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【実走2000キロ試乗】元「ビート」乗りがホンダ「S660」を試す! 最終進化形「バージョンZ」は大人のスポーツカーでした

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【実走2000キロ試乗】元「ビート」乗りがホンダ「S660」を試す! 最終進化形「バージョンZ」は大人のスポーツカーでした

発売・即完売した最終限定版「S660モデューロXバージョンZ」に試乗

 軽自動車のミッドシップ・オープンスポーツ。走りの楽しさに全振りしたホンダ「S660」は2015年に登場するや、かつての「ビート」ファンのみならず多くのスポーツカー好きに熱く支持されたのだった。2021年3月に販売終了の予告とともに発表された最後の特別仕様車「モデューロXバージョンZ」は、315万400円と軽としては異例の高額にもかかわらず、すぐ完売。中古市場では一時期、400万円オーバーまで高騰して話題になった。そんなS660最終バージョンに、元ビート乗りの編集部員が今あらためてじっくり乗ってみた。

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交差点を曲がるだけで楽しい! ミッドシップの気持ちよさ

 1991年式のホンダ「ビート」初期型フルノーマル仕様をわりと最近、2015年~2020年まで所有していた。ビートに乗り始めた時期にちょうど後継モデル「S660」が登場し、仕事柄、そちらも撮影用に何度も乗る機会に恵まれた。周りのビート乗りたちからは当初、「ターボじゃなあ」とか「電子制御バリバリなんでしょ」との声が聞かれたものの、実際に乗ってみればS660にもしっかり「運転する楽しさ」が詰まっていたのだった。

 なんといっても第一に驚いたのが剛性の高さ。20年以上も前のビートの、よくしなるボディ&シャシーの乗り味とはまったく違うものの、現代の安全基準にアップデートされた軽オープン、というよりも最新スポーツカーに匹敵するポテンシャルを感じさせた。

 それと引きかえにルーフはタルガトップタイプになり、幌は巻き取り式に。オープンカー好きとしては残念な点ではあるものの、慣れればソフトトップを取り外してフロントフード下のケースに収納するまで約1分で済む。さらに「開放感」を補う工夫として、左右シートの間のリヤウインドウを電動で開閉でき、リヤミドのエンジン音を近く感じられるとともに、シートまわりの風を整えて乗員の髪の毛がバサつかないのも嬉しいポイントだった。

 ビートのNAエンジンでは8500rpmまで気持ちよく吹きあがる加速フィールと3連スロットルのレスポンス、そして快音が大きな魅力だった。ターボ化したS660のエンジンは、極低回転域の2000rpmから太いトルクが立ち上がり、ターボラグを低減してレスポンスを良くすることに注力されている。そしてアクセルをオフにするとブローオフバルブの「シュカッ」という音が響くのも意図的な演出だそう。個人的に「ビートは楽器」と思っていたが、「音で楽しむスポーツカー」という側面をS660も引き継いでいるのだ。

 結果、S660では街中で信号から加速するだけでも楽しいし、角を曲がるだけでもミッドシップらしさを実感でき、ちょっとワインディングに出かければキビキビした走りを満喫できる。「軽自動車らしさ」「ミッドシップらしさ」「オープンカーらしさ」の三位一体を兼ね備え、ビートの本質的な部分を引き継いだ素晴らしいクルマとして、ずっと気になる存在であり続けたのだった。

さらなる高みを実現した「モデューロXバージョンZ」

 と、ここまでベタ褒めしたのはS660のノーマル仕様の話。今回試乗したモデューロXバージョンZは、ホンダの純正アクセサリーを手がけるホンダアクセスが開発したアフターパーツを盛りこんだコンプリートモデル「モデューロX」の最終版で、6速MTのみ。

 バージョンZではボディカラーに特別色「ソニックグレー・パール」が設定されたほか、各部に専用色が用意され内装にカーボン調パネルが用いられたりと、おもにルックス上の特別仕様となるので、エアロパーツや足まわりなど走行性能の部分はベースのモデューロXと同じだ。

 じつはバージョンZが登場した2021年春にも広報車をお借りして、東京から和歌山市まで、のべ1500kmの長距離試乗をしたことがある。紀伊半島を一周して海沿いのワインディングをオープンエアーで駆け抜けるのが痛快だっただけでなく、高速道路での安定性の進化に目を見張り、「もはやグランドツアラーの領域」と感激した記憶がある。

 それから1年半。今回、10月16日にビート&S660ゆかりの地、埼玉県の八千代工業を舞台に開催された「BEAT & S660 Meeting in 2022」に取材でお伺いすることとなり、せっかくなので、ホンダアクセスに保管されていたバージョンZをふたたびお借りしたのだった。前回と同じ個体で、今回は数日間でワインディングから高速道路まで約500km走ったので、トータルで2000kmも乗らせてもらった計算だ。

空力の効果を誰でもどこでも実感できる

 ところで私事ながら、数年前から小田原に住んでおり、箱根や伊豆のワインディングコースを走り込むのが、趣味でも仕事でもライフサイクルの中心となっている。と書くと、いかにもドラテク命の走り屋っぽく思われるかもしれないが、あくまでも下手の横好きレベル。サーキットの経験はほぼゼロ、ウデも反射神経もないのでタイヤが滑りはじめるような領域まで攻めない安全運転の範囲で、気持ちよく走れればいいや、な低レベルドライバーだ。ガチのカットビ系に遭遇したらスムースに道を譲るテクニックだけ上手になっている。

 ……なぜこんな話をするか? それは、こんなボンクラでも空力の効果を体感できてしまうのだ!

 モデューロXのフロントバンパーは「なんちゃって」ではない空力性能を追求した形状。パッと見で分かりにくい部分では、バンパー下面の「エアロガイドフィン」がフロア下の空気の流れを促進。ホイールアーチ前方に設けられたブーメラン形のでっぱり「エアロガイドステップ」がコーナリング初期の乱流を抑制する。リヤバンパー下部にもディフューザー形状が与えられている。リヤエンドには、ホンダ車初、なおかつ軽自動車初の「アクティブスポイラー」が装備され、70km/h以上で30mm持ち上がり、さらなるダウンフォースを稼ぐためにガーニーフラップが追加するという本格派だ。

 これら本格空力デバイスを軽自動車であるS660に装備した結果、軽くて小さいだけに、空力効果はてきめん。高速道路を走っていると接地感が頼もしく、リヤのバタつき感もなくなって、長距離クルーズがおそろしくラクになっていることに気づく。やや路面の荒れたワインディングでもピッタリと吸いつき、コーナリングをより安心してクリアできるのである。

 モデューロXに与えられた5段階の減衰力調整サスペンションも、試乗車は一番硬い「5」だったが、ガチガチに硬いわけではなく、適度にしなやかな味つけ。ホイールも単に剛性を高くするのではなく、適度にたわませることにこだわって開発されたそうだ。

 ミッドシップならではの回頭性の良さに加えて、さらに「VSA(ビークルスタビリティアシスト)」や「アジャイルハンドリングアシスト」といった電子制御で安定した走りを実現していたS660。モデューロXバージョンZではさらなる空力性能のアップとしなやかなサスペンションによって、よりオンザレールなハンドリングを実現し、ジェットコースターのような走りを安全な範囲で味わえるようになっている。

* * *

 S660のノーマル仕様はビートからあらゆる面でモダンアップデートされ、限界域を高めながらも、挙動にどこかヤンチャ坊主な部分があって、それがまた良さでもあった。最後の特別仕様、モデューロXバージョンZでは、走りにおいても内外装の質感においても、大人のスポーツカーと呼ぶべき仕上がりとなっていて、もはや軽の枠を超えたミッドシップ・ライトウェイトスポーツと言っていいだろう。

 いずれを選ぶかはお好み次第。ともあれ、最新スポーツカーの快楽を身近に味わうためだけに開発・量産されたS660という贅沢きわまる存在と、それをやってのけたホンダ&ホンダアクセスには感謝するほかない。軽規格のあるこの国に生まれてよかった! 心底そう思うのだった。

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みんなのコメント

10件
  • D○N御用達のクルマね
  • 「閉所恐怖症」の方と180cm以上の身長がある方はルーフを外さないと乗れないと思います。それくらい「圧迫感」があります。車内に物を置く場所が皆無なのは「割り切り過ぎた」設計の為?今までのホンダの設計ではどのクルマも「人が優先」だったのにこのクルマでは「メカが優先」に置き換わっています。試作車は軽でも市販車は1.000ccクラスで出すべきクルマです。5ナンバーで出していたら趣味クルマでは無く、日常生活でも使えるクルマになってかなりの台数が売れたはず。設計そのものは良いのにもったいないなと。この販売台数では開発費の回収は出来なかったはず。軽トラックの「アクティ」を止めたのも「もったいなかった」農家が減っているのが廃止にしたもっともな理由だが、軽トラを買うユーザーは農家だけではありません。一般の方でも買われる方が居られます。理由は「人を乗せないから」だそう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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