世界の自動車産業で巨大な連合が次々に形成されるなか、国内ではトヨタ自動車が、完全子会社のダイハツに加え、持ち分法適用会社とするスバル、さらに、マツダやスズキとも資本提携を結び、モビリティ開発などで「仲間づくり」を急いでいる。
そんな業界を取り巻く環境の目まぐるしい変化にも動じず、単独主義を維持しているホンダだが、果たしていつまでその自主独立路線を歩むのか。
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行く末を案じるホンダファンも少なくない。
文:福田俊之/写真:HONDA
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自主独立のクルマづくりを貫くホンダ
もちろんホンダもまったくの孤立主義を貫いているわけではない。燃料電池や自動運転の開発では米ゼネラルモーターズ(GM)と提携しているほか、今後電気自動車(EV)やハイブリッド車の増加を見越して日立製作所と電気モーターの開発や生産を共同事業として行うことを決定している。
ホンダは2013年に燃料電池技術についてGMと提携。クラリティFCVはホンダ独自開発だが、次期モデルには共同開発による技術が投入されることになる
コネクティビティの分野ではライバル関係にあるトヨタ自動車とソフトバンクの連合であるMONET(モネ)にも参加している。
だが、中核ビジネスであるクルマづくりについてはあくまで自主独立。自分でモータリゼーションの明るい未来を描き、その思想に基づいて自分の思い通りのクルマを作り続けてこそホンダであるという意識は昔と変わらず持ち続けている。
少なくとも、国内外の巨大メーカーの下に入って親会社の顔色を伺いながらモノづくりをやるような事態に陥ることだけは避けたいというのが、すでに就任5年目に入った八郷隆弘社長以下、ホンダマンの誰もが持っている熱い思いであり、ホンダの誇りにもなっている。
トヨタ、マツダ、デンソーの3社でEVに関する技術開発を行う合弁会社を作り、現在はスバル、ダイハツ、スズキ、日野、いすゞ、ヤマハも加わるいわばEV日の丸連合に対し、ホンダは自動車メーカーとの提携をせず独自でホンダeを開発
利益率の低さが深刻
年間販売1000万台規模の巨大連合でなければ生き残れないと言われる今の時代にそんな生き方を見せつけることができれば、まさしくホンダドリームというものであろう。
だが、その自主独立路線に今、黄信号が灯っている。国内市場に目を向けても、軽自動車の「N-BOX」は9月時点の新車販売台数で25か月連続トップを続ける国内で一番売れているヒット車種だが、一生懸命売りまくっても余り儲からず、利益を稼ぎ出せていない。
ホンダに限らないが、安全装置、環境技術などの高価なシステムを標準装備にすることが求められたことで、クルマを開発するコストは急激に上がっている。
N-BOX&N-BOXカスタムは驚異的な販売をマーク。しかし問題は利益率が低いこと、既存のホンダ車ユーザーを食っていることで手放しでは喜べない状況
それでも薄利多売でもコスト削減などで利益を確保できるのであればいいが、特にホンダにとって最大のボリュームゾーンである低価格帯の四輪車については利益どころか減損損失を計上しかねないのが実態のようだ。
実際、ホンダの業績をみると、連結売上高は15兆円を超える、押しも押されもしない巨大企業だが、利益がそれについてこないのが悩みの種。2019年3月期の売上高営業利益率は4.6%。
経営の混乱が続く日産自動車やその傘下の三菱自動車、北米など販売不振のマツダなどに比べれば上回るが、それはアジアで生産し、アジアで売ることで高利益を得ている二輪事業に引っ張られてのこと。四輪事業に限ればわずか1.9%と「警戒レベル」を超えている。この利益率では明るい未来を描くことは厳しい。
ホンダ期待の新型フィットを東京モーターショー2019で世界初公開。バリエーション展開によりユーザーの獲得を狙うが、利益率の改善に貢献するか注目
希薄になったホンダのブランドイメージ
なぜホンダのクルマづくりは儲からなくなってしまったのか。そもそも自主独立など、現代においては非現実的なのか。苦難を乗り越えて栄光を手にしてきたホンダの歴史を知る人間にとってはにわかには信じがたいだろう。
CASE(コネクティビティ、自動運転、シェアリングエコノミー、電動化)の4つの技術革新が押し寄せ、混沌としている時代で、残念ながらトヨタにしても自動車産業がどうなるかという未来を本当に見通せているメーカーは出現していない。
クルマを個人所有する時代が終わるとよく言われるが、それならばホンダがそれをひっくり返し、新しいパーソナルモビリティの姿を提案することも可能だ。2代前の社長の福井威夫氏は「シェアリングエコノミー時代の到来を予見しながら、ホンダはそれと戦う」と意気込みを見せていたことを思い出す。
創業者本田宗一郎氏の夢であったホンダジェットを実現させたことからもわかるとおり、目標に向かって突き進むホンダのパワーはほかでは真似ができない
だが、ホンダがその路線を走るのは難しい状況になりつつあるのも事実。2008年秋のリーマンショックから今日まで、ホンダはグローバルな自動車業界においてホンダがどういう企業でありたいかというビジョンを描かず、販売台数を稼げる米国や中国で低価格帯のクルマを売るというビジネスを展開している。
いっぽうで、リーマンショック時に資金が枯渇しそうになった経験から、内部留保の積み増しにも全力投球してきた。
その結果、ようやく飛び立った「ホンダジェット」を除けば、ここ10年でホンダが自前で開拓した分野というものが少なく、ブランドイメージは希薄になった。
また、技術面でもホンダが主役となって他社を従えるような本来のホンダらしさである強みを出せなくなりつつある。
自主独立路線への再チャレンジは十分可能
リーマンショックの前後であれば、ホンダが自主独立を貫きながも、他国のメーカーを傘下に収めるような提携もあり得ただろう。しかし、今はもうそんなメーカーは残っていない。
単独でいるという形の上での自主独立にこだわりすぎて、本当に自主独立を貫くチャンスを失ったようにも思えるが、唯一の救いは今でもホンダの研究開発力はまだまだ世界有数。年間の研究開発費も8000億円を上回る。
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苦労しながら2019年オーストリアGPで久々にF1で優勝したホンダだが、F1に参戦していればブランドイメージが構築されるような時代ではなくなっている
ホンダの価値観で世界を魅了し、会社を成長させていく自主独立路線への再チャレンジは十分可能だ。それには利益率が下がり、何か異変が起こればただちに経営危機になるというプレッシャーを跳ねのけて、経営陣がダイナミックに動くだけのリーダーシップを発揮できるかどうかが問われている。
ホンダの経営トップはトヨタ、日産とともに日本自動車工業会(自工会)の会長職を2年交代で順繰りに務めてきた。現会長のトヨタの豊田章男氏の次はホンダが人材を出す番なのだが、先般、次の2020年度以降も豊田氏が続投すると発表された。
本来なら次を務めるはずであったホンダ会長(自工会副会長)の神子柴寿昭氏は「2020年はオリンピックの年で、それを盛り上げるためにも経験豊富な豊田会長に続投をお願いした」と持ち上げた。
業界関係者の間では「豊田会長がやる気満々なので譲ってあげたのでは」とか、逆に「業績悪化でホンダが自工会活動をする余裕もないからトヨタが引き受けた」など、諸説紛々の憶測も広がる。
その真相はともかく、ひと昔前のトヨタとホンダは切磋琢磨しながらライバル意識が強烈だったが、最近は日本を代表する自動車メーカーが”オールジャパン”で生き残るためにも、トップ同士が持ちつ持たれつの良好な関係を築いていることも事実。
独自のハイブリッド技術を盛り込んだスーパースポーツのNSXはホンダにしかできないクルマだが、ユーザーに訴求できているとは言えない
それをトヨタが、かつてのようにホンダを手強い「好敵手」とみるのかどうかだ。
この先もホンダが、今季久々に優勝を果たしたF1レースの参戦や創業者・本田宗一郎の夢を実現させた小型ジェット開発などユーザーを魅了する独立路線を貫けるかどうか。
それともスバルやマツダ、スズキのように、トヨタなど巨大陣営の軍門に下って寄り添うのか。おそらく、ホンダの「未来予想図」ともいえる「2030年ビジョン」の骨格が固まる5年先の2025年ごろまでにはその道筋がはっきり見えてくることになるだろう。
【画像ギャラリー】ホンダがローバーと提携していた時の共同開発車
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