純日本流の風格と気品を備えたスタイル
画像ギャラリーのカタログ写真に何気なく一緒に写してあるのは、筆者所有のトヨタ「センチュリー」のミニチュアカーだ。40分の1スケールのヨネザワのダイヤペットのシリーズ(のおそらく初期の製品)で、小学生の頃、晴海の東京モーターショーの帰りに東京駅・大丸の玩具売り場で親に買ってもらったものだろう。このミニチュアカーに関して言えばセンチュリーでしかもドアが4枚開閉する(ボンネット、トランクも開閉)ところにも惹かれたのだと思う。さらにグリルや窓枠にホイールアーチのシルバーは、小学生当時の自分がレベルカラーか何かのプラモデルの塗料を使ってフリーハンドでマスキングもせずに差したものだ。まさかそのウン十年後の大人になってこのミニチュアカーのことを仕事で原稿に書くことになろうとは当時は夢にも思っていなかったはずだが、子ども心にセンチュリーの姿がステキでインパクトもあったのだろう。ライバルの初代日産「プレジデント」がアメリカナイズされたスタイルだったのに対し、鳳凰のオーナメントも誇らしく、純日本流の新しさ、風格、気品のあるスタイルがじつに素晴らしい……と、このミニチュアカーを手にとり眺めながら肌で感じていたような気がする。
トヨタ「センチュリー」はSUVではなくVIPです! ジャンクションプロデュース改で伝統の悪っぽさを演出しました
豊田佐吉の生誕100年を記念してネーミング
そんな初代センチュリーが登場したのは1967年(昭和42年)のこと。当時のニュースリリースでは、
「従来のクラウンエイトに代わるものであるが、全く新たなスタイル、性能、居住性、すべてにトヨタ技術の粋を結集して設計されており、世界の豪華車を目ざす車である(原文ママ)」
と紹介されている。初代センチュリーの前身は、「クラウン」が2世代目だった時代の1964年に登場した「クラウンエイト」で、このクルマは当時のクラウンに対してボディ全幅を150mm拡幅、日本車として初めてV8エンジン(2600cc)を搭載。法人需要などに向けて3834台が生産されたモデルだった。そのクラウンエイトに対してサイズでみると全長+260mm、全幅+45mm、ホイールベース+120mm拡大したのがセンチュリーである。
開発をまとめたのは、初代、2代目クラウン(クラウンエイト)も手がけた中村健也主査だった。なお車名のセンチュリーは発表の1967年がトヨタの創設者・豊田佐吉の生誕100年にあたることから名付けられたもの。シンボルのオーナメントは平等院・鳳凰堂に由来する。
当時のリリースにも「日本を代表する最高級大型乗用車にふさわしく、クラシックな荘重さをただよわせる独創的なスタイル」と記されているスタイルは、とにかく存在感のあるものだった。同じリリースには
「トヨタには、パブリカ、カローラ、コロナ、クラウン、センチュリーと、大衆車から、超高級車まで、あらゆる層にかなう車種がそろったことになる」
とも。この時代のトヨタがわずか5車種しか持たなかったことにも改めて驚かされるが、他の4車種ともまったく異なる文脈で仕上げられたセンチュリーのスタイルは、創造性にあふれたものだったといえる。なおカタログ写真をご紹介しているが、途中、1982年のマイナーチェンジでフロントグリル、ヘッドライトなどのデザインの小変更を受けるも、2代目の登場まで、(途中で追加のあったリムジンを除けば)じつに30年も基本的なスタイルはそのままだった。
充実を極めた快適装備も日本最高峰
一方でエンジンは当初からV8を搭載。排気量でみると3L(3V型)→3.4L(4V-U型、4V-EU型)→4L(5V-EU型)へと拡大した。
メカニズムでは、日本初のエアサスペンションをフロント側のトレーリングアームに組み合わせて採用。高低2段階切り換え式のラジエターファン、フロントの4ポットベンチレーテッドディスクブレーキ、パワーステアリングといった機能が当初から投入されていた。
もちろん装備面も、高級乗用車らしく充実したもの。この時代にして対向車に応じてヘッドライトのハイ/ロービームの切り換えを行なうコンライトをはじめ、オートドライブ、電磁式オートドアロック、オートマチックエアコンディショナー(空気清浄機も装備。カタログにはエアピュリファイアの単語も使われている)など。6ウェイ式パワーベンチシートも備えた。またシート関連では、古代布を当時の感覚で織り上げたという、浮き彫りにされた紋様(王朝紋)の布地を表皮に用い、天井も含めすべて布張りとした上質感を追求したものとなっていた。
またマイナーチェンジ後のモデルでは装備が一層の充実度をみせた。とくに後席に関してはアームレスト部に、なんとラジオ番組の録音やマイクミキシング/録音も可能なカセットデッキが用意されていたほか、ワイヤレスリモコンチューナー、後席エアコンコントロールなども。後席自体もバイブレーター、ヒーター、シートバックに2段折れ機構を備えたパワーラウンジシートなどが当然のように備えられた。なおドアロック、パワーウインドウ、パワーシート、シートヒーターなどの機能は光ファイバーにより集中制御されているという先進ぶりも見られた。
2代目センチュリーも20年とロングライフだった。だが、初代センチュリーの30年という長寿は、今の時代ではちょっと想像がつかない。いい時代のいいクルマで、だからこそ、それだけ長く愛されたということなのだろう。
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