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トヨタが「スゴい施設」の全容を初公開! 「もっといいクルマづくり」の拠点、込められた想いは?

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トヨタが「スゴい施設」の全容を初公開! 「もっといいクルマづくり」の拠点、込められた想いは?

■“道”がクルマを鍛え、クルマをつくる人を鍛える現場とは

 2024年3月25日、トヨタは豊田市と岡崎市にまたがる山間部に建設を進めてきた研究開発施設「Toyota Technical Center Shimoyama(以下:TTCS)の全面運用を開始しました。
 
 構想30年、650ヘクタールの敷地面積にカントリー路(中央エリア)、高速周回路や特性路(東エリア)、そして車両開発棟や来客棟(西エリア)が設けられた拠点、投資額3000億円など、とにかくスケールがビックです。
 
 トヨタは「なぜ、このような研究開発施設を作ったのか?」について詳しくお伝えしたいと思います。

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 その目的は実に単純明快で、「もっといいクルマづくり」を「より素早く行なうため」です。

 そのためのキーワードは大きく2つあります。

 1つは「走る・壊す・直す」の一気通貫です。空港のターミナルビル並みと言っても過言ではない巨大な車両開発棟には、GRカンパニーとレクサスインターナショナルの企画・デザイン・開発・設計・試作・評価などあらゆる機能のメンバーが集結しています(約3300人)。まさに「大部屋開発」と言っていい体制でクルマ開発を行ないます。

 豊田章男氏は、「コロナ禍にGRヤリスの開発車両で『走って、壊して、直す』を何度も何度も繰り返し、強いクルマになりました。下山(TTCS)には様々な道を再現したテストコースがあります。つまり、『走って、壊して、直す』を、毎日毎日、何度も何度も繰り返せる場所です。ここを走り、そのまま作業場(ガレージ)に入ればメカニックがいます。上の階にはエンジニアもいます。何かあれば皆がすぐに駆け付け、クルマを囲みながら相談をする。このような場所があったほうがいいとずっと考えていました」と語っています。

 要するにモータースポーツの現場と同じ環境、「時間軸の速さ」、「結果がすぐに出る」、「その場で解決」と言う考え方を、量産車開発の現場にも活かしたわけです。

 もう1つは「道がクルマをつくる」です。TTCSのテストコースの1つであるカントリー路(第3周回路)は自然の地形を活かした役75mの高低差と多数のコーナーと様々な路面が組み合わせた約5.3kmのコースですが、世界の道が凝縮されていると言われているニュルブルクリンク(以下:ニュル)の入力が再現されているのが特徴です。

 そんなニュルに人一倍こだわっていたのが、豊田氏と共に“元祖”GAZOO Racingを立ち上げ、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の礎を築いたマスタードライバーである成瀬弘氏です。ここで筆者が以前、成瀬氏にニュルについてインタビューした時の一部を紹介したいと思います。

―― 成瀬さんはいつも「道がクルマを作る」とおっしゃっていますが、やはりニュルのような所で鍛えないとダメですか?

 成瀬 日本は100km/h制限の国ですが、世界に通用するクルマにするには“走る道”を選んではダメ。だから、都内の渋滞からニュルの高速走行まで鍛える必要があります。

―― では、ニュルで鍛えたクルマは何が違うのでしょうか?

 成瀬 それは「ドライバーの安心感」でしょう。レクサスLFAは最終的にニュルで作り上げましょう」と言うことで5年くらいかけました。

 だから、あのようなクルマに仕上がりました。スープラ(4代目:A80系)も同じです。ニュルで鍛えたクルマは強いですよ。

 スープラが今でも高い能力を持っているのは当たり前。コイツを超えるクルマがでなくて困っていますけどね(笑)。

―― スープラはニュルで鍛えたと聞きましたが、当時日本のサーキットでテストをすると、ライバルのほうが速かったです。

 成瀬 そんな事、どうでもいい事。ヨーロッパに来るとスープラは凄い。スピード領域が高い所に行けばいくほど良さが出て来る。

 日本のサーキットで勝って喜んでいるレベルじゃ本当の味はでません。日本のサーキットではクルマの性能の10あるうちの1つが見える程度ですが、ニュルは10全てが見えてしまう。だからごまかしがきかない。

―― 欧州の自動車メーカーはどんなモデルでもニュルブルリンクでテストを行なっていますが、トヨタ/レクサスは限定的ですよね?

 成瀬 それはクルマのキャラクターだったり、チーフエンジニアの考え方だったり……企業の考え方の話ですね。

―― 成瀬さんはどう思われますか?

 成瀬 もちろん全車種やるべきですよ。クルマである以上どんなカテゴリーのモデルでも満足して走らせる能力に差をつけてはダメ。

 それにレースと一緒でガンガン走るので耐久性も上がる。ドイツ勢はテストメニューの一環としてニュルを走るので、遠い島国の我々から見ると、非常に羨ましい環境です。

■豊田章男氏が語るニュルブルクリンクとは? そしてTTCSとは

 豊田氏も成瀬氏と変わらないくらいニュルの重要性を知る一人です。

 こちらも筆者が以前、豊田氏にニュルについてインタビューした時の一部を紹介したいと思います。

―― 章男さんは「もっといいクルマ作り」を経営のど真ん中に掲げていますが、その考え方の原点はやはりニュルでの活動ですか?

 豊田 成瀬さんに「あなたみたいに運転の仕方も知らない人に、ああだ、こうだと言われてもたまりません。最低でもクルマの運転の仕方は身につけてください」とハッキリ言われてから、10年近く運転トレーニングをしてきました。

 私にそのような感性を磨かせてくれたおかげで、トヨタでの社長業のやり方も全く変わりました。リコール問題での公聴会、社長になってからの方針も、ニュルでの経験があったからこそ明確に言えたと思います。

―― つまり、経営者・豊田章男の原点はニュルにあると言うわけですか?

 豊田 そうですね。2000年にニュルでのトレーニングを始めました。当時は確か1周12分くらいのペースでしたが、「果たして生きて帰ってこれるのか?」と絶えず恐怖と戦っていたのを思い出します。

 僕は40を超えてからのトレーニング、50を過ぎてからの挑戦でしたが、「クルマが好き」、「クルマの運転がちょっと上手」と言う気持ちだけでここを走ると、ニュルの神様に怒られると思います。それくらい厳しい道だと思います。

―― ニュルではドライバーはもちろん、クルマも過酷コースとして有名です。

 豊田 他の道ではごまかせたとしてもニュルではダメ。だからここで鍛える必要があります。ここで鍛えるとクルマが壊れる、壊れるから人も鍛えられるといい循環が生まれます。

 LFAの時に痛感しましたが、テストコースで3年間開発して出てこなかった不具合が、ニュルに来ると30分で出ました。最初は24時間を走り切る事すらできませんでしたが、今は違います。

―― 成瀬さんに代わり、今は章男さんがマスタードライバーとして皆を引っ張っています。

 豊田 今は当時のメンバーに加えて新たな仲間も加わり、もっといいクルマ作りを進めています。これまでは成瀬さんのテールライトを追いかけてきましたが、すでに成瀬さんがやってきたことの前例を超えています。

 でも、今後も続けていく必要があります。継続しているから正解になっていくんだと思います。そういう意味では、私の中では今も成瀬さんはずっと生き続けています。

※ ※ ※

 このようにニュルはトヨタにとって重要な開発ステージですが、日本からフランクフルトまで空路で片道13-14時間、更にフランクフルトからニュルまで陸路で2時間と、頻繁に通える場所ではありません。

 トヨタ車の中でもニュルで鍛えられたモデルが限定的だったのは、そのような背景もあったと思います。
 そこで豊田氏は「ニュルの一部でも下山で体験できるようになれば、もっといいクルマづくりに大きな影響を与えることができる」と考えたわけです。

 実はそんな考えは1980年代にもありました。

 初代セルシオは日常領域からアウトバーン領域まで、超一級の静粛性と快適性、そして欧州車に負けない走行性能が開発目標でしたが、それを実現できたのは1987年に完成した士別試験場の高速周回路(第1周回路)が大きく影響しました。

 当時セルシオの広告には、「まず北海道の原野にアウトバーンを作りました」と記載されていましたが、言うなれば今回のTTCSは「愛知県の山間部にニュルを作りました」でしょう。

 更に豊田氏は続けます。

「30年前の構想当初は『もっといいクルマづくり』と言うキーワードはありませんでしたが、私はニュルの走行を繰り返し行なっていました。

 その時『ニュルでしかできない事が、なぜ、日本でできないのか?』と思いましたが、その答えの一つがこのTTCSです。

 これから若い世代含めて現役の人がどう活用していくのか、つまりゴールではなくスタートです」

 ただ、筆者が一つ気になったのは「TTCSで色々なテストができるようになった事で、今後トヨタはニュルには行かなくなるのか?」と言う所です。

 そんな疑問を豊田氏にぶつけるとこのように答えてくれました。

「下山で解ってニュルで解らない事、逆にニュルで解って下山で解らない事がこれからたくさん出てくると思います。

 だからこそ、どちらの強みも活かして、もっといいクルマづくりを続ける必要があります。

 ただ、間違いない事は『厳しい道がもっといいクルマづくりに繋がる』と言う事でしょう。

ちなみにニュルは先週走ってきましたが、自分の成長を確認できた一方で新たな課題も見つかりました。

 だから、走れるうちはニュルに行き続けます。そして、またニュル24時間耐久レースに出たいと思っています」

※ ※ ※

TTCSによって、もっといいクルマづくりは間違いなく加速していくでしょう。

そして、今後登場するであろう「下山で鍛えられたクルマ」たちにも、期待大です。

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みんなのコメント

4件
  • yoshi
    自前のサーキットを持つか持たないかはさて置き、既存の自動メーカーは開発にはそれ相応の時間をかける。
    マスコミはテスラを初め、ぽっと出のBEVメーカーの開発期間の短さを絶賛するが、こういう詰めをしないから品質が悪いことは周知の事実。
  • ********
    こういう施設を作っても不正を行ったら意味が無い
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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