2020年7月24日に開会式を迎える東京2020オリンピック。その会場内はもちろん、会場間の道路や選手村などでの活躍が期待される車両に「MaaS(マース)」と呼ばれる技術群が採用され、その後の普及の足掛かりとなりそうである。「2020 自動車キーワード」の短期連載の第5回目では、「MaaSが担う役割」を解説していこう。
※タイトル写真は東京オリンピックでの活躍が期待される、トヨタのAPM(右)とConcept-愛i(左)。
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東京モーターショーで公開されたコンセプトカーたちが活躍する
自動車に限らず、開発されて発売、そして一気に普及する分岐点として、なにかしらのイベントが起爆剤になることはよくあること。たとえば1964年、前回の東京オリンピックが開催されたときにテレビが多くの家庭に広まった。もちろんオリンピック中継を見るためである。
そして今回、2020年の東京オリンピックでは「MaaS」、自動運転技術を使った公共サービスに注目が集まっている。もともと、管轄する国土交通省は自動運転に限らず、MaaS全般での検証、そして実験を行っているが、2020年の東京オリンピックでの円滑な輸送に寄与できるよう、施策を優先的に実施中だ。
そもそもMaaSとは「すべての交通手段(自家用車は除く)を情報通信技術を活用してシームレスにつなぐ」という概念だけに、施策の多くは各交通機関やインフラからのオープンデータ(誰でも利用できるデータ)を活用した情報提供となっている。現状でも懸念されているように、オリンピック期間中は交通機関の混乱が予想されている。実際、このままでは混乱は必至なのだが、解消・緩和するために的確かつ正確な情報を素早く提供するというのは当然のことだろう。
逆に言えばその程度で、自動車そのものは関係ないとも思われていた。ところが、2019年の夏に突如発表されたのがトヨタによる「東京オリンピック・パラリンピックを電動車のフルラインアップと多様なモビリティでサポート」というサービス。EVのないトヨタにとって、電動車とはプリウスPHVやMIRAIなどで、これらが提供される。
そして注目したいのが「多様なモビリティ」という文言。この点で大いに驚かされたのは、2019年の東京モーターショーに出品されて話題になった「e-Palette」、そして2017年の「TOYOTA Concept-愛i」が提供されるということ。さらにオリンピック専用の「APM」や歩行補助のEVなども含まれ、トヨタの現状持てる技術が存分に投入される形だ。
自動運転レベル4にあたる技術を搭載。オリンピックで実績づくり
e-Paletteについては、オリンピックへの提供が発表されるまでは、未来予想図の中に描かれたイラストでしかなく、まさに夢の乗り物でしかなかった。それが現実となって、オリンピック会場及びその周辺で運行されるのだから、驚いて当然だろう。
もちろんe-Paletteには最新のMaaS技術を搭載される。東京モーターショーに登場したe-Paletteはそもそもオリンピック仕様で、トヨタはソフトバンクを始めとしてさまざまなIT企業との提携を強力に進め、MONETテクノロジーズを設立。今や日産・三菱以外の全メーカーが出資するまでになっている。Autono-MaaSという造語を作っているほどで、東京オリンピックはその成果を具体的に見せる格好の場と言っていいだろう。ちなみにAutono-MaaSとは、自動運転を意味する「Autonomous(オートノマス)」と「MaaS(マース)」を掛け合わせた造語。
トヨタ初のAutono-MaaS専用EV車となる東京2020オリンピック専用仕様e-Paletteについて細かい部分が大いに気になるが、選手村内の巡回バスとして十数台を提供。低床フロアや電動スロープなどのバリアフリー化はもちろんのこと、自動運転についてはレベル4(特定の場所内でシステムにゆだねる)を達成していて、低速での完全自動運転が可能。各車の運行状況を総合的に管理するシステムも提供するというあたりに、MaaSの技術が投入されているのだろう。ちなみにオペレーターが同乗して、必要に応じて操作などを行う。
そのほかのConcept-愛iも東京2020オリンピック・パラリンピック仕様で、こちらも自動運転レベル4を実現して、オリンピック聖火リレーの隊列車両やマラソン競技などの先導車として数台を導入されるとのこと。さらに会期中はお台場や豊洲周辺で同乗体験も行われる予定だ。
限られた範囲と用途でながら、MaaS技術を搭載した自動運転車両が公の場で使用・運用されるのは画期的なこと。しかも、大勢の人が集まる場所でとなると、得られるノウハウやデータなどは大きいだけに、MaaS技術の進化やそれに基づく自動運転車のさらなる実用化に拍車がかかるのは確実だろう。e-Paletteにしても、本来のコンセプトを考えると進化の可能性は大いにあるだけに、まずはオリンピックで実績を作ることが大切だ。そして2020年はMaaS、自動運転の普及のターニングポイントになることだろう。(文:近藤暁史)
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