毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
【国内では独壇場!! でも消えない不安】王者クラウンが抱える憂鬱な事情
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ MR-S(1999-2007)をご紹介します。
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文:伊達軍曹/写真:TOYOTA
■MR2の後継? 戸惑いを巻き起こしたスペシャリティカー
一部のスポーツカーファン(推定2~3割?)からは「素晴らしい!」と評価されたものの、多くのファン(推定7~8割?)からは「中途半端だ」「率直に言ってイマイチ」的な低評価を受け、結果的には1代限りで消えていったトヨタのミッドシップ2シーターオープン。それが、1999年10月に発売されたトヨタ MR-Sです。
トヨタのミッドシップスポーツといえばMR2(初代:1984~1989年/2代目:1989~1999年)がおなじみゆえ、よく似た車名のMR-Sはその後継モデルに思えます。
しかしトヨタ自身はそれを否定していて、「MR-Sは専用のプラットフォームを採用した、まったく新しい軽量スポーツである」と主張しました。
最高出力140psを発生する1.8L直4自然吸気エンジンを運転席後方に搭載。ミッドシップ特有のクイックなハンドリングが特徴
専用オープンボディのスリーサイズは全長3885mm×全幅1695mm×全高1235mmとコンパクトで、車両重量は1t切りの970kg(※前期型)。
車体中央付近にマウントされたエンジンは最高出力140psの1.8L直4自然吸気です。
前身である(?)2代目MR2の後期型は最高出力245psにも達する強力な2Lターボエンジンを搭載していましたので、MR-Sを「3代目のMR2である」と期待していた人は、そのキャラクターのあまりの変貌っぷりに驚愕しました。
トヨタ MR2
程よい出力の1.8Lエンジンに組み合わされたトランスミッションは当初5MTのみでしたが、2000年8月には国内初の5速シーケンシャルMT(セミAT)を追加。
2002年8月のマイナーチェンジでMTもセミATも6速に変更されました。
同じミッドシップレイアウトのスポーツカーであっても「パワーたっぷりなエンジンでゴリゴリ押す」というニュアンスのMR2とはまったく違う、「(まるでマツダ ロードスターのように)人馬一体となって軽やかに走る」というのがMR-Sの狙いでした。
しかしその狙いがマーケットには届かなかったのか、MR-Sの販売台数は伸び悩みました。
その結果、2007年1月には基本モデルの生産が終了し、同年9月には販売のほうも完全終了となってしまいました。
■MR-Sが示す「スポーツカーを作ることの難しさ」
トヨタ MR-Sが一部の人からは高く評価され、今現在も中古車としてはそれなりに人気があるものの、新車時は今ひとつ売れず、そのまま廃番となってしまった理由。
それは「人の感性に訴える商品であるスポーツカーを作るのは、なかなか難しい作業だから」という一文に集約できます。
軽量化にこだわり、980kgという車重を実現。これはライトウェイトオープンの世界的代名詞であるロードスターよりも軽かった
車というのは、スポーツカーに限らず「人間の感性」に大なり小なり関係しているプロダクトです。実用的なミニバンであっても、デザインがあまりにもダサかったら売れないでしょう。
しかしミニバンやセダンなどは、それでも「居住性」や「使い勝手」みたいな絶対的指針があるのに対し、レーシングカーではない乗用スポーツカーにはそれがありません。
世間では市販スポーツカーに対して「速い」とか「速くない」などの議論がしばしば行われます。
でもその「速い」「速くない」は、いったい何が基準になるのでしょうか?
答えは「基準なんてない」です。より正確に言うなら、「人が100人いれば100通りの基準がある」ということになるでしょうか。
2ペダルのシングルクラッチAMT仕様を装備。エンジンは140psと特別パワフルではなかったが、980kgのボディには充分だったという見方もできる。
トヨタは、トヨタなりの基準というか解釈でMR-Sという新型スポーツカーをイメージしました。それは、ざっくり言うならこんな感じです。
・ほどほどの出力のエンジンを積む。
・しかし全体を軽量にすることでキビキビ走れるようにする。
・なおかつ他車種のパーツをいろいろ流用することで、車両価格を手頃な水準に抑える。
・軽快に走れるよう(楽しめるよう)、オープン2シーターのミッドシップレイアウトを採用する。
・しかし本当にミッドシップらしいピーキーな挙動にしてしまうと危ないので、安定志向にセッティングする。
ざっとこんな感じでしょうか。これはスポーツカーにとっての絶対的な正解でも不正解でもなく、単なる「ひとつの考え方」です。
当時のトヨタは「このコンセプトであれば売れるはず!」と確信しながらMR-Sを世に問いました。確信していたはずです。
しかしMR-Sのコンセプトは結果として少数の人にしか刺さりませんでした。多くの人は「もっと高回転まで回る専用エンジンじゃないとつまらないよ!」と言い、あるいは「140psじゃぜんぜん足りない! 遅えよ!」と言い捨てたのです。
ちなみに筆者も、外観と内装についてだけはMR-Sに否定的です。
しかしそんな筆者やその他の人々も、「多数決でたまたま勝った」というだけのこと。「自分の感性が絶対的に正しいゆえに勝った(=MR-Sは売れなかった)」というわけではないのです。
ここに、市販スポーツカー作りの難しさがあります。
■トヨタ MR-S主要諸元
・全長×全幅×全高:3885mm×1695mm×1235mm
・ホイールベース:2450mm
・車重:970kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1794cc
・最高出力:140ps/6400rpm
・最大トルク:17.4kgm/4400rpm
・燃費:14.2km/L(10・15モード)
・価格:188万円(1999年式ベースグレード)
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みんなのコメント
外観は好みの問題なので人それぞれですが、後期型はなかなかハンサムだと思います。
ノーマルの動力性能は大したことないですが、逆に言えば素人でも安全に快適に走れる
セッティングとも取れます。
この車でスポーツしたい人は、1ZZ-FE 過給機か2ZZ-GE搭載で足とデフのセッティング
をしっかり出しましょう。めっちゃ楽しいですよ。チューニングベースとしては最高です。