子会社、関連会社で不祥事が相次いでいるトヨタ。信頼性の高さでは世界最高峰の自動車メーカーであり、それこそが世界中で支持されている理由のはずなのに、いったいトヨタグループに何が起きているのか?
※本稿は2023年5月のものです
文/福田俊之、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、Toyota Motor Thailand、ダイハツ
初出:『ベストカー』2023年6月26日号
ダイハツに日野自動車……事大主義の蔓延が不正の始まり!? トヨタグループで不祥事が相次ぐワケと改善への道
■ダイハツで不正が発覚
トヨタ ヤリス エイティブ。新興国向けの流麗なデザインの小型セダン。インドネシアではヴィオスの車名で販売している
2023年4月28日、トヨタの完全子会社であるダイハツの不祥事が内部通報で発覚した。タイ、マレーシア、インドネシアで生産され、東南アジア、南米、中東で販売される小型車の、側面衝突時における安全性の確認試験で不正があったというものだ。
対象は多くがトヨタブランドで販売されているクルマで、ヤリス エイティブ、プロデュア アジア、アギアと現在開発中のモデルの4車種。
アギアは発売前の新型車だが、ヤリス エイティブとプロデュア アジアは2023年4月までの累計販売台数が10万1717台というクルマで、一時は両車とも出荷中止となった(一部地域で再開)。
不正があったのはフロントドアの内張り部品で、試験の時だけ切り込みを入れて壊れやすくし、側面衝突時の乗員への攻撃性を低減していたというもの。この切れ込みがなくても安全性に問題はなかったとのことだが、法的に正しい手順、方法に違反していた。
トヨタの関連会社では、2022年3月に日野自動車でエンジンの排出ガス、燃費性能での偽装、2023年2月に豊田自動織機でフォークリフト用エンジンの耐久試験で不正が発覚。さらに5月12日にはトヨタコネクティッドを使用する215万件の顧客情報が流出するという事案も発生している。
信頼性の高さゆえに世界中で支持されているはずのトヨタの子会社、関連会社で相次ぐ不祥事。グループ全体に何が起きているのか気になり、心配になるのは当然のことだろう。
5月16日現在、ダイハツの案件に対してトヨタが行っている調査の最終結果は出ていない。そのためあくまで“現時点での”ということになるが、経済ジャーナリスト福田俊之氏の見解を掲載する。
(文/ベストカー編集部)
■トヨタグループで相次ぐ不祥事
2023年5月、トヨタの完全子会社であるダイハツの不祥事についてタイのバンコクで記者会見し謝罪するトヨタ自動車の豊田章男会長
トヨタグループの不祥事が止まらない。トラック大手の日野自動車、トヨタ自動車の源流となる企業であり、フォークリフトやディーゼルエンジンなどを手がける豊田自動織機で排出ガスの規制適合で不正を行っていたことが発覚。トヨタ系列の販売会社でも車検不正が相次いで浮き彫りになった。
そして大型連休に突入する直前の4月末には、トヨタの完全子会社で軽自動車やアジア向け小型車を主力事業とするダイハツ工業が衝突安全審査を違法にパスしていたことが、内部告発により明るみに出た。
トヨタでは4月1日付けで社長の座をエンジニア出身の懐刀、佐藤恒治氏に譲り、自らは会長に就任した豊田章男氏が、連休明け早々、不正の対象車の主な生産・販売の拠点であるタイのバンコクで記者会見を行い、「不正はトヨタグループ全体の問題。自分が先頭に立って信頼回復に努める」と強調。
重要な収益源である東南アジアでのイメージダウンにつながりかねないだけに、自らのネームバリューを生かして事態の鎮静化を図る構えを見せた。
豊田氏は、14年前の社長就任直後に、米国で大規模リコール問題を起こして危機に直面したが、その時、米国の公聴会では「問題から逃げも隠れもしない」と誓って、率先して信頼の回復に全力を尽くした。今回の“謝罪会見”もそうした教訓から素早く対応したものと思われる。
そのタイでの会見でも豊田会長主導で早期の信頼回復を図る姿勢を示したが、その戦術は、グループ全体にトヨタのやり方をとことん浸透させるという狙いがあるようだ。
日野自動車の小木曽社長
2022年3月、不正問題では“先輩格”の日野の小木曽聡社長は、大規模な排出ガス不正が発覚した緊急会見の席で、「トヨタには不正をしようとしてもできない仕組みがある」と述べて、これまで不正行為が取り沙汰されずにきた“水も漏らさぬチェック体制”とも類推されるトヨタ方式の導入を示唆する発言を行っている。
小木曽氏はトヨタでハイブリッド車「アクア」などの開発責任者を務めたエンジニアで、日野に送り込まれてからもトヨタとの連携強化を打ち出しているが、再発防止に向けてのトヨタ流の導入は、小木曽氏の発案ではなく、“古巣”の意向とみるのが妥当であろう。
■トヨタグループに蔓延する事大主義
就任早々、不祥事対応を経験することになった佐藤恒治新社長。今後の舵取りに注目だ
だが、トヨタ本体のやり方を関連企業にも行き渡らせるという戦術で、グループの緩んだタガを締め直すことはできるのだろうか。
結論から先に述べると、会長主導でトヨタ流を徹底的に守らせれば、品質管理や法令順守などに関わる問題がすべて解決できるというような単純なものではない。傘下の企業で発覚した相次ぐ不祥事は、想像もつかないほどの根深いものがあるようにも見受けられるからだ。
トヨタの研究開発部門の要職を務めたあるOBは「一連の問題に関する情報をよく分析すると、どの不祥事もトヨタの言うことを聞かなかった結果起こったのではなく、語弊を恐れずに言えば、むしろトヨタの言うことを聞いたから起こったのだ」と指摘する。
つまり、グループ企業にとってはトヨタからの要求に応えることが最優先事項で、社内では、そのためには「何でもあり」という機運が生じていたのだという。
コロナ禍の前のことだが、愛知県下にある中堅の自動車部品メーカーの経営者に聞くと「設計変更の依頼にしても、突然、夕方になって連絡を受けて、納品は明日の朝までという急な要求もあり、そのつど現場では大慌てで夜勤のためのシフトの組み替えをやらなければならない」と、ため息まじりに話した。
さらに、日野とダイハツは、歴代社長を含めてトヨタから送り込まれた人材が経営の中枢を担う。ダイハツの不正行為を発表した記者会見で、トヨタ出身の奥平総一郎社長も「(衝突試験の)担当の人間に、かなりのプレッシャーがかかっていた可能性がある」との見方を示したことも聞き逃せない発言である。
トヨタグループ、およびその傘下の部品メーカーは、従来から結束力の強さを身上としていた。が、その結束のベースにあったのは、お先棒をかつぐような忖度の類いではなく、何かが起こったらお互いにいつ袂を分かってもいいというほどの緊張関係だった。
ところが、近年はそうした緊張関係が薄らいでいるようにも感じる。メディアを巻き込んで作り上げた世間の評判とのズレもかなり大きいようで、現在のトヨタグループに蔓延する事大主義(強者に追随して自己保身を図ること)への懸念を抱く関係者も少なくない。
グループ全体で再発防止に向けての改革に取り組むトヨタ本体でも、内部では微妙な混乱が起こり始めている。鳴り物入りで発売した電気自動車「bZ4X」だが直後に品質問題が露見、その解決に数カ月も要したのは、その典型的な例と言えるだろう。
■トヨタへのご意見番が存在しなくなった?
今のトヨタグループには、耳の痛い話でもまずは聞き入れるという意識改革を推し進めることが重要だ
トヨタグループにとって一番大事なのは、自身の姿である立ち位置を正当に判断することである。
もちろん自分のことはなかなか自分ではわからないものだが、「トヨタは正しい」という虚像が先行したせいか、苦言を含めて本当のことをトヨタに直言する“ご意見番”が存在しなくなったことも事実。
本当のことはわかる人にだけ言うというのが処世術の基本のようだが、耳を貸さない相手にモノを言わなくなるのは当然のこと。グループの中に閉じこもって悩むより、外部とのコミュニケーションを再構築することが解決の糸口をつかむことにもなるだろう。
リーマンショック以降のトヨタはある意味で強運に恵まれてきた。大規模リコール問題など危機に直面することがあってもそれが悪い結果につながらず、ライバルが次々に失策を犯したこともあって、世界ナンバーワンの座は強固なものになっている。
大事なことは、その成功が実力なのか、まぐれなのかを虚栄心を排して素直な目で見定めることだが、頂点を極めると成功体験が頭をよぎり、自らを見つめ直すのは至難の業である。
しかし、4月からスタートした新体制に求められているのは、豊田会長のリーダーシップに頼るばかりではなく、会社全体で司令塔としての責任の重さを痛感し、耳の痛い話などを聞き入れる意識改革を徹底的に推し進めることではないだろうか。
それには会社としての器の大きさという点について、もう一段成長する必要もあるが、それが熟した時、初めてグループが本当の結束を取り戻し、強さが本物となるだろう。
(文/福田俊之)
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みんなのコメント
これが他社に起きたときこれでもかと叩きにきます
気持ち悪いですね
どうでもいい田舎の災害やビッグモーターより大事だろ?