3年間ボルボを率いた経営者
スウェーデンの自動車メーカーであるボルボのジム・ローワン最高経営責任者(CEO)が、3月末をもって退任した。
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ダイソン出身のローワン氏は、3年間のボルボ在籍期間中に新型EV『EX30』、『EX90』、『ES90』の発売を指揮し、ソフトウェア定義型車両(SDV)開発を推進する主要な推進役を務めてきた。
後任として、2012年から2022年までボルボを率いていた前CEOのホーカン・サミュエルソン氏が復帰することになった。
ローワン氏はAUTOCARの取材(退社前の最後のインタビュー)に対し、自動車メーカーは「ダーウィン的なイベント」に直面していると語り、ボルボが生き残るための計画を説明した。
アウトサイダー的なスタンス
「精神的な刺激と眠れない夜を求めているなら、この業界に入ってください」と、ボルボ・カーズCEOのジム・ローワン氏は言う。同氏は今からちょうど3年前、IT業界から自動車業界へと移ってきた。
他の自動車メーカーのCEOと比較すると、同氏は今でもアウトサイダー、あるいは異端児のように見える話し方をする。ソフトウェアスタック、コンピューターチップ、処理能力についてこれほどオープンかつ広範に語るのは、従来の自動車メーカーの中では依然として特異なことだからだ。
しかし、ローワン氏は、それこそが自動車業界の現状を物語っていると考えている。ライバル企業がなぜこれほどまでに遅れをとっているのか、そして、自社の存続がかかっているというのに、EVをまるで新しいもののように見せたり、語ったりしていることが不思議なのだという。
「わたしは自動車畑の人間ではありません。IT業界出身です。今でも電動化について、まるでそれが大きな出来事であるかのように語る人々の多さに、本当に驚いています。わたし達はバッテリーについても、モジュール構造についてもすでに知っています。シリコンカーバイド(炭化ケイ素)についても知っています。シリコンカーバイドは突然大きな注目を集めましたが、新しい技術ではありません。パワーエレクトロニクスなどについても知っています」
それよりも、自動車業界にとって今重要なのは「ソフトウェア、シリコン、コネクティビティ、データ」の4つであるとローワン氏は語る。そしてボルボは、これらすべての開発において進んでいるという。しかし、IT企業として生まれ変わろうとしているわけではない。このIT推進の真の狙いは、ボルボ車の安全性をさらに高め、より多くの命を救うという点にある。
「わたしの言うソフトウェアとは、フルスタックのソフトウェアのことです。クルマを適切に制御するためには、シリコンのレイヤー1からクルマのアプリケーションレイヤーまで、すべてを書き込める能力が必要です。それを実現しているのは世界で3社だけ。テスラ、リビアン、そしてボルボです。優れた自動車メーカーは数多くありますが、それを実現しているところはありません。これは非常に大きな課題であり、実現するのは非常に難しい。しかし、わたし達は挑み続けているのです」
この『スーパーセット(Superset)』と呼ばれる技術スタックは、すでにEX90とES90に搭載されており、今後発売されるすべてのボルボ車に採用される予定である。クルマの主要なハードウェアとソフトウェアの制御機能を、個別のECUではなく、セントラルシステムにすべて移行することで、より有意義で一貫性のあるOTAアップデートが可能になる。特に安全技術の観点において、事故やヒヤリハット(事故に至らなかった事象)から得た車両データを将来の事故回避に役立てることができる。
こうしたデータを処理するために、ボルボは独自のクラウドアーキテクチャーを開発しているが、これは「ほとんどの企業がやっていない」ことだとローワン氏は言う。このアプローチにより、ボルボはすべてのデータを管理し、遠隔操作でクルマの安全性を高めることができる。既製のクラウドを購入することとは対照的で、ボルボは現在、スウェーデンで2番目に大きなデータセンターを所有している。
「当社はアルゴリズムをクラウドアーキテクチャー内で実行し、それを車両に送り返すことで、車両をより良く、より強固にし、アルゴリズムを強化しています」
では、なぜボルボはこれほどまでにITを重視しているのだろうか? 顧客はどう反応しているのか、そもそも知る必要があるのだろうか?
ローワン氏は、こうした先進的な独自技術と自社の運命をコントロールできる経営体制が企業価値の向上につながるとしながらも、「株価はまだその評価を示していない」と指摘する。
顧客にとってのメリットとしては、ボルボが「車内のあらゆるノード」をリモートコントロールすることで、さらに多くの機能が追加されるようになる。「人々は、そこから得られるさまざまなユースケースをまだ模索しているところです」とローワン氏は言うが、センサーやカメラからダッシュカムが作成されたり、自分のクルマや駐車場所を遠隔で確認できるアプリが作成されたりしている例を挙げている。
「しかし、最も重要なのは安全性に関することです。当社はあらゆるデータを入手できるので、あらゆる衝突事故のアルゴリズムを調べることができるのです。衝突事故の様子を目で確認することが可能です。例えば、雨の降る日曜の午後に事故が起きたとしたら、そのクルマから録画テープを入手し、何が起きたのかを正確に知ることができるでしょう。そして、『光が少なく、少し滑りやすい状況で、3ナノ秒早くエアバッグが展開されていたら、命が助かったはずだ』というような判断ができます。それは安全ブランドであるボルボとして意味のあることです。これらすべてをお客様に提供できるようにしなければなりません」
他社は「本質を見失っている」
ローワン氏は、スコットランドのテート・アンド・ライル社で機械工学の見習いとしてキャリアをスタートさせたが、すぐにIT業界に転向し、ブラックベリー社とダイソン社で最高執行責任者を務め、2017年から2020年まではダイソン社のCEOを務めた。
その後、10年間にわたってボルボを率い、同社の高級化を進め、アウディやメルセデス・ベンツなどと肩を並べるまでに成長させたホーカン・サミュエルソン氏の後任となった。ローワン氏は、ボルボが築いてきた高い信頼性を磨き続ける一方で、技術力を前面に押し出すことが自身の仕事だと語る。
「それが業界の方向性です。率直に言って、それを理解せず、今その技術に投資しなければ、取り残されることになるでしょう。中国はこのことをよく理解しています」
「だからこそ、今でも内燃機関を推し進めようとしている多くの競合他社には、時々驚かされます。彼らはそれで大金を稼いでいますが、本質を見失っています」
「わたしはスマートフォン業界出身です。ブラックベリーの人間です。ノキアやエリクソンもありました。シーメンスもありました。フィリップスはかつて携帯電話を製造していましたし、アルカテルも。しかし、これらの企業はすべて、もはや存在しません。なぜなら、わたし達は皆、RF回路、つまり接続の質のことばかり考えていたからです」
「実際には、ソフトウェアが重要でした。携帯電話を単なる電話以上のものにするエコシステムの構築が重要だったのに、彼らはそれを見逃しました。そのことに気づいた2社、アップルとグーグルは1兆ドル規模の企業となり、他の企業は存在していません」
ソフトウェアへの投資は、ハードウェアを犠牲にするものではないと、ローワン氏は主張する。
「ソフトウェアで多くのことを可能にし、強化できれば、より良い体験を提供できます。アップルを見てください。わたしはアップル製品のハードウェアが大好きです。スクリーンの明るさも大好きです」
「iPhoneの動作や感触、作り込みも大好きです。ソフトウェアも好きですが、それ以上に、全体の仕上がりが大好きです。もし、自動車の中でそれを再現できれば、最高の組み合わせになるでしょう」
ボルボの強みはどこにあるか
ローワン氏によると、価格がほぼ唯一の判断基準となる大衆車とは異なり、高級車ではブランドの強みがまったく異なる意味を持つという。しかし、「EV時代のクルマのプレミアム性は、まだ定義されていない」ため、高級車メーカーの従来のブランド価値は、内燃機関の時代から必ずしも引き継がれるものではない。
「内燃機関では、乗り心地の良さなどによって『高級感』が生まれます。それがブランドの特性であれば、クルマの前部に大きな重いエンジンを搭載するため、膨大な費用がかかることになります。時速120kmでコーナーを走り抜けるため、スムーズなエンジン、素晴らしいシャシー、サスペンションを作るのに、膨大な費用をかけることになります」
「そこに突然、新しいテクノロジーが現れます。スケートボードのような平らなデザインを採用して低重心を実現する。これでクルマの前部にある大きな重いエンジンを相殺する必要がなくなるため、サスペンションや、ある程度はシャシーの設計もそれほど重要ではなくなる。バッテリー技術ではトルクが自由に手に入るため、エンジンの爆発力やスムーズさは重要ではなくなる。では、ブランドの特性とは何でしょうか?」
「中国では、人々はこう言っています。『同じ加速性能、同じ乗り心地、同じハンドリングが半額で手に入るのに、なぜこのクルマを買わなければならないのか?』」
ローワン氏は、ボルボのブランド特性である安全性とスカンジナビアンデザインはEV時代になっても変わらないが、テクノロジーのリーダーになることで「さまざまな理由で」顧客を引き寄せることができると語る。
「これは業界で起こっている大きな、そして深い変化の1つです。もし、従来のポジショニングを優れたソフトウェアで強化できれば、若い世代がブランドに興味を持ち、クールなクルマを見てくれるでしょう」
「当社は以前、会計士、医師、歯科医、弁護士にクルマを販売していました。しかし今では、若いソフトウェアエンジニアやマーケティング担当者にも多く販売しています。なぜなら、ブランド特性が適度に控えめで、謙虚であり、特に子供がいる場合は何よりも安全性を重視するからです」
誰かが負けることになる
ローワン氏によると、ボルボを特徴づけてきたステーションワゴンは、その役割をSUVへと移すという。ボルボは比較的小規模な企業であるため、ニッチ市場には参入できず、約8車種のラインナップで十分との考えだ。ステーションワゴンの将来について尋ねられると、ローワン氏は、業界が生き残りをかけた「ダーウィン的なイベント」の真っ只中にあり、SDVにうまく移行できるのはどの企業か、という幅広い回答をした。
「この変化にいち早く対応し、自分たちの本来の仕事に専念する企業が力強く生き残るでしょう。この変化についていけないところも出てくるでしょうし、致命的な打撃を受けるところも出るでしょう。10~15のブランドを抱える企業は、非常に厳しい状況に置かれるでしょう。彼らは迅速にブランド数を減らす必要があります」
ローワン氏は、1年半もすれば、老舗の自動車メーカーや新興の中国企業からブランドが消え始め、大きな変化が起こると予想している。
「生き残れるのは一部だけです。全員がビジネスを継続できるほど十分な市場規模はありません。すでに利益を上げていないメーカーが多くあります。彼らは、現金収入を維持するために赤字覚悟でクルマを売っています。いずれは限界が来て、マルチブランドを展開する自動車メーカーの淘汰が始まるでしょう」
「わたしは、自動車会社が自動車会社を買収するようなことは起こらないと思います。全員に十分なビジネスがあるわけではないのです。そのため、そういった会社は消えていきます。生き残る会社は、競争相手が減るため、より強くなるでしょう。そして、この状況を乗り切るためには、かなりスリム化することを余儀なくされるでしょう」
「誰もがコスト削減に取り組んでいます。それは業界にとって悪いことではないと思います。非常に興味深いことです。今、非常に競争が激しい。非常に困難です。しかし、長期的に勝ちたいのであれば、この状況を乗り越えなければなりません。フラットな市場でシェアを獲得する唯一の方法は、競合他社から奪うことです。残念ながら、わたし達はウィンウィンの状況にはありません。誰かが負けることになります」
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