2007年、4代目となるE92型BMW M3が登場している。3月のジュネーブオートサロンで「M3コンセプト」として公開された後、正式にワールドプレミアとなった。注目はそれまでの直6ユニットではなく高回転型のV8ユニットが搭載されていたこと。ここではデビュー間もなくスペイン・マガで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年9月号より)
カーボンルーフをはじめボディパネルの80%を新開発
今からおよそ20年前に登場した初代M3(E30型)は、朱色のような赤が似合うコンペティティブなモデルであった。そして今回、スペインのマラガで行われた試乗会に現れた4世代目のM3は、すべてのテストカーがその初代M3を思わせる真っ赤なボディを持って登場した。さらにルーフはすべて黒、というコンビネーションである。
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実はこれこそが、4代目の特徴をもっとも端的に見せる演出なのである。ルーフ全体がカーボンでできており、その素材を一目でわからせるための一番インパクトが強い組み合わせなのだ。カーボンルーフは、スチール製に較べると5kg近く軽量で、さらにクルマ全体の重心位置を下げるという副次的な効果もある。
このカーボンルーフに象徴されるように、今度のM3クーペはベースとなった3シリーズクーペ(E92型)に対して、ヘッドライトユニット、前後のウインドウ、ドア、そしてリアパネル以外の、実に80%もの部分に新開発のパーツを採用している。
ルーフ以外では、例えば両側にイルカの噴気孔のようなアウトレットを配したパワードームを持つアルミ製ボンネット、フロントスカートに設けられた毎分17m立方のエアを取り入れる巨大なインテーク部を備える。後ろに回ると、ディフューザーの両脇から、後続車を射る銃口のようにエキゾーストパイプが並んでいる。
メーターパネルは、ドライバーの正面に330km/hまでスケールが広がったスピードメーター、その右隣に水温と油温によってイエローおよびレッドゾーンが変化するタコメーターが並ぶ。このほかには油温計と燃料計だけで、必要に応じてiDriveからインフォメーションを呼び出す。また、ダッシュボード上にあるナビおよびマルチインフォメーションスクリーンなどの基本的なレイアウトは、クーペと同一である。
先進を謳い、最新のV8エンジンを搭載
すでに発表されているように、このM社の最新モデルには従来の直列6気筒エンジンに代わってV型8気筒エンジンが搭載されている。排気量は3999cc、ボア×ストローク(75.2×92.0mm)、そしてシリンダーピッチ(98mm)からわかるように、ベースとなったのはM5やM6でお馴染みのV10エンジンである。
最高出力は420ps/8400rpm、最大トルクは400Nm/3900rpm。この結果、パワーウエイトレシオは3.8kg/psを得て、スタートから100km/hをマークするまでのタイムは4.8秒、最高速度は250km/hとされる。
ただし本来の実力はずっと上で、BMWではユーザーの希望に応じて「Mドライブパッケージ」に対する2450ユーロ(約40万円)のエクストラチャージと、ハイスピードドライバーズトレーニングに参加するという条件で、280km/hまでのリミット引き上げを行っている。
BMWの長年の「売り」であったバランスの良い直列6気筒スポーツエンジンも捨てがたいが、よりパワフルで洗練されて15kgも軽量となれば、自らがノスタルジーに浸っていることを許さない理由がわかる。
いよいよステアリングホイール右のスターターボタンを押して、ニューV8エンジンを目覚めさせる。するとドライバーの肩口でシートベルトサポートが「どうぞ!」とベルト着用を促す。これで身体を捻ることなく左側から出たベルトをつかむことができるのだが、果たしてこれがスポーツドライブの最初の儀式として適切かどうかは怪しい。今度のM3は、身体が捩れないほどお腹が出た人も想定して開発されたというのだろうか?
スタンダードの6速マニュアルシフトを1速にセットして、歩くようなスピードでホテルの駐車場を出るまでは低い唸り声を上げていたV8だが、高速道路に出て3000rpmくらいまで回転を上げると、明らかに高いサウンドを発すると同時に胸のすくような加速を開始する。
やがて、マラガの市内を抜け山間のワインディング路へと入る。ここは、箱根をスケールアップしたような場所で、広大なパノラマ景色を背景にして、コーナーとアップダウンが果てしなく続くチャレンジングなルートである。このセッションでは、もちろんすべてのエレクトロニックサポートはオンのままだ。
豊かなトルクと適切なギア、そしてダンパーセッティングをコンフォート(スタンダード)から2番目に引き上げても乗り心地はそう悪化せず、この新しいM3が洗練されたツーリングマシンであるという印象を与えてくれる。しかし、正確でインフォメーションの確かなステアリングとコントローラブルなブレーキを武器にペースを上げていくと、このM3のスポーツ性能の奥深さも感じざるを得ない。
やがて、道の奥に隠れるように存在するレースリゾート「アスカリ」に到着。ここでM3のスポーツ性を検証するのだ。
5.4kmほどのコースは、さすがにリゾートを謳っているだけあって非常に手入れが行き届いており、コース幅もエスケープゾーンも広く安全である。ただし3番目のコーナーは起伏があってクリッピングポイントが読めず、ややトリッキーだ。
ここでエレクトロニックデバイスをオフにしたM3は、ドライバーの操作に対してまさに水を得た魚のような動きを見せてくれる。ただし6速MTのシフトストロークは、この条件下においては大き過ぎる。できれば、現在開発中と伝えられる改良型のSMG、あるいはツインクラッチのセミオートマチック(7速)が欲しい。
さらに次の周回では「Mドライブ」モードを選ぶ。これですべてのサポートが切れ、エンジンやステアリングアシストのマップもシャープに変化する。するとM3は、それまでのツーリングGTとは一変した。禽獣のような動きを見せ、ドライバーはコーナリングスピード、ブレーキ、ステアのすべてに一層の緊張を強いられる。
ここで気に入らないのは、滑るようなレザー仕上げのステアリングホイールである。もちろん周回を重ねるうちに手のひらには汗が滲んでくるから良いが、表面にはやはり最初から滑り止めの処理が必要である。
装着されているタイヤは、ミシュランのパイロット・スポーツPS2(F:245/40ZR18、R:265/40ZR18)で、当日サーキットにいたミシュランのエンジニアによると「このPS2はM3専用に開発されており、プラットフォームはポルシェGT3用と同じだが、より日常での使用を考慮してプロフィールの内側にシリカを多く配合して撥水性を高め、その一方で外側はグリップを高めるためにシリカの量を減らしている」とのこと。身体全身に汗をかいたスポーツ走行のあとでは、確かにタイヤの内側は相当のストレスを受け、磨耗が激しかった。
求められているものを走りで見事に表現
また、BMWが2007年後期モデルから採用しているブレーキエネルギー回生システムがこのM3にも装備されている。これで蓄えられたエネルギーによって、加速時にジェネレーターを駆動する負荷が解消され、ダッシュ力のアップと省エネ効果がある。いわゆる「マイクロハイブリッド」だ。
M3の初代モデルは、ホモロゲーション用のピュアコンペティションモデルであった。しかし世代を重ねるごとにその性格は洗練され、GTクーペへと変貌して、ビジネス的にも大成功した。その結果、先代のM3(E46型)ではよりコンペティティブなスポーツモデルの必要性が増し、限定モデルとしてM3 CSLが登場したと想像できる。
420psのV8エンジンを与えられた最新のM3は、カーボンルーフやパワードームの付いたアルミ製ボンネットなどで武装され、一見するとそのままサーキットへ持ち込めるような雰囲気を備えている。もちろん、サーキットでは普通のスポーツクーペよりはずっとコンペティティブなドライブを提供する。特にMドライブとMデファレンシャルは、サーキットでは優れものだった。しかしウイークエンドのスポーツ走行には良いが、このままレースに参加するというわけにはいかない。その象徴が、すでに述べたシートベルト装着サポートだろう。
新しいM3は、パフォーマンスは増したが、洗練度も増している。その目指す方向は高性能スポーツグランドツーリングカー、つまりポルシェで言えばカレラSに相当する。そうならば、もっとシャープなオンロードレーサー、例えばGT3のようなモデルは、やはりM3 CSLという名前で登場するのではないかと考えた方が理に適っている気がする。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年9月号より)
BMW M3クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4615×1804×1418mm
●ホイールベース:2761mm
●車両重量:1655kg (EU値)
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:4.8秒
※欧州仕様
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E60,E63はバングル臭強すぎて好きじゃないが