カワサキスピリット=長寿エンジン?
W1やマッハIII、Z1やニンジャ(GPZ900R)など、名車と言われる大型モデルが数多いカワサキだが、カワサキというメーカーの特徴に「長寿エンジンの多さ」がある。
【画像22点】80年代アメリカンがNinja&Zになっちゃった!歴代カワサキ2気筒系モデルを写真で解説
たとえば1976年登場のZ650を原点として「ザッパー系」と呼ばれる空冷4気筒750cc(実際は738cc)は、2007年に生産終了となったゼファー750まで存続したし、それより一回り小さい空冷4気筒はZ400FX(1979年)を元祖に、大ヒットモデルのゼファー400まで搭載され、そこからさらに4バルブ化という大幅な改良を施されゼファーχに搭載され、こちらは2009年まで存続した。
最近の例なら、W650(1999年登場)で新開発された空冷バーチカルツインが、排気量アップを含めた進化熟成を経て現在のW800まで続いている(ヨーロッパの最新環境規制「ユーロ5」に空冷のまま適合している)。
一度開発したエンジンを、手を加えつつ長く存続させる──それは裏を返せば、新規エンジンにかかる開発・生産コストを抑制するという「舞台裏」的な側面ではあるが、実はユーザー側にとっても少なからずメリットがある。
まずコストの抑制=販売価格が抑えられるというのがあるが、それ以外もベースエンジンから連綿と続くだけに、エンジン内の消耗パーツは長期間供給されるから1台を長く愛用しやすいのだ。
だからだろうか、カワサキ車を愛するライダーは、修理を重ねつつ長く乗る傾向が強いような印象が筆者にはある。
EN400、GPZ400S用として1985年に登場した並列2気筒現在も現役を続けるカワサキ製「長寿エンジン」は、ほかにもある。
先に紹介した空冷バーチカルツインは、1999年のW650誕生から数えて2021年で22年だが、ベースエンジン誕生から30年以上経っているエンジンがあるのだ。
それはニンジャ650やZ650、海外専用車のヴェルシス650に搭載などに搭載される、180度位相クランクの水冷DOHC4バルブ並列2気筒の系統である。
正直ちょっと地味な存在ではあるものの……このエンジン、ルーツはなんと1985年まで遡る。
カワサキは、従来の空冷2バルブから徐々に4バルブヘッド化を進めた80年代前半、同時に水冷化を進めている。
その代表格が名車ニンジャことGPZ900R(1984年~)だ。エンジン幅のコンパクト化や吸気流速のスムーズ化などをねらい、左端にカムチェーンを配したこのニンジャ系水冷DOHC4バルブ4気筒は、その後排気量を拡大しながらZZR1100やZRX1200系などに搭載されるなど息の長いエンジンとなった。
この基本構成を踏襲し、半分の2気筒として誕生したのが(大雑把に言うと)前述の水冷並列2気筒エンジンだ。
初期にこれが搭載された国内モデルは2機種。
1985年に登場の異色のチョッパーアメリカン「EN400」と、4気筒のニンジャに対し「ハーフニンジャ」などとも言われた1986年登場のロードスポーツモデル「GPZ400S」である(輸出向けにはそれぞれ500ccモデルも用意された)。
アメリカンとロードスポーツ……このエンジン、今の目で見ると随分使い勝手の幅が広いもんだと感じるが、80年代の「和製アメリカン」には当然のように並列エンジンが搭載されており(カワサキで言えば「Z LTD」シリーズなど)、それほど不自然なものでもなかった。
デュアルパーパスやアドベンチャーにも搭載
その上、カワサキはこの水冷並列2気筒をさらに多角展開していく。
デュアルパーパスモデルのKLE400にも搭載(こちらも輸出向け500cc車が存在)し、同車は高い高速巡航性能をウリにしていた。
考えてみると、ミドルクラスの並列2気筒は単気筒よりもフレキシブルな性能を確保でき、4気筒ほどボリュームを取らない。実に応用範囲の広いエンジン形式である。
そして時代は進んでも、この水冷並列2気筒の多角的展開は続き、EN400系のアメリカンは国内ではバルカン400と車名を変え1994年まで存続。
輸出向けのEN500はもっと息が長く、バルカン500の車名となって2008年モデルまで存続した。
またKLE系も国内では2006年までKLE400が販売され、輸出向けに展開されたKLE500系はネイキッドの新世代Z系のデザインになるなど発展を遂げたが、650ccへ排気量を拡大したヴェルシス650が後継を担っていった。
ロードスポーツ系はEX、ERを踏まえ、Z650とニンジャ650まで発展
そして一方、現在のZ650/ニンジャ650に至るまでロードスポーツ系ではどのような変遷があったかというと、GPZ400S/GPZ500S(海外向け)から始まり、国内ではEX-4、輸出向けはネイキッドモデルのER-5などに搭載されていく。
1994年に登場したEX-4は、GPZ400Sをツアラー向けに装備とデザインをアレンジしたモデルだったが、やはり地味な存在で短命に終わった。
この辺は日本の免許制度事情も影響しているのだろう。400ccまでの制限内ならどうしたって多気筒・高出力なモデルが好まれる風潮があったからだ。
一方欧州などではミドルクラス=コミューターとしての一定需要があり、1997年に登場したER-5は2000年代初頭まで根強く販売された。
その後は649ccへと排気量を拡大し、やはり欧州市場でミドルコミューター需要を長らく担ってきたGPZ500S/ニンジャ500系の後継として、2006年に登場したネイキッドER-6n(ネイキッド)/ER-6f(フルカウル)へと発展していく。
国内向け400cc並列2気筒のロードスポーツは90年代末から長らくラインアップから外れていたが、250ccクラスで大ヒットとなったニンジャ250Rの人気を受け、2011年モデルとしてニンジャ400Rが登場する(発売は2010年)。
その中身は海外向けのER-6fの排気量ダウン版だがスマッシュヒットを記録。
なお、ニンジャ400Rの影に隠れがちだが、ER-6nベースのER-4nも同タイミングで発売されている。
現在も「ニンジャ400」というモデルは販売されるが、400ccの並列2気筒エンジンを搭載するも、EN400から続くエンジンとは別系統。
2018年モデルから登場したその現行型ニンジャ400は、同じく2018年モデルでフルモデルチェンジを行ったニンジャ250がベースである。
ただ「長寿並列2気筒エンジン」搭載車が少なくなっているかというとそんなことはなく、アメリカンEN400に先祖返りするがごとく、2016年モデルではバルカンSというアメリカン(いや、今はクルーザーという呼び方が一般的か)も登場。2021年現在も販売が続けられている。
長らくER-6系の独特な車体で進化・熟成を続けてきたカワサキ650ツインスポーツだが、2017年モデルで転機が訪れる。
フレームは新設計のトレリスフレームとなったほか、リヤサスペンションもオーソドックスな配置となり、同時にネイキッドには「Z」の車名が与えられる。
カワサキ650cc水冷並列2気筒エンジンの特徴
様々なジャンルのミドルクラスに展開され、キャブレターからFI化を経て今なお存続している水冷DOHCツインは、細かく言えばそれぞれ別の味付けがされているものの、大きく言えば荒々しさと小気味いいパワフルさを味わえるエンジンだ。
左右のピストンが交互に上下して不等間隔で爆発する180度クランクの並列2気筒は、回し始めは「そこそこに軽快」という感じだが、中~高回転に向かうストレスのない回り切り感が持ち味だと思う。
270度クランクの並列2気筒や、Vツインエンジンに比べると低~中回転域のピックアップは鋭いものではなく、多少振動や雑味もあるが(これは180度クランク並列2気筒全体の傾向と言ってもいいだろう。FI化されて以降はその辺も洗練された)、適度にワイルドな感覚を味わえ、中~高回転に向かうほどに滑らかさが増し、きっちり気持ちよく回り切っていく特性だ。
また、Vツインのように2頭のシリンダーヘッドを持つ必要もなく、カムシャフトの駆動トレーンも2気筒を共用できるなど、生産コストの面でも都合はいい。
トップモデルを除けば、今やコスト重視の風潮&グローバルモデル化により、昔以上に並列2気筒エンジンは多数派になっている。
それはこのカワサキの水冷並列2気筒の例でもわかるように、コストと性能面のバランスで優位性があるからだが、それはユーザーにとってはバイクらしい「操る楽しさ」を手頃な価格で気軽に味わえることに繋がる。
カワサキの一見目立たない水冷並列2気筒エンジンが長く生き残ってきたのもそこに価値があったからだろう。
個人的な見解で恐縮だが、新機構満載の最新鋭モデルよりも、筆者はこういう「素の良さ」が味わえるバイクが好きだ。
レポート●阪本一史 写真●カワサキ/八重洲出版/小見哲彦 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
かつてはこの画像にある初代EN400やヤマハのビラーゴ1100等のように
フォークが長くキャスター角も大きいチョッパースタイルがほとんどでしたね。
かえってソレが新鮮味を感じます。
シートも厚くて柔らかく、ゆったりとしたライディングが楽しめます。
この後にカワサキは全く真逆のいわゆる「ドラッグ」スタイルの
「エリミネーター」シリーズを出してくるワケですが…