見事に正確なステアリングと優れた乗り心地
text:Mike Duff(マイク・ダフ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
最新のフェラーリ、SF90ストラダーレの基本骨格は、基本的にアルミニウム製。リアのバルクヘッドにはカーボンファイバーが用いられているほか、徹底的な軽量化によって、72kgのバッテリーやモーターなどの悪影響を最小限に留めている。
車重は1570kgに仕上がり、F8トリブートと比べると120kg増えている。でも、その違いはほとんど知覚できない。
搭載される8速デュアルクラッチATは、従来以上に素早く滑らかに変速を繰り返す。すでに電光石火といえた7速ユニット以上に。
ステアリングフィールは現代のフェラーリらしく、見事なまでに正確。ステアリングホイールへ、フロントタイヤでトルクベクタリング機能が働いていると伝わるのは、タイトなヘアピンにオーバースピード気味で突っ込んだ時くらい。
乗り心地は、荒れた路面でも従来のフェラーリより上質。ボディの動きを、素晴らしく制御できている。筆者が一瞬ひるむような隆起部分も、難なく通過した。
もう1つ注目すべき部分がブレーキ。バイワイヤーで制御される。フェラーリの技術者によれば、巨大なブレンボ製カーボンファイバー・ディスクに、モーターによる高水準な回生ブレーキ機能を融合させるには、不可欠なシステムだという。
試乗した限り、SF90のブレーキペダルのストロークはとても短く感じられた。それでも踏み込むと、必要な制動力は効果的に得られる印象。システムは可能な限り、最良の働きをしてくれるようだ。
控えめながら機能美なスタイリング
都市部での走行なら、ブレーキペダルを踏み込む力はとても少なくて良い。若干の違和感もある。だが、郊外へ出てペースを速めるほどに、自然さが増していく。数時間ほど走った頃には、筆者はすっかり慣れていた。
SF90のハイブリッド・モードは、知的ではある。だが、V8エンジンが突如始動する振る舞いには、なかなか馴染みにくいことは確か。
普通のクルマのプラグイン・ハイブリッドなら、エンジンが始動しても気づかないことすらある。でも、ほぼ無音状態からフェラーリ製V8ターボエンジンが目覚めるのだから、驚かされることもありそうだ。
SF90のスタイリングは、空力的に煮詰められ削り出されたもの。フェラーリ製のトップモデルとつながるような、ドラマチックさは少し控えめに見える。しかし、機能美であることには間違いない。
インテリアは、フェラーリのモデルレンジで見れば、かなり豪華に感じられる。今回の試乗車には、カーボンファイバー製トリムが装備されていた。
多くの機能は、タッチセンサーを介して操作する。16インチの大きな計器用モニターは、さまざまな表示モードを選ぶことができる。
少し気になる部分もあった。エアコンのファンがうるさく、外気温が30度以下であっても、車内を快適に保つには一生懸命回る必要があるようだ。
造形が複雑なダッシュボード上面は、フロントガラスへの映り込みが強い。オートやマニュアル・モード、リバースなどを選択する、磨き込まれたコントロール・セレクターは、イタリアの太陽光では眩しく感じられた。すべての人が気にする部分ではないとは思うが。
フィオラノのタイムはラ・フェラーリと同等
SF90ストラダーレには、フロントのボンネットを開けると、適度な量の荷室空間が用意されている。ガラス越しに、RAC-eコントローラーの姿も眺められる。
ストラダーレの名前がついているだけあって、SF90は公道が前提。とはいえ、今回はフェラーリのテストコースでの走行も許された。先行するのは、フェラーリのテストドライバー、ファブリツィオ・トスキが運転する、プロトタイプだ。
フィオラノは何度か走ったことがあるが、SF90で走った時ほどコンパクトに思ったことはない。恐ろしいほどの加速力が、ストレートを短く感じさせる。いままで経験したことがないほどに。
コーナーへ侵入し、食いつくように旋回する能力も、同じくらい印象的。レース・モードではスリップ量が最小限に制限されるが、SF90はトラクションコントロールをオフにしても、とても扱いやすく感じた。
前輪のトルクベクタリングが機能し、信じられないほど簡単に旋回していく。研ぎ澄まされたスーパーカーとしては重い車重を実感するのは、ハードブレーキング時のみ。マクラーレン・セナのように、顔面が剥がれ落ちそうなほど強烈な制動力は、生み出すことができない。
フェラーリによれば、アセット・フィオラーノ・パッケージを装備したSF90ストラダーレなら、フィオラノをラ・フェラーリより1秒も早く周回できるという。300kg以上も重たいのに。例えパッケージを装備しなくても、同等のラップタイムが出せる。
マラネロは変化をしても、期待を裏切らない
最新のフェラーリSF90ストラダーレ。想定以上に、圧倒的に素晴らしい。
フェラーリは、初のプラグイン・ハイブリッド搭載モデルとして、もっとシンプルなシステムも採用できたはず。あるいは、よりF8トリブートと関係性の近いクルマにすることもできただろう。
しかしフェラーリは、まったく新しいクルマを開発した。SF90ストラダーレは、電動化が進む将来の自動車に対する、フェラーリとしてのマニフェストなのだ。
SF90ストラダーレが、110万ポンド(1億4500万円)した限定モデルの、ラ・フェラーリに匹敵する性能を獲得しているという事実。たった7年前、その金額を正当化できると評価した性能が、いまここにある。
マラネロの変化は大きい。しかしマラネロは、期待を裏切ることもない。
フェラーリSF90 ストラダーレ(欧州仕様)のスペック
価格:37万6048ポンド(4963万円)
全長:4710mm
全幅:1972mm
全高:1186mm
最高速度:339km/h
0-100km/h加速:2.5秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:1570kg
パワートレイン:V型8気筒3990ccターボチャージャー+電気モーター3基
使用燃料:ガソリン
最高出力:781ps/7500rpm(エンジン)/220ps(電気モーター)
最大トルク:81.4kg-m/6000rpm(エンジン)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック
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