スバルといえばマニアックでコアなクルマ作りのイメージを持っている人も多い。実際にランエボ、インプレッサの開発合戦の時にはコストを度外視した贅沢なクルマ作りが行われていたという。
しかし現在のスバルの利益率の高さは日本の自動車メーカーのなかでは出色の高さを誇っている。利益率が高い=しっかりとしたコスト管理とは単純には言えないが、非常に効率よくクルマを作り、販売していることは事実だ。
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そのスバルの利益率がほかの日本メーカーに比べて高い理由を福田俊之氏が考察する。
文:福田俊之/写真:SUBARU、TOYOTA、ベストカー編集部
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落ち込んでいた業績は大きく回復
「スバルさんはしぶとい」――国内の自動車メーカーの2019年9月中間連結決算が出そろったなか、ライバルの財務担当者は一様に舌を巻いた。
スバルと言えば、2年前の2017年に日産自動車、スズキなどとともに完成検査不正という大問題を起こし、経営体制の刷新や巨額のリコール(回収・無償修理)費用を計上するハメに陥ったことが記憶に新しい。
それが、今年は早くも大きく復調。4月から9月までの半年間の営業利益は948億円と、昨年の同じ時期の564億円から7割近くも増加した。
東京モーターショー2019でレヴォーグプロトタイプを世界初公開。中村社長は2018年6月に代表取締約社長兼CEOに就任。スバルらしさを追求していくことを強調
さすがに、不正問題が発生する前まで10%を大きく上回っていた営業利益率は、ビーク時(過去最高は2016年3月期の17.5%)の3分の1の5.9%まで低下したが、2020年3月期見通しでは6.6%を予想。
自動車大手7社のうち、上半期の売上高、純利益がそれぞれ過去最高を更新したトヨタ自動車(8.1%予想)に次ぐ高い利益率だ。
ちなみに、世界的な新車市場の低迷や円高でトヨタとスバルを除く5社が減収減益に見舞われたが、スズキは5.7%、ホンダが4.6%、マツダが1.7%、経営の混乱が続く日産自動車は1.4%、その傘下の三菱自動車が1.2%などと通期の営業利益率も軒並み低い予想となっている。
利益率10%超えも充分にあった
実は今期もスバルは主力の米国市場などで痛恨の大規模リコールが発生した。技術的には致命的な不具合のようではなかったが、品質管理の体制整備が追いつかず、その費用は650億円を超えて初期の想定より資金が膨らんだ。
それさえなければ営業利益は1500億円レベルとなり、利益率も再びトヨタを抜いて10%に達していただろう。
会社の規模は年間売上高がトヨタの10分の1の3兆円強しかなく、自動車メーカーとしては世界的に見ても“零細企業”。
かつては日産や米GMの傘下で巨額の赤字に四苦八苦していた不遇の時代が長く続いていたが、そのスバルがなぜこれだけの「稼ぐ力」の強さを発揮できているのだろうか。その要因としては大きく3つある。
スバルの販売が米国に大きく依存していることがわかる(出典:スバルアニュアルレポート2019)
欧州の高級車的なビジネス展開
第1の要因は、中大型車にターゲットを絞っているということだろう。
他メーカーから供給を受ける軽自動車のOEMモデルを除くと、一番下のモデルが「インプレッサ」。フォルクスワーゲン「ゴルフ」と同じ、欧州Cセグメントと呼ばれるクラスである。
Cセグメントより小さいクラスを持っていないブランドはもともとクルマのサイズが大きいアメ車を除くと世界的にも限られる。
スバルが独自開発しているクルマで一番下のカテゴリーがインプレッサG4&スポーツが属するCセグメント。世界的に見ても珍しいケース
その顔ぶれはメルセデス・ベンツ、BMW、レクサスなど、いわゆるプレミアムブランドばかりだ。スバルはブランドとしては大衆車だが、ビジネス展開は欧州車並みの高級車的なのである。
もともと「スバル360」で飛躍したスバルにとって、軽自動車は源流とも言える商品だったが、2005年に筆頭株主がGMから現在のトヨタに移った後、軽の生産からは撤退。当時はそれを残念に思うスバルファンの声も多かったが、結果的にはこの決断がスバルを飛躍させた。
自動車はBセグメント以下とCセグメント以上では儲けの金額も利益率もまるで異なる。これがスバルの高収益体質を支える源泉となっているとも言える。
2012年2月にサンバーバン、トラックとも生産終了。これによりスバルは50年以上に及ぶ軽自動車の生産の歴史に幕を下ろした。これを惜しむ声が絶えなかった
ワンプラットフォームで高効率化
だが、それだけで収益性を確保できているわけではない。クルマの生産や販売のコストが低いというのも、スバルの大きな特徴だ。
前述のようにスバルは自動車メーカーとしては小規模。大量生産による薄利多売で利益を上げることは本来難しい。
が、スバルはそれを発想の転換で乗り越えてきた。それは、クロスオーバーモデルの「アウトバック」や北米向けの大型SUV「アセント」などの大きなクルマから「インプレッサ」「XV」などの小さなクルマまでを1つのプラットフォームで作るということだ。
もちろんモデルの大小で使われる部品はまったく異なるのだが、クルマの骨格となる基盤技術は共有だ。
1992年にデビューした初代インプレッサはレガシィとプラットフォームを共用。これ以来、クラスは違ってもワンプラットフォームで高効率化を追求
こういうクルマ作りは、実はスバルの伝統芸。最初にその方針を出したのは、1990年代にスバルを経営危機から救い、WRC(世界ラリー選手権)もやめず、後に3年連続優勝の偉業達成につなげた日産出身の川合勇元社長だった。
困窮していたスバルが「インプレッサ」を開発していたとき、上級モデルの「レガシィ」と同じ部品で作れば、部品は高くても開発の効率化と量産効果で結局はトクをするという逆転の発想によるものだった。
その戦略は大当たりし、以降、スバルのクルマ作りはワンプラットフォームがデファクト・スタンダードになった。
スバルの利益率は高級スポーツカーのポルシェなどと比肩するほどの高さだが、その収益基盤の強さはスバルのクルマづくりの手法と無縁ではない。
スバルの利益率が、販売しているクルマの平均価格が1000万円を超えるスポーツメーカーのポルシェと同等レベルというのは驚異的
米国市場での強さ
そして、他社にはないもうひとつは米国市場での強さ。スバルはもともと米国を収益基盤にしていたが、当初はあくまで“知る人ぞ知る”という少数派であった。
2000年代後半にディーラーチェンジしたのをきっかけに、悪路や雪道に強く、耐久性が高いという特質が米国のユーザーに浸透しはじめ、売り上げがぐんぐん伸びた。
スバルが50万台規模から100万大規模へと、零細ながら倍増したのは、ほぼすべて米国での販売増が要因。
中型SUVのアセントは2018年にデビューして2018年度は3万6211台を販売。生産も米国で、日本では販売されていない
しかも、米国市場が減速しているなか、スバルの販売は落ち込んでいない。それは「スバル車の希望小売価格は安いが、平均実売単価は高いので儲かるのも道理」(ライバルの米国担当幹部)という状況だ。
大きく体勢を崩しながらも、急速に復調しつつあるスバル。だが、これからもこの調子で成長を続けられるかどうかは予断を許さない。スバルの業績のよさはひとえに米国の一本足打法に頼ったもので、ここが崩れたら一気に経営危機に陥る可能性をはらんでいるからだ。
米国で堅調な販売を見せるスバル(出典:スバルアニュアルレポート2019)
好調だが安泰ではない
それ以上に大きなリスクは、スバルがこの先、どこまでブランドの独自性を維持できるかという不透明性だ。トヨタがスバルへの追加増資を発表した際、中村知美社長は「これからもスバルらしさを磨く」と決意を述べている。
が、近年はスバルらしさが米国受けするスバルへとすり変わっているのは否めない。本当のスバルらしさが何かということを見失わないでいられるかどうかも課題である。
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「100年に1度の大変革」を迎えて、スバルのような小さい企業にとって悩みのタネである先端技術分野については、トヨタという強力なパートナーシップを得ているのは心強いところだが、それで安心していると危ない。スバルが有効な見返りをトヨタに提供できなければ、トヨタの態度が豹変してもおかしくないからだ。
これまで強いブランドイメージと手堅いモノづくりで高収益体質を築いていたスバルだが、それを確かなものにするには品質管理の問題を取り上げても今の延長線だけでは危うさもある。
2019年9月にはトヨタとの新たな提携を発表。CASE時代の到来に備えて共同でEVを開発するだけなく、新型86&BRZの共同開発につても言及。この点は楽しみだ
スモールメーカーの中でも「好敵手」とみられるマツダを例に上げれば、米国新工場建設やモノづくり革新の推進などの積極投資で利益率は低いものの、「走る歓び」と環境対応の新エンジン「スカイアクティブ」や魂動デザインのような独創的な商品開発戦略はユーザーにとっても選択肢が広がる。
マツダのように背水の陣で挑んだ”身の丈に合った”ブランド戦略を明確に打てるかどうかが、スバルの将来の命運を分けることになるだろう。
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