何気なく使っているサイドブレーキですが、最近では手動ではなく、スイッチひとつで作動・解除する電動パーキングブレーキが増えてきました。
なぜ電動パーキングブレーキが増えてきたのでしょうか? 昔ながらのサイドブレーキではダメなのでしょうか?
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電動パーキングブレーキは、なんとなく止まった感じがしないのと、押すのか引くのか時々わからなくなったりで、イマイチ慣れないと思っている人も多いのではないでしょうか?
そんなサイドブレーキにまつわる最新事情を、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説します。
文/高根英幸
写真/ベストカーWeb編集部、Adobe Stock
■駐車時の固定装置、サイドブレーキは便利だけど問題点も多かった
サイドブレーキは、停車中にクルマが不用意に動かないために後輪を固定しておく装置で、ほぼどんなクルマにも装備されている駐車装置だ。そもそもは後輪が固定力の強いドラムブレーキだったクルマが多く、フットブレーキの液圧とは異なるワイヤーでドラムブレーキを作動させて、駐車時にクルマを固定するために利用していたものだ。
クルマの変速操作がコラムシフトだった頃は、コラム下に装備されたステッキ式だったことからハンドブレーキと呼ばれていたが、フロアシフトが一般的になりドライバーの側方にレバーが備えられたことからサイドブレーキと呼ばれるようになった。
今ではパーキングブレーキと呼ばれることが多い。それは足踏み式で解除はダッシュ下のノブを引くタイプが増えてきたことや、作動も解除もスイッチのオンオフで行なう電動式が登場したからだ。
そのためダッシュ下、あるいはセンターコンソールやシフトレバーのすぐ横など、車種によってパーキングブレーキのスイッチ位置が違うので、我々自動車雑誌関係者はさまざまなクルマを乗り換えて取材する機会も多いことから、乗る度にパーキングブレーキのスイッチを探し、押して作動か引いて作動か確認する必要がある(シフト操作もそうですが)ほどだ。
■電動パーキングブレーキの位置もクルマによってまちまち
自動車メーカーや開発を担当するチーフエンジニアによって、ユーザーが使いやすい位置、インテリアのデザインなどからパーキングブレーキのスイッチ位置を決めているが、それが車種によってまちまちなのだ。
カーシェアリングなど、状況によっていろいろな車種を利用するユーザーも多くなっていることから、今後はこのあたりの操作方法もメーカー間で統一してもらった方が、使い勝手という点については確実に高まりそうである。
またATのP(パーキング)レンジをブレーキと勘違いする人も多く、Pレンジだけでクルマを止めてしまう人もいる。これはATが普及するにつれて増えてきたようで、ズボラな運転をするドライバーが増えてきたため(そもそもAT自体が、そういうユーザーを獲得するためのものだったのかもしれないが)、変速機メーカーはPレンジでしっかりと変速機内部をロックできるようにするだけでなく、サイドブレーキをしないユーザーのために、ロック機構の強度や耐久性を高める努力も行っているのだ。それでも手荒な操作はATの寿命を縮めるだけに、確実で丁寧な操作をしたいものである。
電動パーキングブレーキ(EPB)になってからは、Pレンジにシフトすると自動的にパーキングブレーキも作動する賢いクルマも増えてきた。
従来のサイドブレーキは手でレバーを引っ張ったり、足でペダルを踏んだりすることで作動させるのだが、特に手で引っ張るサイドブレーキは力を入れて引っ張る必要がある上に、引きすぎるとワイヤーが伸びていってしまう。
2、3ノッチ引けば十分に利くのだが、勢いよく引いてしまうためについつい多めに引いてしまうユーザーも多いのだ。するとワイヤーが伸び続け、ついには切れてしまうこともある(ラリーやドリフトなど競技用のマシンはフットブレーキと同じ液圧式のブレーキにして利きと耐久性を高めているものもある)。
またサイドブレーキは戻し忘れて走行を続けてしまうことによってブレーキを焼いてしまって、最悪は車両火災を起こす原因にもなってしまうこともある。EPBは、そうした従来のサイドブレーキが抱えていた問題点を解決しているのだ。
■電動パーキングブレーキはディスクとドラムブレーキで構造が大きく異なる
EPB(電動パーキングブレーキ)は、構造によって2種類に大別することができる。1つは従来のサイドブレーキのワイヤーを電動モーターで巻き取るようにしたタイプ。これはEPBを作動させた時にウィーンとワイヤーを巻き取るモーターの音が聞こえると同時にリアサスが引っ張られて若干沈み込む(リアサスのピボット位置とパーキングブレーキの巻き取り&ブレーキ位置の位相から起こる)のも、この形式の特徴だ(とはいえ車種によって差はある)。
もう1つはディスクブレーキのキャリパーに直接モーターを組み込み、モーターでキャリパーピストンを駆動させてパーキングブレーキとしているタイプ。
今ではコストダウンも進んだため、圧倒的にこちらのほうが多くなっている。ドラムブレーキは構造上、モーターを組み込むのが難しいので、EPBを採用する場合はワイヤー巻き取り式にする場合が圧倒的に多い。
つまり、EPBは四輪ディスクブレーキの、どちらかといえば高級車向けの装備なのである。それでもドラムブレーキでもEPBを採用している車種があるのは、構造はともかく使い勝手を向上させたり、高級感を演出したいためだ。また日産リーフ(初代)のように「EVらしさをアピールするために、EPBを採用している。
■電動パーキングブレーキのメリットとは?
EPBのメリットは、スイッチ1つで操作できるので、力がいらないことと、スイッチのレイアウトの自由度が高いこと。また作動させたまま走行してしまっても警告などが出るため、戻し忘れたまま走り続けるようなことはまずないし、最近はDレンジでアクセルを踏むと自動的に解除してくれる車種も増えてきた。
さらにEPBは単にスイッチでモーターを駆動させてパーキングブレーキの作動と解除をしているだけじゃなく、いろいろな状況に応じて細かい制御の調整を行なっている。道路の傾斜をセンサーで検知して、確実に固定できるようブレーキの強さを調整してくれる。
Pレンジに入れるだけでパーキングブレーキを作動させたり、前述のようにブレーキペダルを踏んだ状態でDレンジにシフトするとパーキングブレーキを解除し、さらに道路が傾斜していれば、坂道発進などでズルズル下がらないようにヒルホールドを作動。
ヒルホールドなどの機能は電動パーキングとは別の、EBS(電子制御式ブレーキシステム)で液圧の制御により行なっているクルマもある。高級車ほど、様々な制御を複雑に組み合せて快適性と安全性を高めているのだ。
■電動パーキングブレーキの弱点は、いざという時にサイドターンが使えない?
ではEPBに難点はないかというと、そんなことはない。最大の難点は「サイドターンが使えない」ということだ。
別名スピンターンとも呼ばれるこのドライビングテクニックは、走行中に前輪に荷重を移すと同時にステアリングを切り、旋回モーメントが立ち上がったところでサイドブレーキを引いてリアタイヤをブレークさせ、一気にクルマの向きを変えるというもの。ジムカーナの180度ターンや360度ターンで使われるドラテクだ。
別にジムカーナに出場する訳じゃないし、と思う人もいるかもしれないが、ドイツでは緊急回避のテクニックとしてクルマの向きを変えるサイドターンをドライバートレーニングなどで教える。欧州の寒冷地などでもステアリングが利かなくなった時にサイドブレーキで向きを変えてコントロールするテクニックは一般的だ。
EPBでは車速が0の状態でなければ作動しないため、この技が事実上使えない。スイッチを作動させても警告音が出てキャンセルされるだけ、というクルマもある。最近は長押しすることで作動できる車種もあるが、この場合はワイヤーを手動で引くのとは異なり、かなり遅れて作動するので思うようにコントロールするのは難しい。
BMWは走行中に長押しなどの操作をすると、ドライバーが急に体調不良となり助手席の乗員(エアバッグ用にシートにもセンサーがあり乗車の有無が判別できる)が操作したと判断すれば、緊急ブレーキとして四輪のブレーキを作動させるようだ。これは前述のEBSとEPBが連携しているからこそ、実現できる制御だろう。
現時点でサイドターンが可能なEPBを採用しているのが確認できたのは、ポルシェだけだ。これもデフォルトの状態ではキャンセルされるが、スポーツモードを選んだ時には走行中でもEPBが使え、スイッチを作動させれば即座に制動力が立ち上がるので、サイドターンも可能になっている。
最近のクルマはESC(横滑り防止装置)など、クルマの方で姿勢を制御する技術が盛り込まれているので、サイドターンを一般道で使うような状況は自動車メーカーは想定していないのだろう。
しかし、最終的には運転の責任はドライバーが負うのであれば、危険を回避できる手段としてサイドターンが使える選択肢も残しておいてほしいものだ。
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