「味のある」見た目のフロンテは3時間の自走もこなす
ピカピカに磨き上げられたヒストリックカーとは一線を画する見た目のスズキ「フロンテ360」を発見しました。知人のもとで不動車と化していたこのクルマを、手に余るということで託されたのがオーナーの町田さんです。お世辞にもコンクール・コンディションとは言い難いこのフロンテ。なにか理由があるのでしょうか?
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スズキを象徴する軽乗用車として長年にわたって親しまれたフロンテ
さる2024年4月14日、「20世紀ミーティング 2024年春季」が三条市内の三条パール金属スタジアム(市民球場)にて開催された。現地ではちょうど桜が満開という時期でもあり、主催者の発表では会場には来場者1万人が訪れたとされた当日の会場。車両展示スペースには比較的新しい年式のモデルも参加していたわけだが、やはり来場者の郷愁をさそうのは昭和30~40年代にかけての国産ヒストリックカーたちであろうか。会場で見かけた、そんな懐かしの国産ヒストリックカーの1台が、こちらのスズキ「フロンテ360」だ。
1909年に鈴木式織機として発足したスズキが、新規事業の柱として自動車の研究を始めたのは戦前のことだったが、実際に本格的な自動車メーカーに転進したのは第二次世界大戦後のこと。まず1952年にバイク用の2ストローク36cc単気筒エンジンを開発し、その販売から事業をスタート。さらに二輪の完成車製造を経て、1955年には念願の4輪車の販売を開始する。それが「スズライト」と名付けられたスズキ初の乗用車/ライトバン/ピックアップだ。1962年には大掛かりなマイナー・チェンジを行い、車名も「スズライト・フロンテ」となったのがこの時。以来、「フロンテ」はスズキを象徴する軽乗用車の名前として長年にわたって親しまれてきた。
FFだった先代から一転、リアエンジンの後輪駆動となった2代目フロンテ(LC10型)の生産時期は1967年~1970年だが、イベントに参加していたのは1969年式のスズキ「フロンテ360」だ。1960年代末期になると各軽自動車メーカーはいささか過剰とも思える馬力競争に陥り、フロンテにもハイチューンのスポーティ・グレードが投入される。中でも最も過激なSS/SSSグレードではリッターあたり100psとなる36psエンジンが搭載されて話題になったが、こちらの参加車両は軽乗用車本来の姿とも言える、マイルドな25psエンジンのスーパーデラックス・グレードである。
もともと不動車だったが今では自走で遠方のイベントに参加するほど
ヒストリックカーのイベントに参加される車両といえば、一般的には綺麗に磨き上げられたコンディション上々のものが多い。ところがこちらのフロンテはご覧の通り。お世辞にもコンクール・コンディションとは言い難いが、じつはこのような個体こそ、得てして多くのエピソードに彩られていることも多い。そこでオーナーの町田輝実(まちだてるみ)さんにお話を伺うことに。
「もともとは北海道にあった個体らしいです。それを兄貴の知人が手に入れたんですが、それが40年くらい前の話です」
それがどう言った経緯で町田さんのもとに?
「その知人のもとに長いこと保管されていたのですが、ほとんど乗られることもなく、結局不動車になっちゃったんですね。で、彼が“もう自分ではクルマの面倒を見切れないからお前に任せたい”と譲ってもらいました」
町田さんはもともと二輪趣味をお持ちで、古いメグロなどを乗ったりいじったりしていたので、彼ならなんとかしてくれるのではとお兄さんの知人に見込まれた形だ。
「かれこれ30年近く不動車だったので、路上復帰にはだいぶ手間暇がかかりました。自分の手元に来てからもう22年目になりますかね。そのあいだ少しずつ不具合を直していき、機械的な部分のトラブルは一通り潰して、現在はとても調子はいいです」
という町田さんのフロンテ360。実際、イベント当日もはるばる山形から3時間ほどかけて自走での参加という。
「高速でも85km/hくらいの巡航なら問題ありません」
と、見た目の「くたびれ感」とは裏腹に、機械としては至って堅調な町田さんのフロンテ360なのである。
「最近では各地のイベントに参加するのがメインの乗り方ですが、このボディだけはこのままにしおこうと思っています。自分の手元にやってくる前から何十年も付き合ってきた、この個体だけの風情なので」
ショップが仕上げたレストア済みの美車とはひと味異なる、オーナーとクルマの長い歴史を感じる1台。人もクルマも、見た目だけで判断しちゃあいけません。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを一冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)
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