2012年にトヨタ・スバルによる連携の象徴のようなカタチで誕生した初代86/BRZ。
あれから9年。BRZは7月29日に正式発表され、86は8月下旬に予約開始される予定だが、2代目に生まれ変わる新型はトヨタとスバルの開発によって生まれたモデルとして、どのような進化がみられたのか?
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プロトタイプ試乗車から見えた新型86/BRZの2社による連携の成果をモータージャーナリストの斎藤 聡氏が分析する。
文/斎藤 聡
写真/トヨタ、ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】共同開発で生まれたスバらしいクルマたちを写真でチェック!!
■両社で違う言葉の擦り合わせから始まった共同開発
トヨタとスバルのコラボ。そういうと、ちょっと言葉が軽いかもしれませんが、2つのメーカーの共同開発でクルマを作る、というのはありそうでないことでした。
2012年にトヨタとスバルの共同開発で誕生した86・BRZ。写真はトヨタ86
ある自動車メーカーが作ったクルマを、提携した別のメーカーが供給を受け販売する、いわゆるOEM車(Original Equipment Manufacturer=相手先ブランド供給)というのはわりと頻繁に行われていて、内容も複雑になっているものもあります。
近いところでは、マツダロードスターをベースにしたアバルト124スパイダーがあります。このクルマなど、エクステリアデザインやサスペンションのセッティングが違うだけでなく、搭載するエンジンも異なります。
マツダとの共同開発で生まれたアバルト124スパイダー。外装、内装、足回りでロードスターと差別化をはかり、極めつけはターボエンジンを装備している
こうなると86/BRZよりも変更箇所が大きく、OEMと共同開発の利害がわかりにくく思えるかもしれませんが、共同開発が根本的に違うのは開発資金です。
ロードスターの開発はすべてマツダが行い、できた製品に対してフィアットが供給を受けるという形になります。つまりマツダロードスターをベースにフィアットが独自のチューニングやモディファイを行って販売しているのがアバルト124ということになります。
逆に86/BRZの共同開発に限りなく近いのが、日産/三菱のデイズ/ekワゴンなどです。ただ、こちらは2社が共同出資して作った合弁会社が企画開発を行っています。ですから2つのメーカーの共同開発ではありません。
共同開発に近いのが日産と三菱のデイズ&ekワゴンだが、こちらは日産と三菱のが共同出資して作った合弁会社が企画開発している
これは、文化の異なる2つのメーカーが共同でクルマを開発する時に生じる摩擦を極力減らしたり回避するのにとても有効な手段なのだろうと思われます。ただ、共同出資の会社を作るためには、日産・三菱のように2つのメーカーがグッと近い関係にないと難しいのです。
初代86/BRZの開発でトヨタ、スバル両メーカーから聞こえてきたのが、「文化も言語も違う」ということでした。例えば『静粛性』という言葉ひとつとっても微妙にニュアンスが違うので、まずはその言語の違いを擦り合わせ翻訳するところから共同開発作業が始まる、と言っていたのを覚えています。
そのくらいトヨタとスバルは文字どおり一体になって開発を行っていたということです。
■トヨタはGRスープラで共同開発の自信を深めた
それから9年。再び86/BRZは共同開発で2代目が誕生しました。
再び共同開発で誕生した2代目となる新型GR86・BRZ。袖ヶ浦フォレストレースウェイでのプロトタイプ試乗会は自動車ジャーナリストたちにセンセーショナルを巻き起こした
この9年間でトヨタにはひとつ重要な経験をしています。それはBMWとの共同開発によってスープラ/Z4を作り上げたことです。よく知られているように、ホイールベースとトレッドのアスペクトレシオから2メーカーが意見を交わしながら決定しました。
BMWとの共同開発で誕生したGRスープラ。採算を取るのが難しいスポーツカーを1社でつくるのは難しいので直6エンジンをもつBMWと組んで開発された
アスペクトレシオは、クルマの基本的な素性を決定するもの凄く重要な要件で、これまでBMWでもやったことのないアスペクトレシオ≒トレッド:ホイールベース比を選択し、スポーツカーを作り上げたことで、トヨタのエンジニアはとても自信を持ったのではないかと思います。
初代86/BRZ共同開発時には、楽しいクルマの楽しさの本質がどこにあるのか、ごく一部のエンジニアはそのイメージを持っていたのかもしれませんが、少なくとも共有はできていなかったと思います。
けれども、86を年改しながら進化させていく経験を経て、そしてスープラを開発していく過程で「楽しい」のニュアンスが共通認識としてつくられてきたのではないかと思います。
新型GR86は発売時期がBRZよりも2カ月ほど遅れるということです。じつはそれこそがトヨタのスポーツカーづくりに対する自信の表れなのではないかと思うわけです。
■GR86のサスセッティングは不完全!?
2代目はひとつのボディで作っていこうということが決まっていました。これにはさまざまな要因がありますが無視できないのが収益性です。細部に違いが生じればその分生産コストはかさみます。
その結果、新型GR86/BRZのエクステリアは、フロントバンパー(エアインテーク)の形状とエンブレム以外すべて同じ。エクステリアデザインはトヨタ主導で行っていたのでどうしてもGR顔になってしまう、ということでフロントマスクのデザインのみBRZはデザインを変更したのだそうです。
トヨタ主導でデザインされたため、新型BRZはGR86のフロントマスクを変更して登場した。当初は同じデザインの予定だったがここはスバルがこだわった
当然足回りもできるかぎり共通にする予定だったのですが、シャシーはスバルが主導して開発していたので、仕上げていくほどにスバルテイストが強くなってきます。
ちょうどスバルはSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を発表していて、その考え方や部分的な技術がGR86/BRZにも反映されていたからです。
そんなこともあって、土壇場でトヨタは大胆に足回りの仕様変更を行うことを決めます。この仕様変更が、発売時期が遅れる大きな理由だったのだろうと考えるのが自然です。
新型GR86は発売時期がBRZよりも2カ月ほど遅れるが、それは足回りを専用セッティングするためかもしれない・・・・
そう考えてみると、プロトタイプ試乗会でBRZのセッティングの完成度の高さに対して、GR86はどこか探っているような印象を受けたサスセッティングの理由がうなずけます。
一方、スバルはこれまで世界に名だたるスポーツ4WD=WRXを世に出しながらFR車の開発の経験がなく(ごく初期にプロトタイプを開発)、クルマ作りに対する世間の評価は高かったものの、FRスポーツに対する知見はほぼゼロといっていいものでした。
86/BRZを開発し、しかも他メーカーのセッティングや味付けのノウハウまで学習できたわけですから、スバルにとってこれほど有意義なクルマ開発はなかっただろう思います。
その結果SGPの技術を取り入れながら新型GR86/BRZの開発を進めていくことになります。当然86じゃなくBRZの味付けが強くなっていることはスバルのエンジニアはわかっていたはずです。
それでも軽量化によりメリットの大きなフロントハブキャリアのアルミ化や、フロント中空スタビの採用、リアサブフレームにブレードを追加したことによるスタビの作動ポイントの変更など、行っていったわけです。
このあたりの方法論は、インプレッサWRX STIで、年改を繰り返しながら走りの性能を進化させていったのと共通しています。
話が微細なところに入り込んでしまいましたが、トヨタがGR86の開発に待ったをかけ、細部を変更しようと決めたのは、GR86らしい走りを作り出すためだったのだろうと思われます。
一見するとトヨタが強権発動しているように見えなくもありませんが、両社の関係を見ると(表面的にですが)関係性は良好で、お互いを尊重しているからこそ、採算性を考えて極力クルマの変更を行わないという約束があったにもかかわらず、発売時期を違えても変更を許容しているのだろうと思います。
■今後も期待できるトヨタとスバルの共同開発
初代は、互いにないものを吸収しながら86/BRZを開発し、新型では持てるノウハウをそれぞれ出し合いながらクルマを作り上げているように感じます。発売を待つまでもなくGR 86/BRZが傑作といえるクルマになるだろうと思います。
蛇足になりますが、そうなると気になるのがこの後に控えているトヨタ/スバル共同開発プロジェクトである電気自動車です。絶妙の呼吸、ピタリと噛み合った歯車のような連携を見るとこちらも期待せずにはいられません。
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つまり、これは記事ではなく宣伝。