ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。第4回目はGRヤリス試乗です!(2021年5月10日号より)
■4WDターボは日本車のお家芸。好き者にはたまらないクルマ!
【テリー伊藤のお笑い自動車研究所】メジャーにはなってほしくない……GRヤリスには「地下アイドル」の魅力があった!!
GRヤリスは直噴直3、1.6LDOHCターボを搭載する。ランエボ、インプレッサWRX STIなき今、日本唯一の武闘派4WDスポーツだ
話題のGRヤリスに乗れる日がやってきた。ランエボ、インプレッサWRX STIなき今、日本車のお家芸であるラリーベースの4WDターボを受け継ぐ唯一のクルマ。一般ウケはともかく、好き者にはたまらないクルマとして大いに盛り上がっていると聞く。
ただ、正直に言って、私にはあまり関係のないクルマである。運転は大好きだがサーキットを走る趣味はないし、これからの人生で砂利道や雪道をドリフトしながらすっ飛ばすこともないだろう。かつて、プジョー106ラリーを買って走り回っていた私だが、GRヤリスは、どう考えても購入対象にならない。
しかし、こういうクルマに熱くなる人の気持ちはよくわかる。今年は全日本ラリーでの活躍が期待されていて、勝てばファンは喜び、その成績が売れゆきにも影響するだろうと聞くと、純粋なクルマ好きに愛されるクルマであることがわかる。
トヨタのWRC参戦経験を生かし、また、その新たなベース車としての役目も担って登場。ヤリスと名乗っているが、ベーシックカーのヤリスとは別のクルマで、新開発の直3、1.6Lターボエンジン(272ps/37.7kgm)を搭載する4WDスポーツ
何かに似ているな? と思っていたら気がついた。地下アイドルだ。
秋葉原など、ある限られたエリアでのみ人気のあるアイドル。一般的には知られていないが熱狂的なファンがいて、「俺が応援してやらないと!」と思わせる存在。GRヤリスとはそういうクルマなのではないか。
試乗車はオプション込みで500万円オーバー。中身は別モノとはいえ、車名は139万5000円からあるヤリスだ。おそらく普通の人にはヤリスとGRヤリスの違いはわからないはず。
競技に使うならともかく、普段の足としてヤリスに500万円以上を投じるのだから、生半可な熱意ではない。まさに「俺が応援してやらないと!」という気持ちの現れ。メジャーにはなってほしくない。俺だけのアイドルでいてほしい。「GRヤリス=地下アイドル説」は、このクルマの本質を突いている気がする。
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■稽古を終えて、ラーメン二郎に並ぶ地下アイドル
GRヤリスのコックピット。RZはiMT専用車であるため、2ペダル車の設定はない
では乗ってみよう。GRヤリスはMT専用車で、iMTという新しいトランスミッションが装備されている。
驚いたのはエンストした時に勝手にエンジンが再始動することだ。焦ってエンジンをかけ直す必要がないし、そもそもエンストしにくい制御もしてくれているらしい。
「せっかくだから」と首都高速も走ってみたのだが、なるほど走りは爽快だ。爽快なうえに上質でもある。ギアチェンジを繰り返しながらそこそこのペースで走っていると、運転に集中している自分に気づく。これぞスポーツカーである。
クルマはこうでなくては、と思う。考えごとをしながら、ボーッと運転できてしまうクルマばかりに乗っているとクルマを舐めてしまう。GRヤリスは集中力を要求するし、運転に夢中にさせてくれる。さすがはラリーベース車だと思うが、ならば、もっともっと派手でもいいような気がする。こういうクルマは「穏便」が最大の敵なのではないか。
例えば、ボンネットに透明のカバーをつけて、自慢のターボエンジンが外から見えるようにするのはどうだろう。フェラーリやランボルギーニがやっているあれだ。また、巨大なスポイラーをつけてもいいし、フェンダーももっと膨らませてもいい。そうしてコトをどんどん大きくして欲しい。繰り返すが「穏便」なのが一番よくない。
ボンネットに透明のカバーを付けて、自慢のエンジンを外から見られるようにするべきだ!
最近のクルマ、特に日本車には穏便なものが多い。カロリーをしっかり計算した食事のようなもので、健康にはよさそうだが、たまには血の滴るようなステーキにかぶりつきたくなるし、夜中にラーメン二郎の味が恋しくなることもある。体にはよくないかもしれないが、そんなことができるのも生きる力のひとつである。GRヤリスが欲しいというのは、きっとそういうことなのだろう。
そんなことを考えていたら、私のなかで結論が出た。GRヤリスは「稽古を終えてラーメン二郎に並ぶ地下アイドル」だ。前向きでパワフルで、青春を謳歌している女の子。メジャーを目指しながらもマイナーで、マイナーだからこそファンの熱意がもの凄く、そして、自分自身も強烈なパワーを備えている。
こうして言葉にしてみると、GRヤリスはトヨタらしからぬトヨタ車であることがよくわかる。ただし、まだ「穏便にすませよう」という意識が見え隠れしている。もっともっと思い切るべきだ。私のお薦めは「外からエンジンが見える透明なボンネット」だ。モリゾウさん、やってみませんか?
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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