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安泰か 荊の道か?? 新トヨタのEV反撃戦略で「2030年に350万台」は成るのか

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安泰か 荊の道か?? 新トヨタのEV反撃戦略で「2030年に350万台」は成るのか

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。

 第二十回目となる今回は、 2023年6月8日に開かれた、トヨタの先行技術説明会「トヨタ・テクニカルワークショップ2023」から。「2030年・EV350万台」を目指すトヨタの“初手”は、中西氏の目にどう映ったのか?

安泰か 荊の道か?? 新トヨタのEV反撃戦略で「2030年に350万台」は成るのか

※本稿は2023年6月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA
初出:『ベストカー』2023年7月26日号

■「2030年にEV350万台」の技術基盤を示したが…

トヨタのプラットフォーム別EV販売計画(トヨタ発表資料よりナカニシ自動車産業リサーチ作成)

 2023年6月上旬、トヨタは静岡県の東富士研究所にジャーナリスト、アナリストを招き、包括的なマルチパスウェイ(全方位)戦略を支える技術開発を説明する「トヨタ テクニカル・ワークショップ2023」を開催しました。

 その情報量の多さに圧倒され、まさにドラえもんに登場する「ジャイアン」のあだ名どおり、押しが強くガンガンと物事を進めるチーフテクノロジーオフィサー(CTO)兼副社長・中嶋裕樹氏の仕事の進め方が如実に表われる渾身のイベントとなりました。

 重要な発表内容は大きく5つに整理できます。

 第1に、2026年までのEVへの取り組み。

 第2に、新組織である「BEVファクトリー」が進める2026年からの次世代EVへの取り組み。

 第3に、5種類の電池開発のロードマップ。

 第4に、ビークルOSとOTA(オーバー・ジ・エア、通信を用いたソフトウェアアップデート)による提供価値。

 第5に、水素、燃料電池、合成燃料などのマルチパスウェイ戦略を支える全方位のカーボンニュートラル技術です。

 トヨタのEV戦略は、

1)bZ4Xのベースとなる現行EV専用プラットフォーム(P/F)のe-TNGA、
2)「マルチパスウェイP/F」と名付けられた、カムリやクラウンの基盤である「GA-K」ベースのEV群、
3)2026年に頭出しする次世代EV専用プラットフォーム

の3層構造となっています。

 2026年までのEV150万台目線はe-TNGAとマルチパスウェイP/Fで実現させ、2030年には次世代EV専用P/Fで170万台、e-TNGAとマルチパスウェイP/Fで180万台の合計350万台の達成を目指します。

 マルチパスウェイP/Fはハイエンド向けのEV商品展開の幅が広がり、既存工場でガソリン車と簡単に混流生産できるため、投資負担も小さく、中間目標の150万台の実現に向けて重要な進展となりそうです。

■生産工程と工場投資が半分になる

 次世代EV専用P/Fを開発する「BEVファクトリー」のプレジデントに就任した加藤武郎氏が、緊張した面持ちで初のプレゼンテーションに立ちました。

BEVファクトリーを率いる加藤武郎氏も登壇

 次世代EV専用P/Fは、e-TNGAと同様の考えで3分割の新モジュール構造を採用し、最大の狙いはセンターモジュールで電池の進化を柔軟に受け止める考えが示されました。

 廉価なリン酸鉄を正極材に用いるLFP系電池と全固体電池を含め、トヨタは5つの新開発電池を2026年から2028年に開発する意気込みを示しています。

 車体構造には「ギガプレス(大規模なアルミダイキャスト)」を採用し、部品統合を実現させます。

 ギガプレスは、現在多くのEVメーカーが採用に向かう自動車製造の新しいプロセスで、トヨタもそれに遅れることなく追随します。

新生産技術の「ギガキャスト構造」。左が従来のプレス構造(86部品、33工程)で右が新構造(1部品、1工程)

 テスラは171個のボディ部品をギガプレスで一体成型して、わずか2つのボディ構造部品へ統合しています。トヨタの次世代EV専用P/Fでも同様にフロントとリアの2つのボディ構造へ統合度を高めます。

 さらに、次世代EVの組み立て工程においては車両を吊り下げるハンガーや搬送のパレットを用いず、車両自らが工程を自走する新生産方式を採用します。

 これによって、EV専用工場設置の段取りは大幅な自由度の高まりと時間の短縮が可能となり、工程数と工場投資を半減させることができるようになります。

 ビークルOSの「アリーン」を用いて、クルマ屋らしいファンtoドライブなクルマへ磨き上げる多くの新しいOTA価値も提案されました。

 自前主義にこだわった次世代音声認識システムを採用し、即応答性に加えて、クルマ屋らしい200種以上の車両制御の操作性に優位性を見出そうとするところが特徴的でした。

 2026年の次世代EV専用P/Fと同時にアリーンOSを完成させ、OTAを用いた提供価値を拡大させる考えです。

 乗り味やエンジン音をオンデマンドで変更し、最高級のレクサスLFAからパッソまでのドライブ体験を1台のEVで提供したり、ソフトとハードのアップデートを施し、MT車の走行体験を得られるEVも開発を進めています。

1台のクルマでさまざまな乗り味やエンジン音を楽しめるシステムを組み込んだ実験車も用意されていた

■EVシフトに残された時間は変わらない

 2026年に150万台、2030年に350万台というEV販売台数の目線は決して「はったり」ではなく、高みに到達できる包括的な技術開発の基盤があるという、トヨタのEVへのやる気と自信が示されました。

 いかにトヨタが本気でEVを拡大させ、経営の持続可能性とマルチパスウェイ(全方位)戦略の基盤を強化しようと考えているかを理解するよいイベントとなりました。

 ただし、「これでトヨタも安泰」と楽観することはできません。

 第1に、電池技術の多くは自前主義で開発・生産が行われるため、自前で5つの電池開発を進めながら、大規模な量産を進めていくことは至難の業となります。

 第2に、EV戦略を遂行するにはトヨタ社内の意識改革、グループ企業の構造改革への邁進など内なる改革が不可欠となります。変革に立ち向かうグループ企業の覚悟が伴わなければ変革へのスピードを失う懸念があります。

 第3に、高価格帯EVへのソリューションは揃っていますが、カローラやRAV4クラスの普及版EVでトヨタがどのような提供価値を示し、そこにコスト競争力を見出そうとしているのか、それはまだ煮詰まっていない印象が残ります。

 最後に、EVシフトに向けて残された時間には変化はないのです。

 抜本的なEV強化が2026年から始まることを考慮すれば、2026年から2028年に向けて著しく強化される米国のGHG(温室効果ガス)規制、カリフォルニア州が主導するZEV(ゼロエミッションビークル)規制の対応に、トヨタは相当難しいかじ取りが必要となりそうです。

●これまでの連載はこちらから!

●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数

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みんなのコメント

101件
  • EVは数字だすのに水素は全く数字を出さない
    信者は水素水素って言うが誰も買わない信者達
    EV批判はするが水素批判は全くしない信者達
    でも水素は買わない信者達
    どうなっとんねん
  • どうせ途中で路線変更する
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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