この記事をまとめると
■ポルシェ356専門ファクトリー「エモリー・モータースポーツ」が356RSRを製作
ポルシェにとってもファンにとっても「GT」は特別な称号! とはいえややこしすぎる911の「GT」と名の付くモデルを整理してみた
■ツインターボ化により400馬力にパワーアップした水平対向4気筒エンジンを搭載する
■パワーを受け止めるためにリヤスカットルに964のシャシーを使って徹底的な強化を実施
356のスペシャリストとなった「エモリー・モータースポーツ」
ポルシェ356が1950年に発売された当初は、コンパクトなトゥーリスモと受け止められ、レースシーンでの大活躍をイメージするのは難しかったかと。しかしながら、ポルシェは積極果敢にレースへとエントリーし、356をベースに数々の栄光を手にしたことはご承知のとおり。
その後、911のさらなる活躍やプロトタイプマシンなどの躍進もあって、356のプレゼンスもさすがに旧さを隠しきれなくなってきたかと思いきや、とんでもないマシンが現れました。その名も356RSRだなんて、ポルシェマニアならずとも胸アツ! 生粋の356専門ファクトリーが作り上げた渾身の1台をご紹介しましょう。
カリフォルニアに本拠を置くエモリー・モータースポーツは1948年の創業といいますから、ちょうど356がオーストリアのグミュントで手作りされ始めた時期と重なります。創業者のニール・エモリーは、当初ホットロッドカスタムを中心に請け負っていたのですが、1960年代に入るとニールと彼の息子、ゲイリーはポルシェのインポーターだった「アイバーソン・ポルシェ」の仕事を担うように。
ここからエモリー・モータースポーツはポルシェ356へとのめり込み、パーツベンダーとして権利を得ながら、修理とレストレーション、そして356専門のカスタマイズファクトリーへと地歩を固めていったのでした。
ところで、356を手がけるファクトリーは数多ありますが、ここまで歴史があるのは世界広しといえどもレアでしょう。ちなみに、ドイツ国内にあるのはポルシェやロイター(現レカロ)の息がかかったファクトリーで、イタリアにあるレストア工場もまたポルシェ御用達の職人集団であり、エモリーのような「町工場」からスタートしているのはレア中のレアというわけ。
時代が下って、ゲイリーの息子、すなわち3代目となったロッドもまた356にのめり込みました。生まれたときから356やそのパーツに囲まれて育ったのですから、当然の英才教育といえるでしょう。
ロッドが代表になってから、エモリーの知名度は飛躍的に高まり、アメリカ国内はもちろん、世界各国からレストアの依頼が相次ぐことになりました。ネット上に彼らの作品が数多く出まわり、その仕上がりやセンスの良さが注目を浴びたのです。
「もしもポルシェが356のRSRを作ったら」がコンセプト
ステアリングで有名なイタリアのMOMOでCEOを務めていたエンリケ・シスネロスもまた、エモリーの実力に惚れ込んだひとり。彼はMOMOがもつポルシェにかかわりあるパーツを使ってカスタム356をオーダー。ロッドと相談するうちに、MOMOがもっとも深くポルシェにコミットした頃、すなわち935や956/962当時のイメージを取り入れることとなりました。また、356の水平対向4気筒エンジンのチューンアップにも手を染めていたエモリーに、「出来うる限り最高のエンジン」を搭載することを望んだのです。
エモリーのフラット4エンジンは、さすがエンジニアや職人が密集するサンフェルナンドバレーだけあって、世界でもトップクラスのパフォーマンスを誇っています。2.4リッターまでスープアップされ、インジェクション化やターボなどさまざまなレベルが選べるのですが、ロッドはMOMOのためにギャレット・エアリサーチ製タービンをツインで装備することを提案。完成時には400馬力に設定されたものの「セッティング次第で450馬力までいける」ものとなっています。
ここでポルシェマニアの方ならば「356のシャシーで400馬力は無茶ってもんだろ」と眉をひそめるかもしれません。もちろん、ロッドも折り込み済みで、リヤスカットルに964のシャシーを使い、またオリジナルのフロアパンも徹底的な強化を施したとのこと。
ただ、この作り方によって356のプロポーションが変更されたことも事実。これまた、西海岸のボディ職人が356をベースにフルスクラッチビルドを行い、グミュント356のようでありながら、大きく広がったリヤフェンダーや、冷却効率の高そうなリヤエンドが出来上がったのです。
「もしもポルシェが356のRSRを作ったら」とロッドがコンセプトを語っていますが、スクープ付きフロントフードや、フェンダー上のダクト、あるいは1960年代を彷彿とさせるリップスポイラーや各部のリベットなど、説得力にあふれるもの。
また、MOMOのリクエストどおり、935をイメージさせる5本スポーク&センターロックのホイールや、ケブラー地のアピールも鮮やかなバケットシート、とどめは3本スポークのMONZAステアリングとくれば胸の高まらないポルシェファンはいないはず。
RSRのステージとなるサーキットにはまりそうではありますが、どことなくマルホランドを爆走するシーンも似合いそう。このあたり、創始者のニールが作っていたホットロッドのDNAも影響しているはず。実際、後年にオークションへ出品されたエモリー356RSRは熱心なホットロッドコレクターに85万8000ドル(約1300万円)で落札されています。
オリジナル356をミントコンディションにレストアするのもステキですが、ここまで356を知り尽くしたファクトリーならばRSR風というのもじつにカッコいい! ポルシェファンならずとも、これからのエモリー・モータースポーツから目が離せなくなるのではないでしょうか。
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