自動車の電動化とともに姿を消すといわれているトランスミッション。しかし「EVには本当にトランスミッションが不要なのか?」と異を唱えるのが、今回ご紹介するCVTのトップメーカー、ジヤトコ株式会社だ。EV時代のトランスミッションを研究開発中だという。いったいどんな乗り味になる!?
※本稿は2023年12月のものです
文/鈴木直也、写真/ベストカー編集部、撮影/平野 学
初出:『ベストカー』2024年1月26日号
EVだってトランスミッション搭載で効率アップ!! 5MTの軽バンEVが楽しい! ジヤトコが世界のEVを面白くする
■EV時代の到来でトランスミッションは消えるのか?
カコ、カコンッ、と最適なギアを選択して走るのは運転の醍醐味のひとつ。EVの台頭とともにトランスミッションも消えていく?
最近ちょっと下火とはいえ少し前まではBEV万能論が幅を利かせていた。
クルマの電動化が進むとエンジンが不要になるのはまぎれもない事実。さらに言えば、エンジンが不要となればさまざまな補機類も要らなくなる。
たとえば、CVTやトルコンATに代表されるトランスミッションも、長期的に見れば消滅が予想されている大物パーツ。
CVTのトップメーカーたるジヤトコもeAxleの開発などに全力で取り組んでいるわけだが、それと同時に「電動化時代にもトランスミッションは残る!」という信念で面白い研究開発を行っている。
いわく「電気モーターだって変速機と組み合わせると効率アップや資源節約などメリットがある」という。いったいどういうことか?
■モーターにこそトランスミッションを組み合わせる!
CVTのトップメーカー、ジヤトコはEV化された日産 タイタンを使い「電動化時代のトランスミッション」を研究開発中だ
クルマ好きならご存知のとおり、エンジン(内燃機関)のトルクカーブは山形を描く。最大トルクは真ん中辺りにあり、低回転域と高回転域ではともにトルクが落ちる。
これに対して、電気モーターの最大トルク点はゼロ回転(つまり起動時)にあり、回転の上昇とともにトルクは直線的に下降する。
この特性のおかげで発進時に低いギア比を設定する必要がなく、トランスミッションは不要ということになっているわけだ。
ただし、「回転の上昇とともにトルクは直線的に下降する」から、高回転域でもうひと伸びさせたい場合は、2段変速でいいからミッションがあったほうが有利。実際ポルシェ・タイカンには2速変速機が備わる。
また、電費効率という点でも、ほとんどの電気モーターは最高効率点が真ん中より少し高回転域にあるから、そこをキープするならミッションがあったほうが都合がいい。将来的にBEVで電費競争が始まったら変速機が見直される可能性もある。
で、ここまでは変速機のカバレッジを高速側に拡張する話だが、ジヤトコの予想では、ビジネス的にはその反対側、つまり変速機のカバレッジを低速側に拡張(減速ギア)するコンセプトに可能性があるという。
たとえば、クロカンSUVや大型トラックなど、大トルクが必要なクルマをBEV化することを考えてみよう。
ミッションレスだと、大トルクが必要ならモーターのサイズ拡大で対応するしかないが、変速機があれば減速ギアでトルクを稼ぐことができる。
モーターはサイズに比例してレアアース、電磁鋼板、銅巻線などの資源が必要で、そのコストは今後上昇が予想される。
また政治的な問題から供給が制約される可能性もある。だったら、変速機に追加コストを払ってもソロバンが合う可能性があるし、リスク低減や資源節約というメリットも見込めるという計算だ。
ジヤトコはこのコンセプトを具体化する3速リダクションギア付きeAxleをすでに試作していて、それをタイタン(日産の北米向けトラック)に搭載した実験車を製作。このクルマの試乗が今回の取材のメインテーマである。
■小型モーターで大型ピックアップトラックが走る!
現状ではあくまでも「こんなこともできる」という可能性を探る適合実験レベルだというが、モーター+多段ミッションでEVの走りが楽しくなることがわかった。左はジヤトコの諏訪林明イノベーション技術開発部主管
実験車だけにスペックはほぼ非公表だが、250kW(340ps)のモーター、遊星ギア2セットを使った3段変速機、そして最終減速ギアを一体化したeAxleがその心臓部。
そのほかについては、パワーコントローラは外部設置、電池は62kWhとのことだが、これらは今後どうにでも変わる可能性がある。
その走りについては、とりあえずまだ設計概念の実証試験中という段階だけに、「おー、ふだんは2速発進で、3速へのシフトも意外にスムーズ!」という確認レベル。
チョイ乗りしただけなので、これ以上は「見た目リーフ用くらいのモーターサイズで250kWなのはパワコンで大電流ぶっ込んでるのかな?」とか、「車重は軽く見積もってリーフの倍程度はあるだろうにミッションのおかげか発進は予想以上に軽快!」とコメントするのが精一杯。
可能性は大いに感じるもののユーザー目線で評価するのは時期尚早で、もっと開発が進んでからぜひ再度取材してみたい。
今回はタイタン用だが、eAxleを小型化することでスポーツモデルのリアアクスルに装着したら楽しいEVができるかもしれない。そんな可能性を感じさせる。
■EVコンバージョンでミッションとの組み合わせが生きる
217psのモーターに5速ATを組み合わせたキャラバン。テンポよくシフトアップする加速感は心地よく、運転が楽しくなる
一方、ジヤトコもメディア側のこのリアクションを予想していたようで、コンバートEVの試乗車を3台用意してくれていた。
キャラバンベースで既存7AT+100kW(136ps)モーター、パラメディックベースの5AT+160kW(217ps)モーターの組み合わせの2台。そして、NV100クリッパーには40kW(54ps)モーターに5速MTを組み合わせた。
で、これら3台がそれぞれ「乗って楽しい」という意味では侮れない魅力がある。BEVに変速機というと即「非合理的なギミック」と批判する人がいるが、合理的ではない代わりに普通のBEVとひと味違う面白さがあることも確か。
ステップシフトでテンポよく加速するドライブフィールに、思わず“うおおおおおぉ~!”と声が出て、自然と笑顔になっていた。内燃機関車とも違うのだが、BEVのシームレスな加速とも違う新感覚。
コスト的には商品化は難しいと思うけど、スポーツモデルなどに搭載したら、これもまたアリだよねというのが正直な感想でございました。
■これにも注目! 5MTの軽バンEVが楽しい!
軽バンのクリッパーをEV化!! モーターにMTの組み合わせってどんな感じになる?
軽バンのクリッパーをEVコンバートしたモデルには3ペダルの5MTが組み合わされている。エンジンの代わりに40kW(54ps)モーターを搭載しているのだが、モーターにMTの組み合わせってどうなのか?
発進時はクラッチペダルを踏み込んで1速にギアを入れるのだが、この際、制御によって低回転でモーターが回り、疑似的にアイドリングのような状態となる。ごく普通にクラッチをミートするとモーターならではのトルクでグイッと加速。
起動トルクが大きいので3速のギア比でも余裕で発進できるし、1速飛ばしのシフトアップでもスムーズに走れる。
5速で走っていて曲がり角で速度が落ちた時も、そのままのギアでもエンジンのようにノッキングするわけでもなく、アクセルを踏めばスルルルと再加速。シフトダウンすれば強い加速が得られるが、横着運転もできてしまう。
なるほどそういうことか、と膝を打つ。モーターだったらワイドギアレシオで3速もあれば充分フレキシブルな走りができるのだな、ということが理解できたってわけですよ。
ジヤトコはこういった適合実験車をさまざまなパターンで作って、今後のEVの在り方を研究しているんだね。モーターに多段トランスミッションは不要という固定概念を払拭する体験でした。
■ユニバンスのDMMも面白かった!
浜松に本社を置く駆動系部品メーカーのユニバンスが独自に開発をするDMMなるeAxleがある。2つのモーターにそれぞれ低速ギア、高速ギアを組み合わせ、このモーターを切り替えて動力を引き出すことで多段ギアとする機構。
2019年に試乗をする機会があったのだが、これがものすごく楽しかったのだ。
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