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スパイダーからワンボックスまで! フィアット850 シリーズ(1) リアエンジンなイタリアの大衆車

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スパイダーからワンボックスまで! フィアット850 シリーズ(1) リアエンジンなイタリアの大衆車

リアエンジンの典型的な小さなイタリア車

グローバルモデルが一般化する以前、クルマにはお国柄が表れていた。世界は、もっと興味深い場所といえた。グループ内のブランド間でプラットフォームを共有し、エンブレムを付け替える、という発想は一般化していなかった。

【画像】リアエンジンなイタリアの大衆車 フィアット850 500とムルティプラ 最新600eも 全126枚

英国車だから、ドイツ車だからという理由が、クルマ選びの大きな基準になった。自分の感性に合致したモデルを、もっと自由に選べたように思う。

今回振り返るフィアット850は、まさにその筆頭。活発に回る小排気量エンジンに、無駄のない快活なスタイリングまで、典型的な小さなイタリア車といえる。リアエンジンの500や600と同様に。

ベーシックな2ドアサルーンの850 ベルリーナや、ワンボックスの850 ファミリアーレは、数100万人の移動手段になった。スポーティなクーペやスパイダーは、小さなエキゾチックカーとして熱狂的なファンを生み出した。どれも、人々を幸せにしてきた。

設計をまとめたのは、500も手掛けた伝説的な技術者、ダンテ・ジアコーサ氏。リアエンジンは、イタリア人にとって当たり前のレイアウトになった。その後、彼はフィアット128とアウトビアンキ・プリムラで、前輪駆動モデルの雛形も創造したが。

1955年に登場した600は、エンジンが633ccから767ccへ拡大されても、9年後には時代遅れ感が否めなかった。そこで費用対効果を求めつつ、革新的な発想で帰着したのが、1964年発売の850シリーズだ。

サスペンションとエンジンは600譲り

サスペンションは、基本的に600譲り。前後にアンチロールバーが追加されつつ、横向きのリーフスプリングとアッパー・ウイッシュボーンをフロントに、コイルスプリングとセミトレーリングアームをリアに採用した構成は、ほぼ同じといえた。

スチール製のティーポ100型4気筒エンジンも、ボアアップされていたが、600からの継投。843ccから34psが発揮され、最高速度は120km/h。従来から5psと11km/h引き上げられていた。

3枚のベアリングがクランクシャフトを支え、カムシャフトはプッシュロッドを介し、アルミニウム製ヘッド内のバルブを開閉。整備コストを抑えるため、クランクシャフト・プーリー内に遠心オイルフィルターが実装された。

トランスミッションは新開発。オールシンクロの4速マニュアルが標準だった。

600から大幅に進化していたのが、パッケージング。2027mmと短かいホイールベースは、27mm伸びた程度だが、全長はベルリーナで360mmもプラス。全幅は45mm広がり、リア・トレッドも同等に拡幅され、安定性が大幅に改善していた。

当初のプロトタイプでは、ボディスタイルは4ドアで凸型の3ボックスも検討された。しかし製造コストの高さと空力特性の悪さから流れ、ノッチバックの2ドアサルーン、ベルリーナへ落ち着いた。

600ではフロントに位置した燃料タンクは、リアシートとエンジンの間。安全性が向上し、車内空間に余裕が生まれ、広い荷室も与えられた。

3列シートで7シーターのファミリアーレ

850 ファミリアーレは3列シートを備え、7名の定員がうたわれたが、見た目はやや普遍的。600 ムルティプラのスタイリングは個性的だったが、スクエアなボックスボディが載っている。

そのかわり、月日を重ねても古びては見えず、キャンピングカーのベースとしても人気を獲得。1971年まで作られたベルリーナや、1972年までのクーペなどより遥かに長い、22年後の1986年までフィアットの工場は提供し続けた。

今回は、850シリーズ 4台にお集まりいただいた。真っ先に乗るべきは、グラハム・ホーン氏がオーナーの、1967年式ベルリーナ・ノルマーレだろう。筆者が10代だった頃、850を所有していた経歴を持つが、公道で乗るのは40年ぶりだ。

1960年代後半のイタリアの風景には欠くことができない、ベーシックカーの代表といえる。ドアを開くと、インテリアは至って質素。ダッシュボード上の小さなパネルに、横長のスピードメーターが収まる。

その左側に、ヘッドライト・スイッチ。ワイパーは、速度を変えられない。ステアリングコラムからは、ウインカーレバーが伸びる。フロアはラバーマットで覆われるが、アイボリーのボディカラーが各所で露出。天井の内張りも、薄いラバーシートのみだ。

ドアハンドルは、フェラーリ275と同じもの。クロームメッキされていないが。

古いポルシェ911と少し印象が重なる走り味

車重は670kgと軽く、至って活発。34psしかないから、タイヤが空転することはないけれど。シフトレバーとリアの4速MTは離れているが、ストロークは短く、ゲートを選びやすい。小さなエンジンを目一杯回す、ささやかな楽しみを謳歌できる。

防音性は高くないものの、エンジン音は殆ど聞こえない。BMCミニが積んだAシリーズ・ユニットより滑らかで、洗練されている。

起伏が続く公道を飛ばせば、古いポルシェ911と印象が少し重なる。フロントノーズは、上下の動きが大きい。ステアリングは適度に軽く、クイックで、正確に反応する。ベルリーナ・ノルマーレの印象は、筆者の遠い思い出を鮮やかなものにする。

こんな走行性能の高さを、フィアットは見逃さなかった。1965年のイタリア・ジュネーブ・モーターショーで、850 クーペとスパイダーが発表される。パワートレインやシャシーへ、しっかりアップデートを施して。

排気量は843ccと変わりなかったが、ツインチョーク・ウェーバーキャブレターと専用カムシャフト、4分岐の排気マニフォールドを与えることで、4割もパワーアップ。47psが絞り出された。発生回転域も、1200rpmプラスの6200rpmに設定された。

ホイールは13インチ。ブレーキは、850 ベルリーナでは前もドラムだったが、ディスクが採用されている。

今回ご登場願ったレッドのクーペは、スポーツクーペへ改称された、1968年以降のシリーズ2。エンジンは903ccへ拡大され、最高出力は52psへ上昇。最高速度は、143km/hが主張された。

この続きは、フィアット850 シリーズ(2)にて。

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