基本的な構造はずっと変わっていない「ワイパー」
進化しないクルマの機能のひとつがワイパー。現状にまったく問題なくて完成度は高く、リスクを考えると、ほかの方法を考える必要もないというのが理由だ。以前、マクラーレンが空気を使ったまったく新しいワイパーを開発中というニュースが話題になったが、その後は沙汰止みだし、まったく新しいシステムを作ったらノーベル賞モノとも言われるほどだ。
横の窓に! ドラミラーに! ヘッドライトに! 斬新すぎる変わり種ワイパーの世界
1本ワイパーの利点は「コスト削減」か「デザイン」
雨粒を拭き取る仕組みは変わらなくても、スタイルにはいくつかの種類がある。なかでも一番印象深いのは、一般的な2本に対する1本ワイパーだろう。1980年代あたりにはいすゞ「ピアッツァ」やホンダ「プレリュード」など、デザインにこだわるモデルによく採用されていたし、ホンダ「トゥデイ」も採用していた。また、創成期では「スバル360」なども1本だった。
このように見ていくと、1本ワイパーを採用していた理由は大きくふたつに分かれることがわかる。まずはコスト削減や構造をシンプルにするため。ワイパーの内部というか裏側を見てみると、1本と2本では大違いで、2本にすると左右を結ぶ長いリンクやそれらを固定するステーが必要となり、構造は意外に複雑だ。1本なら、ほぼモーターと直結でいい。このため、創成期の軽自動車や廉価なクルマに採用されていた。
もうひとつの理由が見た目だ。1960年代から採用例は多くて、レース車両は1本が多かったし、ランボルギーニ「カウンタック」などのスーパーカーもしかり。とくにレース車両では高速での浮き上がりを防ぐため、真ん中に停止位置があって、それだけでも心躍ったものである。レーシーなイメージ以外にも、1本のほうがシンプルでスッキリとした印象を演出しやすかったりするのも採用理由としてあるだろう。
「ヴィッツ」最終型後期が国産最後の1本ワイパー
レーシーで、スタイリッシュというメリットがありつつも、現在、ほぼ絶滅状態なのはどうしてだろうか? ちなみに日本車での最後の採用例は先代、つまり最終型のトヨタ「ヴィッツ」のマイナーチェンジ後で、それまでは2本ワイパーだったのをわざわざ1本にしていた。
消滅した理由としてはやはり拭き上げ面積が小さいからというのが一番大きく、説明不要なぐらいにイメージしやすいはず。左右上部が大きく拭き残るのは信号確認も含めて、とても危険だ。また、拭ける部分についても、自動車のフロントガラスは通常湾曲しているため、1本ですべてを対応するのは難しく、拭き漏れやムラが発生しやすい。
見た目の問題についてもコンシールド化が進み、最近はボンネットの端の部分にうまく隠れるようにもなっており、昔のようにガラスの下にワイパーが2本、付いている感じは薄れている。
拭き上げ面積については、以前メルセデスベンツがW124の「Eクラス」に「パノラマワイパー」という名称で、可変の1本ワイパーを採用していた。これは軸部分にギヤを仕込むことでアームの長さが伸び縮みし、2本ワイパー以上に角まで拭けるというもの。軌跡の形から「M字ワイパー」とも呼ばれていて、とてもユニークなワイパーではあった。ただ、そこまでして1本にこだわる必要はなかったことから、その後、採用が拡大することもなく、消えてしまった。
* * *
以上のような理由で、1本ワイパーより2本ワイパーが当たり前になっているのだが、とくにレーシーなイメージについては捨てがたい気もするのも事実。国産車でも一部車種にはコンバージョンキットが用意されてはいるので、まったく装着の余地がなくなったわけではない。
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