現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 【映画人の愛したリムジン】ロールス・ロイス・ファントムV 当時最高峰の走るオフィス 後編

ここから本文です

【映画人の愛したリムジン】ロールス・ロイス・ファントムV 当時最高峰の走るオフィス 後編

掲載 更新
【映画人の愛したリムジン】ロールス・ロイス・ファントムV 当時最高峰の走るオフィス 後編

車重2.5t、0-100km/h加速13.8秒

執筆:Martin Buckley(マーティン・バックリー)

【画像】最高峰のリムジン ロールス・ロイス・ファントム Vと最新モデル 全50枚

撮影:Will Williams(ウィル・ウイリアムズ)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


ロールス・ロイス・ファントムVのオーナーとなった映画監督、マイケル・ウィナーで有名な作品といえば、「狼よさらば」や「ロサンゼルス」などの、デス・ウィッシュ・シリーズ。シルバーのベントレーT1など、高級モデルのコレクションを有していた。

彼はファントムVを大切にし、運転手としてマイケル・ホワイトと呼ばれる人物を雇った。恐らく、初代オーナーのハリー・サルツマンも、自身の手でロールス・ロイスのステアリングホイールを握ることはなかっただろう。

運転していれば、ロールス・ロイスの素晴らしさに改めて驚いたかもしれない。車重が2.5t以上あるクルマが、ボルボP1800と同等の13.8秒で静止状態から100km/hまで加速でき、同時にデリケートにロンドンの道路へ交われたのだから。

完成から56年が過ぎたが、このファントムVは大きなレストアを受けていない。必要なら本来の俊足も披露できる、手入れの行き届いた1台だ。フォーマルな世界で現役として走り、ストレッチされた白いハマーのようなクルマとは別次元の優雅さを漂わせる。

7シーター・リムジンとして、これ以上に妖艶なモデルは存在しただろうか。唯一、コーチビルダーのジェームズ・ヤング社が手掛けた、ツーリング・リムジンくらいではないかと思う。

多くのファントムVと同様に、フロントシートはレザー張り。リアシート側はウェスト・オブ・イングランドと呼ばれる柔らかなウール・クロスだ。コノリー・レザーで仕立てることも可能だったが、実際はオーナーの要望の殆どに対応できた。

理想より控えめなドラムブレーキ

スターターモーターは現代的なハイトルク・タイプに交換され、エンジンは一発始動。均一な囁きでアイドリングを始める。

ダッシュボードの構造は通常のクラウドとほぼ同じ。中央部分にメーターパネルが収まり、大径でスリムなステアリングホイール右側には、小物入れの空洞がある。

着座姿勢は背筋を伸ばしたコマンド・スタイル。ボンネットを見下ろせ、多くのリムジンとは違って、ドライバーが窮屈に感じたり居心地が悪いようなこともない。

エンジンは甘美に回り、ハイドラマティックと呼ばれるGM社製のオートマティックは、1940年代の基本設計であることを考えれば変速も滑らか。ファントムVの走行距離の短さを物語っている。

シルバークラウドIIIよりも低いアスクルレシオを与えることで、低速域での滑らかな走りと、活発な加速を実現させた。結果、最高速度は160km/hをわずかに超える程度へ制限されている。

車重は2721kg。現代版ファントムと、ほぼ同じ重さにある。

ブレーキは、重さとスピードを考えれば、本来備わるべきものより頼りない。トランスミッションで駆動されるサーボ・アシストが付くが、低速域での減速時でも、想像より強いペダル操作が求められる。

同じメカニズムを搭載するファントムやクラウドは、ドラムブレーキでも効果的に減速してくれる。でもファントムVを運転する場合は、注意が必要だ。

ファントムVの特等席はリアシート

パワーステアリングが付いているが、やはりファントムVでは有効とはいえない。それでも、スムーズなパワーウインドウを閉めた静かな車内で、全長6mもあるロールス・ロイスを気がつけば積極的に運転させていた。

ややオーバースピードでコーナリングを試みても、シャシーは許容してくれる。フロントタイヤが穏やかに滑り出すのに合わせて、アンダーステアへ流れていく。

もしショーファーがこんな運転をすれば、後ろに座る上司はウイスキーやソーダ水をスーツにこぼしてしまう。暗い週末を過ごす羽目になるだろう。

リアシートがファントムVの特等席。ゆったりとした掛け心地のソファが並ぶ。中央には大きなアームレストが付き、サイドウインドウやラジオ、ヒーター、ベンチレーションの操作スイッチが収まる。小物入れも。

サルツマンの次にオーナーとなったウイナーは、1980年代製のパイオニア社製オーディオを組んでいる。ちょっと場違いに思えるチョイスだ。

巨大なボディの質量を活かし、路面の起伏を鎮めるファントムV。乗り心地を楽しみながら、クロス・シートに身を委ねてきた著名人のことを想像する。恐らく、ジェームズ・ボンドを演じた俳優3名は間違いなく同乗したはず。

2代目ジェームズ・ボンドを演じたジョージ・レーゼンビーは、リアシートの灰皿が吸い殻で一杯になり、多くのボンドガールと一緒の時間を過ごしすぎたことで、サルツマンはクルマを売ったと冗談交じりに話している。

160km/hで走れる最高峰のオフィス

ウイナーも、似たような乗り方をしたのだろう。2012年、ファントムVはビジネスマンのアンドリュー・デイビスが購入。その後の9年間は、さほど丁寧に保管されてきたわけではなかったらしい。

映画監督2人を乗せたファントムVは、2021年のマナー・パーク・クラシックスで売りに出された。最高の輝きを取り戻すために、塗装やウッドパネル、レザーには、少なくない手当てが必要だったという。でも、躯体はしっかりしていた。

成功の証としてサルツマンが選んだ、ファントムV。忙しいショービジネスのタイクーンとともに移動するという、実用的な役割もちゃんと果たした。大金で幸福は買えないかもしれないが、毎日の厄介を遠ざけることはできる。

世界最高峰のリムジンは、160km/hで走れる比類ない移動オフィスになった。移動中のプライベート・ミーティングは、次のビッグ・プロジェクトを求めている精力的な人々へ響いたに違いない。

同時に、仕事が終わり豪邸へ戻る時、ファントムVはリラックスできる静かな時間を与えてくれた。ショーファー・ドリブンのファントムVには、金額だけの価値があると実感できていただろう。

銀幕のスターを幾人も乗せてきた、漆黒のロールス・ロイス・ファントムV。クライアントをディナーやプライベート上映へ招待するクルマとして、これほど相応しいモデルは思いつかない。

見事な職人技による威風堂々とした佇まいは、ほかでは叶えがたい情景を何度も生み出してきたのだろう。

ロールス・ロイス・ファントムV(1963~1969年/英国仕様)のスペック

英国価格:9517ポンド(1965年時)/7万ポンド(1064万円)前後(現在)
生産台数:112台(マリナー・パークウォード)
全長:6045mm
全幅:2006mm
全高:1765mm
最高速度:162km/h
0-97km/h加速:13.8秒
燃費:4.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:2721kg
パワートレイン:V型8気筒6230cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:202ps/4000rpm(予想)
最大トルク:−
ギアボックス:4速オートマティック

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

「これが売れなかったら四輪撤退…」→超ロングセラーに! 世界の「シビック」を生んだ“妙な納得感のある理論”とは
「これが売れなかったら四輪撤退…」→超ロングセラーに! 世界の「シビック」を生んだ“妙な納得感のある理論”とは
乗りものニュース
沼にハマる 『レトロモビル2025』でフランス車の魅力に迫る 高い技術力と芸術的デザインの融合
沼にハマる 『レトロモビル2025』でフランス車の魅力に迫る 高い技術力と芸術的デザインの融合
AUTOCAR JAPAN
トヨタ「86」&スバル「BRZ」用クラッチは「歯打ち音」を低減!「ヤリス」用は半クラが扱いやすい…待望のアイテムが「小倉クラッチ」からリリース!
トヨタ「86」&スバル「BRZ」用クラッチは「歯打ち音」を低減!「ヤリス」用は半クラが扱いやすい…待望のアイテムが「小倉クラッチ」からリリース!
Auto Messe Web
先端の「クマ」も再現 ブガッティ・タイプ57 S コルシカ(2) 受賞多数のオープンボディ
先端の「クマ」も再現 ブガッティ・タイプ57 S コルシカ(2) 受賞多数のオープンボディ
AUTOCAR JAPAN
帽子を焦がしたレーシングシャシー ブガッティ・タイプ57 S コルシカ(1) バラバラからの再生
帽子を焦がしたレーシングシャシー ブガッティ・タイプ57 S コルシカ(1) バラバラからの再生
AUTOCAR JAPAN
トヨタ勝田貴元、惜しくも優勝逃す2位フィニッシュ……3.8秒差で僚友エバンスに軍配|WRCラリー・スウェーデン
トヨタ勝田貴元、惜しくも優勝逃す2位フィニッシュ……3.8秒差で僚友エバンスに軍配|WRCラリー・スウェーデン
motorsport.com 日本版
スズキの超ハイルーフ「本格SUV」に期待大!「ジムニー」超える“悪路走破性”に「まるで軍用車!?」な斬新デザイン採用! 日常から“アウトドア”まで大活躍の「エックスヘッド」コンセプトがカッコイイ!
スズキの超ハイルーフ「本格SUV」に期待大!「ジムニー」超える“悪路走破性”に「まるで軍用車!?」な斬新デザイン採用! 日常から“アウトドア”まで大活躍の「エックスヘッド」コンセプトがカッコイイ!
くるまのニュース
10トン超えのバッテリーを搭載して航続距離500km……ってホントにエコ? 大型トラックはBEVよりもFCVのほうが最適解
10トン超えのバッテリーを搭載して航続距離500km……ってホントにエコ? 大型トラックはBEVよりもFCVのほうが最適解
WEB CARTOP
被災3年…ついに架設スタート! 阿武隈川を渡る国道399号“軽くなる”新しい橋の姿は?
被災3年…ついに架設スタート! 阿武隈川を渡る国道399号“軽くなる”新しい橋の姿は?
乗りものニュース
“ランクル250”をハードコアにカスタマイズ!? オフロードチューニングのスペシャリストが最新コンプリートカー「AT37」を発表!
“ランクル250”をハードコアにカスタマイズ!? オフロードチューニングのスペシャリストが最新コンプリートカー「AT37」を発表!
VAGUE
FDJ2がMIDホイール一色に! 公式ワンメイク化でドリフトシーンに新時代到来!!…大阪オートメッセ2025
FDJ2がMIDホイール一色に! 公式ワンメイク化でドリフトシーンに新時代到来!!…大阪オートメッセ2025
レスポンス
【特集】レッドブルの非情なドライバー育成……しかし彼ら以上にドライバー育成に注力してきた存在はゼロ
【特集】レッドブルの非情なドライバー育成……しかし彼ら以上にドライバー育成に注力してきた存在はゼロ
motorsport.com 日本版
前の車との「車間距離」めちゃ大事! でも運転中「どうやって」測る!? 「高速」や「一般道」で適切な車間を取る方法とは
前の車との「車間距離」めちゃ大事! でも運転中「どうやって」測る!? 「高速」や「一般道」で適切な車間を取る方法とは
くるまのニュース
まるでリアルRPG!? 目指せ鈴鹿8耐優勝! レーシングライダー石塚健が新チーム立ち上げを発表
まるでリアルRPG!? 目指せ鈴鹿8耐優勝! レーシングライダー石塚健が新チーム立ち上げを発表
バイクのニュース
デジタル装備が進化、走行性能もアップ!フリークも納得した新型「ゴルフ8.5 GTI」の高い実力
デジタル装備が進化、走行性能もアップ!フリークも納得した新型「ゴルフ8.5 GTI」の高い実力
@DIME
【MotoGP】ホンダは思ったより大丈夫? アプリリアから加入のアルベシアーノ「革命は必要ない」
【MotoGP】ホンダは思ったより大丈夫? アプリリアから加入のアルベシアーノ「革命は必要ない」
motorsport.com 日本版
「これが普段使い!?」メルセデスAMG A35が“異次元”サウンドマシンに進化 Pro Shop インストール・レビュー by レジェーラ 後編
「これが普段使い!?」メルセデスAMG A35が“異次元”サウンドマシンに進化 Pro Shop インストール・レビュー by レジェーラ 後編
レスポンス
スーパーフォーミュラの改革は話題づくりだけじゃない。さらなる発展に不可欠な“制度整備”……ハンドボールリーグ元事務局長が荒地を耕す
スーパーフォーミュラの改革は話題づくりだけじゃない。さらなる発展に不可欠な“制度整備”……ハンドボールリーグ元事務局長が荒地を耕す
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

5680.06780.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1177.08680.0万円

中古車を検索
ファントムの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

5680.06780.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1177.08680.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村