSのプラットフォームを上質に仕立てあげ、足回りに奥行きもあるセンチュリー
センチュリーをベースに次期型LSを作ったらいいクルマになりそう。もちろん御料車であるセンチュリー・ロイヤルもTNGAじゃない。当然ながらトヨタで最高レベルのクルマです。
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