最高の走りを追求したスカイライン、環境技術の精神から生まれたシビックCVCC、革新的ハイブリッドで誕生したプリウスなど、かつては開発者の「志」を感じる日本車がたくさんあった。
では今の日本車に「志」はあるのか? もちろんある! あると思う! たぶん!! やや不安を感じてしまったので、5人の自動車ジャーナリストに「志を感じる日本車はありますか?」を聞いてみた。すると、全員が「もちろんある」と回答。おお、すばらしい。5人それぞれ、今最も志を感じる日本車はこちらです!
五輪まで2年…死亡事故増えるタクシーのマナー 改善できるか?
文:ベストカー編集部、片岡英明、清水草一、渡辺陽一郎、鈴木直也、国沢光宏
ベストカー2018年7月26日号より
■トヨタ・クラウン
トヨタクラウン(2018年6月~)
今につながる日本のセダンのなかで、初代が誕生する時から独自の技術にこだわってきたクルマが、クラウンとスカイラインだ。この2車は、その後も「純国産」技術にこだわり続けた。だから開発担当のエンジニアは発奮したのである。また、自動車先進国を上回る技術を開発することで自信も持てたのだ。
スカイラインに関しては置いておくとして、この姿勢をクラウンは貫き続けている。
特に歴代クラウンが目指したのは、日本の礎を築き、明日を担うエグゼクティブが満足するクルマづくりである。こだわったのは、自動車先進国のヨーロッパとアメリカではない。「ニッポン」という国に住む人たちにこだわり続けたのだ。懸命に働き、サクセスを望む人たちのために、彼らが気に入るクルマになろうと励んできたのである。
だが、守りに入ってはいない。クラウンは、高級セダンにふさわしい新しい技術を時代に先駆けて積極的に採用してきた。日本初、世界初のメカニズムも少なくない。採用する理由は、ドライバーとパッセンジャーが、安全に、快適にドライブできることを第一に考えたためである。
最新の現行クラウンは全幅を1800mmにとどめ、スイッチ類も現オーナーが戸惑わないように、同じレイアウトとした。設計指針がぶれない、ユーザーフレンドリーの優しい設計、おもてなしの精神などに、志の高さを感じる。(片岡英明)
■マツダ・ロードスター
マツダロードスター(2015年5月~)
マツダ・ロードスターは、「志」のカタマリのようなクルマだああああああああっ!
まずコンセプトがすばらしい。今時、30年前に出た初代NA型よりもサイズをコンパクトにして、車重は1トンを切った。エンジンは、NC型の2ℓから1・5ℓに超ダウンサイジング! ターボじゃなくNAのままで! すべて、フツー実現不可能な猛烈に高すぎる志だが、それをみごとに実現した。涙が出ます。
しかも、エンジンフィールもシフトフィールも最高に近い。クラッチフィールまでが最高! これほどクラッチミートが簡単かつ節度に満ちたクルマがほかにあるだろうか? というくらいで、なにせ乗りやすくて気持ちイイ。
操縦感覚は初代以上にクラシカル。最近のマイチェンでは、ロールを抑えて若干現代的になったけど、いずれにせよ恐ろしいほどの完成度の高さだ。
総合的には、フツーに走ってるだけで、とっても楽しくて気持ちいいスポーツカーになっているわけです。これを志が高いと言わずにいられるか。本当に涙が出る。
そのうえで、歴代でも最高に美しくてシンプルなフォルムを纏わせているのですよ。幌の出来も最高。RFの電動メタルトップもスバラシイ。いま世界で一番ステキなスポーツカーだと思います。(清水草一)
■ホンダ・N-BOX
ホンダN-BOX(2017年8月~)
クルマの「志」について本稿では「日本のユーザーに、安全かつ便利で、快適に使える経済的なクルマを、割安に提供すること」としたい。
この頂点に立つ車種がホンダN-BOXだ。軽自動車だから必然的に「日本のユーザー」が対象になる。同じホンダ車でも、アコードやシビックは日本の使用環境など考えていないがN-BOXは違う。子育てをする世帯、高齢者など、切実なニーズに基づいてクルマを使う日本のユーザーに向けて開発された。
そしてクルマの最大の欠点は交通事故だから、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備のホンダセンシングを装着する。公共の交通機関が未発達な地域では、高齢者が軽自動車を通院などに使う厳しい現実があり、N-BOXのホンダセンシングは遠い将来まで安全性を高める。
視界のいい軽自動車だから運転しやすく、後席を含めて車内は広い。荷物も積みやすく、スライドドアで乗降性も優れ、利便性が抜群に高い。
そして充分な厚みを持たせたシートと相まって、乗り心地が快適だ。走行音も小さく抑えた。
価格は買い得なG・Lホンダセンシングでも約150万円に達するが、小型車を超える機能を考えれば妥当だ。燃料代と税金が安く経済性も優れ、日本のユーザーに対する「志」をすべて満たしている。(渡辺陽一郎)
■日産・リーフ
日産リーフ(2017年9月~)
自動車メーカーにとって「志」とはなんぞやと考えるに、それは未来へのビジョンだとぼくは思っている。
地球のため、ユーザーのため、そして自社のため、将来にはこういうクルマが必要。短期的な利益は度外視しても作らなければいけないクルマがある。そういうクルマにどれだけ本腰を入れて取り組めるかに、メーカーの志の高さが表れる。
そういう意味で言うなら、今最も志の高いクルマは日産リーフだ。
ぼくは現在の時点ではまだ電気自動車に懐疑的だが、そんなぼくでも長期的にはクルマの動力源が電気モーターに移行することに100%異論はない。問題はその移行期間の長さや、内燃機関とどう共存してゆくか。テスラみたいなEVベンチャーはさておき、既存の大メーカーにはそこが最も悩ましい。
日産はここで果敢にリスクをとって、いち早く純EVの量産化に踏み切った。「EVは構造が簡単だから参入障壁が低い」とかアホなことを言う経済評論家が多いが、信頼性の高いEVを適切な価格で量産化するのは至難のワザ。しかも、そこで利益が出せなければビジネスとしてのサイクルが回せない。
だから、モデルチェンジして第2世代にバトンを繋いだという事実だけで、リーフの存在は偉業。その志の高さに敬意を評したいと思う。(鈴木直也)
■トヨタ・MIRAI
トヨタMIRAI(2014年11月~)
私にとって最初の燃料電池車は22年前の1996年に遡る。トヨタはRAV4に燃料電池を搭載し、メディアに試乗させたのだった。当時は問題山積! そもそもRAV4の車体半分が燃料電池ユニットという状況で、動力性能だってプア。蒸気機関車のような音と湯気を出して走っていた。私が生きている間に市販できるなんて想像もしていなかったほど。
その後、燃料電池の開発チームは粘った。話を聞けば1992年くらいから本格的に開発を始めたというから、当初のスタッフについちゃ市販前に定年を迎えるケースだって多かったことだろう。そもそも実用化できるかどうかすら怪しかったと思う。MIRAIの市販は2015年なので、23年かかったということになります。志の強さという点からすれば世界一かも。
30年間の熟成を経て世に出たMIRAIは、拍子抜けするほど普通に使えるクルマに仕上がった。何も言われなければ燃料電池車であることにも気がつかないほど。乗り心地はトヨタ車でナンバー1だし、静かさも圧倒的。動力性能だって私が全日本ラリーに出場し、同じクラスのガソリン車と互角に戦えるレベルを実現している。
何より燃料電池車として一般向けに市販しているのは、いまだにMIRAIだけだ。(国沢光宏)
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