4WDと一言でいっても、その目的は様々だ。従来は悪路や滑りやすい雪道などでの走破性、安定性を得るために開発されたものだ。しかしその後、スポーツ走行でよりハイレベルなパフォーマンスを得るための4WDが登場した。
最近はBMW M3が4WDを採用したことが話題だが、高出力エンジンのパワーを余すことなく加速に利用するためには、四輪を駆動したほうが有利だからだ。
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かつては実用4WDに多いFFベースのものよりも、GT-RのようなFRをベースとした4WDの方がスポーツ走行に有利といわれていたが、4WDの制御技術の進化とともにそうとは言えなくなった。最新の4WD技術を解説しよう!!
文/斎藤聡、写真/Toyota、Nissan、Mazda、Subaru、ベストカー編集部
[gallink]
■まずは4WDを大まかに分類
1972年、世界初の乗用車タイプの4WDとして登場したスバル レオーネ4WDエステートバン。パートタイム式を採用していた
FFをベースにした4WDとFRをベースにした4WDに操縦性の違いはあるのでしょうか。よく耳にするのはFFベースだから曲がらない(曲がりにくい)とか、FRベースだからよく曲がるといったコメントです。
これは半分当たっていて、半分間違いです。操縦性を考えるには、まず駆動系のレイアウトを考える必要があります。現在ある4WDシステムは、進化と分化を繰り返した結果、とても複雑でわかりにくくなっています。
それを強引に誤解を恐れずに3つに分類すると、2WDと4WDの切りかえを行うパートタイム式、エンジンからの出力をセンターデフで前後に駆動力を配分するセンターデフ式、前後輪どちらかの駆動力を主体にしながら、もう一方の駆動輪に多板クラッチなどを使って必要に応じて駆動力を伝えるオンデマンド式があります。
話がややこしくなっているのは、オンデマンド式の進化が著しく多種多様なタイプが生まれていることです。
それ以前に、そもそも4WDの歴史はそれほど古くありません。乗用車用タイプの4WDの登場は1972年に発売されたスバルのレオーネ4WDエステートバンに始まります。世界的にはアウディクワトロが有名ですがクワトロの登場は1980年ですから、10年近く早くスバルは4WDに取り組んでいたことになります。
ちなみにレオーネの4WDシステムはパートタイム式でした。もともと東北電力の要請で試作されたスバルff-11300Gバン4WDが始まりだったので、オンロード性能よりも豪雪地域での走破性が重視されパートタイム式が採用されたのでしょう。
■FRの安定性を補うための4WD
1985年、国産初のフルタイム4WDとして登場したマツダ ファミリア4WD
一方、アウディは初めから4WDの走破性を備えた快適な乗用車を作ることが目的であったのでセンターデフ式が採用されています。ちなみに国産初のフルタイム4WDは1985年に登場したマツダのファミリア4WDだったりします。
話が逸れましたが、FRの縦置きエンジンはエンジンの後ろにトランスミッションが伸び、その後ろからプロペラシャフトが伸びでリヤに駆動を伝えています。4WDを作る場合は、トランスミッション後端部にトランスファーを設けこれを介して前輪へ駆動力を振り分けてやればいいわけです。
じつはこのレイアウトは、縦置きエンジンのパートタイム式と同じものです。駆動トルクの断続ギヤをクラッチに置き換えてやればフルタイム式4WDになるわけです。実際このタイプ(ある意味オンデマンド式とも言えます)のFRベース4WDは多くあります。
タイヤは駆動力が増すとそれに応じて旋回グリップ力が小さくなる特性を持っています。FRベースの4WDの多くは多板クラッチ式を採用しており、基本は後輪駆動になっています。
もちろん常に前輪に駆動トルクが配分されているクルマもありますが、ハンドルを切る場面では前輪に駆動力があまりかかっていないほうが曲がりやすいのです。基本は後輪が駆動して、タイヤがスリップするような場面になると前輪に駆動トルクを配分して安定性を高めます。
前輪が少し引っ張ってくれるだけでクルマはスピンしにくくなりとても安定性を増すのです。この特性を積極的に使ったのがGT-RのアテーサE-TSです。
FFがベースのオンデマンド式4WDは、フロントデフまでミッション内に一体で作られていて、そこからパワーアウトレットのトランスファギヤを介して後輪に駆動トルクが配分されます。
たいていのFF車ベースの4WDはリヤデフ直前に電磁クラッチや電子制御カップリング(クラッチシステム)を設けることで後輪への駆動トルク(配分)をコントロールしています。
駆動トルクが前輪を主体に、必要に応じて後輪へ配分されるので、どうしてもフロントタイヤの負担が大きくなります。
GT-RのアテーサE-TSはFRを基本とし、必要に応じて前輪に駆動力を配分する
ただ、前輪への負担が大きいFFだから曲がりにくいわけではありません。
タイヤがめったに滑らない乾燥舗装路で、電磁クラッチや多板クラッチを繋げて後輪に駆動配分を振り分けているとき、クラッチは半クラ状態になり、パートタイム式のようにロックはしていませんが、前後輪に差動制限がかかったのと似た状態になります。
前後輪の回転差が制限されるので安定性が高くなる(≒曲がりにくくなる)のです。そのため最近のFF車ベースの電子制御カップリングを使った4WD制御は、コーナーではリヤへの駆動配分を少なめにして曲がりやすくしているクルマが多いようです。
センターデフ式の場合は、センターデフの前後駆動トルク配分と、前後の車軸重量バランスによって基本的な操縦性は決まります。
最近のセンターデフ式フルタイム4WDが前後のトルク配分を、40対60とか31対69といった具合に後輪寄りにしているのは、アンダーステアを少なめにするのが目的と言っていいと思います。前輪への駆動配分が少ないということは、前輪はその分だけ曲がる力を多く引き出すことができるからです。
■前後の駆動配分で操縦性が大きく変わる
トヨタ GRヤリス。FFベースでありながらFRのように後輪を意図的にスライドさせることができる
まとめると、オンデマンドタイプの4WDは、駆動トルクが前輪、後輪のどちらがメインになっているかでFR的な操縦性なのか、FF的な操縦性なのかが決まってきます。
センターデフ式は前後駆動力配分と前後の軸重のバランスによって操縦性のアンダーステアの度合いが決まります。またリヤデフに差動制限装置(LSD)などを用いない限りはFRのようなテールアウトの姿勢にはなりません。
……というのが4WDの操縦性の基本なのですが、最近興味深いクルマが登場しました。それはGRヤリスです。
このクルマの4WDシステムは横置きエンジン(FF)をベースに、リヤデフ直前に電子制御カップリングが配置しているのでFFベースのオンデマンド4WDタイプといっていいと思いますが、前後駆動トルク配分はノーマルモードが60対40、スポーツモードは30対70、トラックモードは50対50となっています。
じつはこれ、前後の最終減速比を意図的に変えて、クラッチを強く締結すればするほど後輪がたくさん回るようになっています。これによってFRのようにリヤタイヤが滑るドリフト姿勢ができるのです。
そういえばスバルが4WDを開発するとき、前後の最終減速比が違ったらクルマがうさぎ跳びのような動きを見せてまともに走ることができず、慌ててギヤ比を合わせたという話を聞きました。
まあ、これは前後輪の回転差がないパートタイム4WDだからなのですが、今や4WDカップリングの制御が進み、前後のギヤ比の違いを軽々と許容するまでになっていたのでした。今後は機械式4WDだけでなくモ-ター4WDが増え、さらにバラエティに富んだ操縦性のクルマが現れるのでしょう。
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この文章の趣旨なら、アクティブトルクスプリット式と言うべきじゃないか?