クラシック・ポルシェ界のビッグスター、ナナサンカレラRS
新旧の自動車/オートバイにくわえて、オートモビリア(自動車趣味グッズ)に時計、そしてナイキのスニーカーに至るまで、あらゆるジャンルのモノを収集してきたさるコレクターの愛蔵アイテムが、RMサザビーズ北米本社とのコラボにより、カナダ・トロントにてオークションにかけられることになりました。そのタイトルは「The Dare to Dream Collection」。約300点にも及んだ出品アイテムのなかから、わが国では「ナナサンカレラRS」の愛称で知られる「ポルシェ911 カレラRS 2.7」を、今回はお伝えします。
1億円オーバーの不思議。ポルシェ「ナナサンカレラ」の高額落札の理由は「プロトタイプ」だからでした
役物ポルシェの定型を築いた名作、ナナサンカレラRSとは?
歴代ポルシェの中でもっともインパクトが強く、間違いなくもっとも重要なスポーツカーのひとつである「911 カレラRS 2.7」は、ロードカーとレーシングカーの境界線を曖昧なものとし、今日まで続く尊敬されるレガシーを確立した。
「カレラRS 2.7」は、1970年代初頭にFIAが新たに立ち上げた「プロダクションカー・レーシング」シリーズのために、レース仕立ての911を製作したことから生まれたホモロゲーションスペシャルである。
「911 S」をベースに排気量2.7Lに拡大した水平対向6気筒エンジンを搭載し、低フリクションのニカシルライニングが施されたシリンダーと、ボッシュの機械式フューエルインジェクションを採用した。この画期的なエンジンは、歴代の「911 カレラRS」でエンスージアストを熱狂させることになる、高回転型の自然吸気ボクサー6の偉大な先駆けとなった。
「エンジンは低回転域で素晴らしく、金属的なハーモニーを奏でる。そして、その明らかな回転欲は、すぐに私を強くプッシュするよう説得してくる」と、米『Car and Driver』誌に911 カレラRS 2.7のロードテストを寄稿したヨーロッパ上級特派員のマイク・ダフは書いている。
「センターの回転系の針が7200rpmのレッドラインに近づくにつれ、加速は現代的な基準から見ても明らかに鋭くなる」
RSのネーミングを採用した初めての911
ホモロゲートに際して公表されたスペック上の最高出力は210ps。よりハードなサスペンション、より大径のブレーキ、より大きなホイールがシャシーダイナミクスを向上させ、エクステリアにはより薄板のシートメタルとフレアスタイルのオーバーフェンダー、軽量な樹脂製バンパー、そして911のリアスロープに取り付けられた初の純正スポイラーである、特徴的な「ダックテール」が採用された。
RS 2.7はまた、1950年代の「カレラ・パナメリカーナ」ラリーにおけるポルシェの成功を称えた「カレラ」と、ドイツ語で「レーシングスポーツ」を意味する「RS(レンシュポルト)」を組み合わせたネーミングを採用する、最初の911でもあった。
ポルシェは、カレラRS 2.7のホモロゲーションバージョンを2種類開発した。「スポーツ」または「ライトウェイト」モデル、オプションコード「M471」は事実上の競技用で、内装はほとんど取り除かれていた。いっぽうオプションコード「M472」の「ツーリング」バージョンは、ライトウェイトの特徴の一部を備えていたが、より快適な一般道での使用を目的としたものであった。
総生産台数1580台のカレラRS 2.7のうち、1308台が人気の高いM472ツーリング仕様として生産されたとされ、その中には今回紹介する素晴らしい個体も含まれていた。
比較的安価な「ツーリング」仕様でも、1億円オーバー!
2024年5月31日~6月1日にRMサザビーズがカナダ・トロントで開催した「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたカレラRS 2.7は、新車時にはイタリアで販売され、現在と同じく「ライト・アイボリー」のボディに、ブラックのレザレット(ビニールレザー)インテリアという、繊細かつ魅力的なコンビネーションで仕上げられた。ただし、このモデルのアイコンでもあるボディ下部のグラフィック「Carrera」スクリプトは、後年になって追加されたものである。
その後はコネチカット州ウェストポート在住のある人物によって、1986年に米国に輸入されたという。現在でも保管されている書類のコピーによると、このときはテキサス州でいったん登録されたようだが、翌年にはカレラRSのエキスパートとして知られ、「ポルシェ・クラブ・オブ・アメリカ」の歴史家でもあるプレスコット・ケリーがこのRS 2.7を入手することになった。
ケリーの所有期間ののち、このカレラRSは何人かのコレクターを経て、2000年には著名なポルシェ愛好家であり、「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」にも頻繁に参加しているロジャー・ホフマンが入手したのだが、彼がこのクルマを手に入れる前のある時点で、フックス製アロイホイールは「ヴァイパー・グリーン」にペイントされ、ボディサイドにもそれに合わせたグラフィックが施されていたとのことである。
2年にわたるフルレストアでオリジナルの姿に
そこでホフマンは、このクルマをオリジナルの姿に戻すべく、2年間にわたる内外装およびメカニズムのレストアを委託し、その際に発行された多くの請求書と写真が車両に添付されたファイルに残されている。ホフマンはこのRS 2.7を何年か保有し、そののち良心的なエンスージアストに譲ることになる。
そして2014年2月に「The Dare to Dream Collection」に譲渡されたのち、このカレラRSは入念な整備を受け、最高のドライビングコンディションに仕立てられた。
現在では、新車として出荷された時と同じライト・アイボリーに、コードインサートをあしらったブラックレザレットの上に、当時モノのデッドストックを使用したブラックの「Carrera」グラフィックをあしらった、非常に美しいコンディションを保っている。
また、エアコンや電動サンルーフ、パワーウインドウ、LSD、スポーツシート、ヘッドレスト、ELRシートベルト、オートアンテナつきAM/FMラジオなど、ほぼすべてのメーカーオプションが装備された数少ない例のひとつ。ポルシェ本社公認の資料と膨大なヒストリーファイルに加え、ロール状のケースに巻かれた純正ツールキットも付属していた。
「美しくレストアされているとともに、素晴らしいメンテナンスが施され、911カレラRSとして後世に語り継がれるこのクルマは、真のポルシェファンやコレクターがこぞって買い求めるに違いない」。そんな謳い文句を添えて、RMサザビーズ北米本社は70万ドル(約1億970万円)~80万ドル(約1億2540万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところで、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがってこのナナサンカレラRSも、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになった。
しかし、そんな「リザーヴなし」で起こりうるデメリットも、国際マーケットにおける超人気モデルであるポルシェ 911 カレラRS 2.7には無関係だったのだろう。
競売が終わってみると74万7500ドル、日本円に換算すると約1億1720万円という価格で落札されることになったのだ。
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