2021年、待望のデビューを果たした、新型BRZ/GR86。この新型BRZ/GR86に搭載された新型FA24型エンジンといえば、水平対向4気筒エンジンの排気量を2.0Lから2.4Lに拡大して出力を大きく向上させ、話題となりました。この新型FA24型エンジンの出来はいかほどか、その進化度を考察しました。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:スバル、トヨタ イラスト:著者作成
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既存ユーザーの要望に見事に応えた
新型BRZ/GR86搭載の新開発FA24型エンジンは、初代と同じNA(自然吸気)の4気筒水平対向エンジンながら、排気量を2.4Lに拡大したことが最大の特徴。市場からの「モア・レスポンス、モア・パワー」という既存ユーザーの要望に見事に応えてきました。初代FA20型と新型FA24型の主要なスペックの変化は、次の通りです。
・排気量(ボア/ストローク):1998cc(86.0/86.0mm) → 2387cc(94.0/86.8mm)
・圧縮比:12.5で同一
・燃料噴射:D-4S(直噴+ポート噴射)システムで同一
・最高出力:147kW(200PS)/7000rpm → 173kW(235PS)/7000rpm
・最大トルク:205Nm/6400-6600rpm → 250Nm/3700rpm
・WLTCモード燃費:12.6km/L → 12.0km/L
新型エンジンは、初代に対して最高出力18%、最大トルクは22%向上しました。これを実現した主な技術は、「排気量アップ」「ロングストローク化」、そして「D-4S噴射システム」の3つです。
新型FA24型エンジンは、最高出力、最大トルクとも大幅に向上。初代エンジンで発生していた4000rpm付近のトルクの落ち込みを解消し、フラットなトルク特性を実現(イラスト:著者作成)
ターボでなく排気量アップで出力向上
出力を上げるには、排気量アップ、もしくはターボ化、という2つの手法が一般的。ターボ化すれば、排気量を下げてダウンサイジングターボにすれば、出力を上げながら燃費もよくすることが可能で、今回の新型BRZ/GR86でも、1.6Lあるいは1.8Lエンジンをターボ化するという選択肢もあったはず。しかし、次の2つの理由で、新型BRZ/GR86は、排気量アップを選択したと思われます。
ひとつ目は、ターボ化によって水平対向エンジンの最大のメリットである低重心であることが損なわれること。低重心は、スバルのクルマつくりの基本であり、特にライトウェイトスポーツのBRZ/GR86にとっては、譲れないポイントです。
もうひとつは、スポーツモデルとターボの組み合わせの問題です。小排気量エンジンで高出力を得ようと大型ターボを装着すると、低速域や加速直後に過給が効きにくいため、レスポンスが悪化します。ピュアスポーツカーでは、排気量を下げずにターボ化するという選択が現在主流ですが、BRZ/GR86はライトウェイトスポーツなので、レスポンスに優れたフラットなトルク特性のNAエンジンを選択したと考えられます。
新開発のFA24型エンジン。水平対向2.4L DOHC NAエンジン、噴射システムはD-4S(直噴+ポート噴射)を採用
ショートストローク化で、高回転高出力を
排気量アップのためには、ボア径を大きくするショートストローク化と、ストロークを長くするロングストローク化の2つの方法があります。BRZ/GR86は、初代のFA20型では、ボア/ストロークが86.0/86.0mmのスクウェアエンジンでしたが、新型FA24型は94.0/86.8mmのショートストロークエンジンとなりました。
ショートストロークエンジンは、ボアを大きくするため吸排気弁径を大きくでき、また、ピストン速度が小さくなるので、高回転高出力が可能。しかし、ボアが大きいと燃焼室が扁平になり、SV比(表面積/容積)が大きくなるため、熱損失が大きくなり、燃費が悪化しやすくなる、という特徴があります。
近年は燃費を重視し、ロングストロークエンジンが主流となっていますが、スポーツモデルとしては当然ショートストロークエンジンの方が適しています。また水平対向エンジンでは、ショートストロークにすることでエンジン全幅が抑えられるので、搭載が容易というメリットもあり、燃費の悪化は覚悟のうえで、ショートストローク化を選択したのでしょう。
ショートストローク化によって、高回転高出力が可能。水平対向エンジンの場合、エンジン全幅が抑えられるので、搭載も容易。だが一方で、燃費悪化というデメリットも
D-4S噴射システムにより、高回転域で高出力が可能に
高速出力を発揮させる、もうひとつの技術がD-4S噴射システムです。これは、トヨタが開発した噴射システムで、直噴(筒内直接噴射)と吸気ポート噴射を運転条件に応じて併用するシステムです。
ガソリンを直接シリンダー内に噴射する直噴は、吸入空気温度を下げて空気量を増やす、ノッキングを抑制する効果があり、主として高出力エンジンで採用されています。一方、ガソリンと空気の混合が不十分になりやすく、スス(黒煙)が発生する、またシリンダー壁面にガソリンが付着しやすいためにオイルにガソリンが混ざるという、問題が発生しやすくなります。
D-4Sシステムは、この問題を解決。直噴をベースとながらも、噴射量が多い運転領域では、混合のいい吸気ポート噴射と併用することで、ススの発生とガソリンの壁面付着を抑制するのです。
正常進化で、NAエンジンの完成形となった新型、しかし…
最後に、新型FA24型の評価できる点、惜しい点を簡単にまとめてみました。
評価できる点
・低速~高速まで約20%向上したトルク特性は、誰でも体感可能なレベル
・トルクの落ち込みのないフラットなトルク特性は、扱いやすくリニア感のある加速を実現
・レブリミット回転7500rpmは、NAスポーツらしく高回転までスムーズに回る
・エンジン全幅をキープして、さらにエンジン重量を同等以下に抑えた優れた設計
惜しい点
・WLTCモード燃費が初代の12.6L/kmから12.0km/Lに悪化
スポーツモデルで燃費を議論することに疑問を持つ人もいると思いますが、CAFE(企業別平均燃費)規制が始まった以上、燃費の悪いクルマは、メーカーにとっては大きな重荷であり、たとえスポーツモデルであっても、燃費性能を無視することはできません。
新型FA24型エンジンは、スバル伝統の水平対向エンジンの優れた特性を継承しつつ、高出力化に成功しています。特別な先進技術を採用せずに着実に進化した、いわゆる正常進化のエンジンですが、残念ながら、燃費の悪化がマイナス要因。
スバルの技術者は、「究極の自然吸気対向エンジン、完成形」としていますが、これは裏を返せば、次のBRZ/GR86は、ハイブリッド、もしくはバッテリーEV、最悪は消滅となる、といえるかもしれません。
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みんなのコメント
自分は開発陣の並々ならぬ努力であっただろうに感銘を受けるが・・・?
新型はより低速トルクが太くなるので、アクセルを踏み込まなくとも欲しいトルクが得れる。ゆえに実用燃費はよくなる傾向になる。
特にMTはその傾向が強い。