エンジンとモーターの出力を組み合わせて走るハイブリッド車には、モーターを動かす駆動バッテリーとともに、ガソリン車と同様の鉛電池の補機バッテリーが搭載されています。補機バッテリーは、通常のガソリン車と同じようにバッテリー上がりを起こし、その場合はハイブリッドシステムが機能しなくなり、身動きできなくなるので注意が必要。ハイブリッド車に搭載されている2つのバッテリーの役割と注意すべきバッテリー上がりについて、ご紹介します。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:写真AC_ FineGraphics
写真:Adobe Stock、写真AC
ハイブリッド車でもバッテリーが上がるってホント?? HEVの電力事情
補機バッテリーでハイブリッドシステムを起動させている
エンジンとモーターの出力を、巧みに組み合わせてクルマを走らせるハイブリッド車。冒頭で触れたように、モーターを駆動させる駆動バッテリー以外にも、一般的なガソリン車で搭載している12Vの補機バッテリーも搭載しています。
・補機バッテリー
一般的な電圧12Vの鉛電池で、クルマの様々な制御コンピューターを起動させて、点火プラグやインジェクタなどのエンジン系電装部品やヘッドライト、ワイパー、オーディオなど車体系電装部品に電力を供給する役目と、ハイブリッドシステムを起動させる役目を担います
・駆動バッテリー
200Vを超える高電圧・大容量のニッケル水素電池またはリチウムイオン電池で、走行用モーターの駆動とエンジン始動のために使われます。ハイブリッドの仕様によってバッテリー電圧は異なり、モーター走行を多用するストロングハイブリッドでは、バッテリー電圧が500Vを超えるものも珍しくありません
補機バッテリーはバッテリーが少なくなると、駆動バッテリーから充電
バッテリーは、各部に電力を供給(放電)するだけでは、すぐにバッテリー容量が減少してバッテリー上がりを起こします。それを回避するため、ハイブリッドシステムでは、モーターを発電機として減速時の制動力の一部を回収する、「減速エネルギー回生」という方法で発電して、バッテリーを充電します。
それでも放電量の方が充電量を上回り、バッテリー容量が規定値を下回った時には、エンジンを起動させてエンジンで発電機を回して、バッテリーを充電します。充電によってバッテリー容量が増えれば、再びEV走行するなどで積極的に電気を使って走行して燃費を改善します。
このような仕組みで、駆動バッテリーは、規定のバッテリー容量を確保します。一方で補機バッテリーについては、バッテリー容量が少なくなると駆動バッテリーからDC-DCコンバーターを使って電圧を12Vに下げて充電し、バッテリー上がりを防止します。
ハイブリッド車の補機バッテリーは容量低下を予知しづらい
以上のように、ハイブリッド車の2つのバッテリーは、バッテリー容量の残量を監視しながら、適正に充放電を繰り返すので、通常はバッテリー上がりを起こすことはありません。特に駆動バッテリーは、安全性と耐久信頼性の観点から容量はおおよそ30%~80%程度に精度よく制御されるので、完全にバッテリーが空になることはありません。しかし、補機バッテリーについては、エンジンが駆動せずにクルマが停止している状態では、充電する術がないので、何らかの不具合で放電が起こるとバッテリーが上がってしまいます。
ハイブリッド車の補機バッテリーが上がる原因は、一般的なガソリン車のバッテリー上がりと同じで、ヘッドライトやルームライトの消し忘れなどです。また経年劣化や長期放置などによるバッテリー自体の劣化も補機バッテリーが上がる原因になります。
通常のガソリン車では、バッテリーの容量が低下し始めると、スターターの回転が鈍くなる、始動に時間がかかるなど、比較的ユーザーが予知しやすい前兆が起こりますが、ハイブリッドの補機バッテリーの容量低下は予知しづらいので注意が必要。ハイブリッド車は、補機バッテリーが上がると、ハイブリッドシステムが起動しないので、いきなり動かなくなります。
救援を受けるのは可能だが、相手への救援は厳禁!!
ハイブリッド車も、補機バッテリーが上がった場合、ガソリン車と同様に、ブースターケーブルやジャンプスターターで対応できます。
ここで注意しなければいけないのは、ハイブリッド車はガソリン車からバッテリー上がりを救援(充電)されることはできても、バッテリー上がりのクルマを救援することができないことです。他のガソリン車のバッテリー上がりを救援すると、充電によってガソリン車のスターターが駆動することで過電流が流れ、ハイブリッド車側の保護回路が作動したり、電源系統が故障する可能性があります。もちろん、ハイブリッド車同士の救援も厳禁です。
もう一点注意しなければいけないのは、補機バッテリーはガソリン車と同じ鉛電池ではありますが、専用バッテリーが使われており、通常のガソリン車のバッテリーとの互換性がありません。鉛バッテリーは、充電中に化学反応によって少量ながら水素が発生します。そのため、水素が充満しないように補機バッテリーには水素ガスを車外に放出するための特別なホースが装着されています。ハイブリッド車は、ガソリン車のバッテリーを使うと危険なので、メーカーの純正バッテリーを使うようにしてください。
15代目 S220型(2018年~2022年)クラウンハイブリッドのエンジンルーム。モーターは、トランスミッション内に搭載され、赤い高電圧線で繋がれているのがパワーコントロールユニット(含む、インバーター)、補機バッテリーはトランク内に搭載されている。(PHOTO:写真AC_ URD)
◆ ◆ ◆
近年のクルマは、ライトの消し忘れなどに対するアラーム機能が充実しているので、バッテリー上がりの主要な原因は、経年劣化や長期放置によるバッテリー自体の劣化ではないでしょうか。前述したように、ハイブリッド車の補機バッテリーの劣化具合は、ガソリン車と比べて予知するのが難しいので、急にクルマが動かなくなるリスクを避けるため、メーカー推奨のタイミングで確実に交換するのが安心です。
JAF救援出動(2021年度実績で2,158,586件)のうち、最もよくある理由が「バッテリー上がり(過放電)」でした(同年879,403件 /40.74%)。そして「お盆休み」は年間を通して最もバッテリー上がりが発生しやすい時期のひとつです(年末年始も注意)。この時期のバッテリー上がりには、特に注意しましょう。
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みんなのコメント
交換しかないね!
400V以上ある走行用電池から12Vに変圧するには大きな変圧器が必要だから
必ず始動用の12Vバッテリーを搭載してます。